13 市場での拾いもの
「これと、そこのミルツグの実を四つ、後はオオクキの干した物を十個程包んでおくれな。なるべく色味の良いのを頼むよ」
「あぁ、そこの丸い実はなんだい? へぇ、珍しい。じゃあ、それを二つほど」
「ロロルリ豆とマザルガ豆を升一杯づつおくれ」
市場を渡り歩きながら、チュークさんが次々に新鮮な果実や野菜、豆などを買っていく。最初に買った底の深めの楕円の藤の籠は、中身が色鮮やかなことになっている。それにしても、またもや体積よりも内容量の方が大きい。
チュークさんの魔法は、本当は空間魔法なのでは?
と思わず唸ってしまうほどに、買った物の量と籠の大きさが釣り合ってない。
チュークさんは露店の店主達とは皆馴染みらしく、親しげな様子でオススメなどを教えられていたりした。値切りも手早く、その間に軽く世間話をしながら買い物を済ませてゆく。
チュークさんが小鳥よろしくな勢いであちこちに移り歩く中、俺は母さんと二人で露店の玩具を吟味していた。
「坊主、気に入ったのはあったか?」
初老に差し掛かるであろう、黒髪に白髪が混じり始めた髪をした露店の主人が、煙管片手に尋ねる。
「まーだー」
こちらは真剣勝負。一期一会の心持ちで選んでいるのだ。もう少し時間がかかる。
「ほれ、シュルッカのとこの奥さん。坊主はまだまだ吟味する様だ。今茶でも淹れるから空いたとこに適当に座っときな。坊主の分も淹れてやる」
「あら、わざわざすみません。でも、お邪魔ではありませんか?」
「なに。気にするな。この程度のことよくあることさ。シャールのあねさんにも世話になっているしな。それに俺も茶が飲みたいしよ。水出しのマバ茶でいいかい?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「いいってことよ。それよか、今日ここに足を運んだのはキルックのとこの奥さんを尋ねるためかい?」
「えぇ。お見舞いはまだ品を見繕っているので、また今度になりますが。
代わりに、今日は息子を紹介しに行こうと思って。巫女様の祝福も無事授けられましたから」
「そりゃあ良い。辛気臭い空気も、この坊主の顔見りゃ和むだろうよ。鼻筋や金の瞳やシュルッカの旦那そっくりだし、この白い肌はお前さん譲りだろう? 両親の面影を感じられる、良い息子だな」
「ふふ。ありがとうございます。きっと将来はシュルッカ様によく似た、頼り甲斐のある男になりますよ」
「あぁ、違いねぇ。将来が楽しみだ。
ほれ、茶だ。あと、こっちが坊主の分な」
「ありがとうございます。ほら、アージ。ファルタ(「おじさん」の敬称)からお茶を頂いたから、ありがとうしましょうね?」
「あーとー」
店主のおじさんから、竹の容れ物に入れられていたお茶をもらう。
木製のコップになみなみと注がれ、香ばしい香りが鼻をくすぐる。木製のコップは俺にはまだ大きいため、母さんがそっと支えるようにして飲ませてくれた。全部は飲みきれないので、休み休み飲む。その間に母さん達も喉を潤す。
マバの豆を煎っただけのお茶だが、美味い。香りと味は麦茶に似ているが、それよりも甘く、後味が良い。 ここでは日本の初夏のような気温が常であるため、マバ茶のような水出し茶も豊富に種類があり、普段から飲まれている。かつての地元と違い、湿気があまりないため、過ごしやすい。
さて、また吟味に戻るか。
「見舞いの品はまだ見繕っているって話だよな?」
「えぇ。お義母様達にもご意見を伺わないといけませんし」
俺が玩具の吟味に戻ると、店主と母さんが世間話を始めたようだ。これなら、多少時間がかかっても大丈夫だろう。
どれも木で作られた人形で、色付はされておらず、木目がよく分かる。動物が多いが、コースターのような六角形の板に、花を彫られた物もちらほら見える。
どれもありふれたものであるのだろう。似たようなものを、アイリ兄さん達が持っているのを見たことがある。だが、それを分かっていて尚、自分でも不思議に思うほど好奇心が尽きないのだ。
『し、死んじまう』
どこからか細い、かつかなり切羽詰った声が聞こえた。周囲を伺うが、それらしい声を上げた人物は見えない。気のせいだと言うには、かなり耳に残っている。
『こんなんじゃ条件を満せねぇよ、こんにゃろう』
下の方から、先ほどの声が聞こえた。恨めしげな内容だ。
見れば、玩具に混ざって、ボロボロになった痩せた雀らしき小鳥がいた。いつの間に来たのだろう。
『俺っちはもう、こんな所で野たれ死ぬしかねーみたいだ。うぅ。何の因果でこんな目に。せめて人間として死にたかったのによぅ』
フルフルと震えながら、そんなことを雀もどきが零す。この世界の小鳥は喋らない筈だ。俺は気になって、その雀もどきをじっと見た。すると向こうも気づいたらしく、弱々しくも睨み返してきた。なんかやけっぱちな感じがヒシヒシとする。
『おら、ガキンチョ。見せもんじゃねーぞ、こら! 俺っちは今はこんななりでも、この世界に来る前はてめぇよかいい男だったんだぞ! って、言ってもどーせ分からねーだろうけどよ!』
『人間だったの?』
『な!? ガキンチョ、お前、俺っちの言葉が分かるのか!?』
雀もどきの言葉を喋れるなんて。自分でもびっくりだが、とりあえず頷く。
『は、ははは! やった、やったぞ! 俺っちは条件を満たせた!』
喜びを全身で表現したいのだろうが、弱っているらしく、今にも倒れそうだ。俺は慌てて拾い上げる。この場で見捨てるのも偲びない。
「まーまー、これ」
世間話に興じる二人に割って入る。
「なあに、アージ? もう決めたの?」
母さんの言葉に頷き、手のひらに収まっている雀もどきを差し出す。まさか小鳥、しかも今にも死にそうなものを持ってくるとは思っていなかったのだろう。少し言葉に詰まっていた。可哀想だけど捨てなさい、と何度も言われたが、譲らなかった。
このけったいな喋りの雀もどきは、もしかしたら転生者の可能性があるのだ。色々と知りたいことがあるので、こんな所で死なせたくはない。それでも反対されたが、最終的には子供の特権、泣き落としで頑張った。
かくして、謎の雀もどきをご褒美として手に入れたのだった。
母さんはほとほと困った顔をしていたが、頑として譲らない俺に折れてくれた。買い物から戻って来たチュークさんや、他の奥様衆の「やらせてみな」と言う説得もあり、俺の泣き落としに応じてくれた。
すまない母さん。将来ちゃんと親孝行するよ。
そんなことを思っていると、役目を果たせた安心からか、急に眠気が襲ってきた。だめだ。まだ雀もどきを治療していないのに。気力で眠気をねじ伏せる。しかし、船を漕ぐのを止められない。
「アージ。これから母さんのお友達のお家に行くから、そこでお眠むしましょうね」
ウトウトとし始める俺に、俺の頭を撫でながら母さんは続ける。
「今日はとっても頑張ったし、お夕飯の前にはお家に着いているから、ゆっくり寝んねしていいからね。それに、そのお友達は小鳥さんのお医者さんだから、安心してねんねなさい」
それなら安心だ。そう思うと、一気に意識が暗転したのだった。




