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朝日高校には、それはそれは有名な生徒がいる。


一人は東藤千鶴


スッと通った鼻筋に鋭い眉。猛禽類のようなその瞳は、見た目に反して暖かみを持っている。

一見近寄りがたくきつい印象になり勝ちだが、周りをよく見てさりげない気配りをもできる彼は、異性は勿論同性からも慕われていた。


二人目は東藤冬樹


どこかぼんやりとしていて、エキゾチック雰囲気の彼女はこれまた見た目に反して、変わった趣味の持ち主だった。年上好きというよいも中年好きの彼女は、特に隠すこともなく堂々とおおっぴらにしている。天然の気があり不思議ちゃんと噂される彼女もまた、性別問わず人気があった。


しかし、ここまでは朝日高校に通うものなら誰でも知っている事実だ。

本当に有名なのは、この2人の関係。


血縁関係のない兄弟である彼ら、否、彼の一方通行の片想いはこの高校に通うもので知らない人はいなかった。


彼、東藤千鶴に告白した人の数は数知れず。

しかし、東藤千鶴は何度告白されようとも靡くことはなく、なんの躊躇もなく断り続けていると言う。

その理由が、妹である冬樹の存在。


正直に言おう。誰に暴露したわけでもないが、千鶴の冬樹への恋心は本人以外にはバレバレである。

大切に慈しむように接するその姿に、告白した者ですら納得して応援をしてしまうほど。


しかし、思われている冬樹が千鶴の気持ちに気づいていない上、そもそもの問題として冬樹は大の中年好き。それをわかっている千鶴も告白のタイミングを掴めず、見ている周りが常にやきもきしている現状。


最近では二人の行く末を見守り隊まで結成されると言う事態にまで発展している。


こうして朝日高校で最も有名な二人は今日も微妙な距離を保っているのだった。



「千鶴、昨日電車に乗ったんだがな...」

「ああ」


購買で買ったチーズパンにかじりつきながら、冬樹は思い出すように遠い目をする。

そんな冬樹を凪いだ目で眺める千鶴もカツサンドをモソモソと食べ始める。


日常の一コマ。

昼休みの休憩時間を各々が好きに過ごす、学生にとってはなくてはならない時間。


机の前後でパンを食べている2人の周りには、それぞれの友人たちも同じように昼食を広げていた。

皆それぞれが他愛ない話で盛り上がる午後の時間は、2人が話始める事によって多くのクラスメイトが聞き耳をたてて教室が静かになるという事態が発生していた。


「通勤時間帯に、髪の薄いオッサンがいたんだ」

「...おう」


冬樹が唐突に話始めるのはいつものことだが、毎回毎回話の流れが読めないのがどうにも怖い。

今日も例に漏れずオッサンの話ではあったが、なぜ禿げたオッサンの話なんだと千鶴を含めたクラス全員が思った。


「そのオッサン、嬉しそうに目を細めて、座席に座ってメールをしているんだ。そして、オッサンはケーキの入った大きな箱を大事そうに膝にかかえてた」

「...そうか」


それを説明するのに禿げたオッサンの、禿げの部分いるのかと千鶴は思わず突っ込みそうになるも、冬樹との会話には突っ込むだけ無駄というのも理解しているので、黙って最後まで聞くことにする。


「ケーキを膝に抱えたら、クリームが溶けてしまうよな?」

「そこかよ!!!」


オッサン関係無いじゃん、ただのケーキの話じゃん!

手からパン屑がこぼれるのも構わず、千鶴は思わずサンドイッチを置く。


「...というもはまあともかく。あのケーキ、きっと家族のために買って帰るんだろうなと思ってさ。随分くたびれた顔と服装してる疲れたオッサンだったけど、メールを見ているときの表情が本当に幸せそうだったんだ」

「......」


冬樹は眩しそうに目を細めて微笑んだ。

よくぞまあ、電車のオッサンとケーキからそこまで見てたものだ、とも思ったが冬樹らしいなぁと千鶴は思う。


「そうか、よかったな」

「うん、幸せそうなオッサンを見て私も嬉しくなったよ。やはりオッサンはいいよな」

「え、そこなの...っていうか禿げてても範囲内なの...?」


焦ったように口を開く千鶴。

周りにいた友人も、冬樹のあまりの守備範囲に絶句していた。


「?禿げていようが、妻子持ちだろうが、いいオッサンはいいオッサンだろう?...ほら、よくイケメンは何してもイケメンっていうだろう。あれと一緒だ」

「オッサンは何してもオッサンってか?それ微妙に貶してないか...」


しっくり来たという顔をしている冬樹に突っ込む千鶴。

こうして冬樹の琴線に触れる範囲を改めて認識した千鶴は、食べかけのサンドイッチを再び口に入れて無言で咀嚼した。


ため息をつきながら食べたパンは、口じゅうの水分を奪っていった。






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