3 オプションと選択
「それじゃあ、三嶋君の生前を確認するから少しの間目を閉じなさい」
言われた通りに目を閉じれば、瞼に暖かな掌の温度を感じた。そして、すぐに「もう開けても構わぬよ」と言う声が聞こえた。
「あの、もう終わったんですか?」
「うむ。言ったじゃろう。魂の選別が主な役割じゃと。これくらい朝飯前じゃよ」
どこか誇らしげに話す三鷹さんにつられるように、俺も自然と笑みが浮かぶ。
「さて、君の生前から判定して、三嶋君は今から話す五種の内から四つから二つの能力をその身に付与することが可能じゃ。一つだけ選ぶことは叶わぬ。
一つ、病気耐性。病気のなりやすさは現地の者と然程変わらんが、大抵の病に罹っても、軽い症状で済む。
二つ、予防効果。これは病気になりにくくなると言うものじゃ。ただし、先の病気耐性とは異なり、一度罹れば症状がはっきりと出る。場合によっては現地の者以上に悪化した症状にもなり得る。その代わり、一度罹った病には罹りにくくなる。
三つ、肉体・成長の最適化。転生した肉体を、その肉体における最も理想的な状態に出来る。健康優良と言うものじゃな。また、鍛錬をすれば、それだけすぐに肉体に反映される。ただし、不摂生な生活を送ると効果は薄れる。
四つ、言語理解。向こうの言葉なら大抵なら理解出来る。自国以外の言葉も読み書き出来るようになるぞ。
五つ、肉体操作。これは一流の戦闘技能、職工技能が覚えられる。いわゆる才能と呼ばれる域の芸当が可能じゃ。
それと、能力を二つしか選ばない場合、今回は生まれ落ちる先を少しだけ選べるとのことじゃ。どのくらい選べるかは儂にも分からぬ」
「そうですか。迷いますね」
眉根を寄せて呻くように呟けば、カラカラと笑いながら「時間の制限はないから、ゆっくり決めなさい」と言ってくれた。
それにしても、本当に迷う。
生まれる先を選べるのなら選びたい。その方が安心出来る。もし生まれた所が戦争ばかりするような所だったら、長生き出来そうにない。でも、三鷹さんの話ではどのくらい選べるのかは不明らしい。
「あぁ、それと言い忘れておったが、生まれる先を選択しない場合、性別もこちらで適当に割り振ることになっておるぞ」
ぐ、性別の問題はキツイ。もし女に生まれ変わってしまったら…。だめだ、とても生きていけない。でも、三鷹さんどのくらい選べるかは分からないって話だったよな。性別は確定出来るのか? 確認しておこう。
「生まれる先を選べば性別は選択出来るんですか?」
「可能じゃよ。これは確定しておる。他に質問はないかの?」
「そうですね…。三鷹さんのオススメの能力とかって、この中にあったりしますか?」
神様の意見も聞いてみる。専門外だから分からないと言われる可能性も十分あるが。。
「ううむ、そうじゃのぅ…。特にないの。三嶋君の選択肢はどれも比較的あっても役立つものじゃ。以前転生した者に比べたら、大分恵まれておるし、好きに選べば良いと思うぞ。なんせ祟りしかなかったからのぅ」
まさかの祟りオンリー。
以前の人、ご愁傷様。
それに比べたら、確かに俺の選択肢は恵まれている。間違っても祟りじゃないもんな。
「それでしたら、能力の注意点などを教えて頂けませんか?」
「注意点か…。おぉ、そう言えば、生まれた先を選んでから能力の選択が可能じゃぞ」
聞いておいて良かった。三鷹さん、結構大事なこと説明し忘れてますよ。
「あと、肉体の最適化じゃが、遺伝するような病気を取り去った状態で生まれることが可能じゃし、子供に遺伝させることもない。それと、最適化した場合物凄い不細工になる可能性もある。あくまで肉体の性能を重視したものじゃからの。遺伝子の不思議を体感出来るぞ」
「いやぁ、そんな所で遺伝子様の神秘は知りたくないです」
聞けて良かった。長短がかなりすごいじゃないですか、三鷹さん。
その後取り留めのない話をしつつ、注意点や補足説明を聞いた。
男として生まれたいので、選べる能力は二つ。生まれた先を選んでからでも選べるとは言え、悩みどころだ。特に肉体の最適化。これは本当に迷う。地球にだって遺伝してしまう病があるのだ。異世界にないわけがない。下手をしたら、それが不治の病の可能性もある。生まれ変わった後も早死にはしたくない。
「そうしたら、生まれる性別は男で確定するが本当に良いかの?」
「はい」
俺の言葉に頷きながら、また懐から懐紙を取り出し、筆で何かを書き込んでいく。
「転生先を選んでから能力を選ぶんじゃったな。そうしたら、転生先の異世界をこのまま見に行くが、心の準備は良いか?」
「はい」
先ほどより、上ずった声で答える。緊張してきた。
「うむ。では行くかの。先ほども言ったが、異世界へ赴く際、最初にその世界を管轄する神に挨拶をする決まりになっておる。また、能力の選別もそこで行う。
挨拶をするのは神である儂の役目じゃから、無礼な態度さえ取らなければ三嶋君は何もせずとも大丈夫じゃ。
三嶋君を受け入れる世界の選定はあくまで向こうの方じゃ。質問をされるかもしれぬが、その場合は例え君の望まぬ展開になろうとも、嘘偽りなく答えるのじゃよ。そこさえ厳守すれば、滅多なことにはならぬからの」
「あはは、分かりました。肝に銘じておきます」
引きつった笑いを浮かべながら答えれば、肩を軽くポンポンと叩かれる。
「安心せい。君はなかなかに幸運がついておる。悪いようにはならん」
安心させるかのように、にっこりと三鷹さんは笑いかけてくれた。少しだけ、緊張が解れた気がする。
「では、行くぞ。目を閉じなさい」