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唐突だが、明姉さんはとても可愛らしい。
母である明さんを姉さんと呼んでしまいたくなる位には可愛らしい。
柔らかな緩いカーブを描いた栗色の髪に、柔らかく暖かい微笑みを浮かべた顔。
ふかふかした柔らかな肢体に安心する薫り...
「私が男だったら、絶対に明姉さんと結婚したのに...」
「あら、ふふ」
現在私は、明姉さんの膝枕で休憩中だ。
全国の男子...いや、最早女子にも大声で自慢したくてたまらないシチュエーションだ。
小さい頃から変わらずに、優しく頭を撫でてくれる手には無償の愛情を感じる。
「治美さんがうらやましい...」
「あら~、冬樹ちゃんは治美君が好きなんじゃなかったの?」
いたずらっ子のように目を細めてクスクスと笑う明姉さん。
かわいさ倍増である。
「私は治美さんが好きだが、同じくらい嫉妬している。またその逆も言えるけど...」
まったく、本当にお似合いで2人とも羨ましい。
微笑ましいを通り越して、2人にはいつも嫉妬して寂しくなって甘えてしまう。
それが娘特権だから、小さい頃から遠慮なんてしたこともないけど。
「はー、2人が私の家族でよかったな。明姉さんも治美さんもマジ愛してる...」
最近しみじみとそう感じるのは、私も年を重ねてきた証拠なのだろうか。
ぼーっと上を向くと、変わらずにニコニコしている明姉さんが沈黙を破るように口を開く。
「あらあら、千鶴は愛していないの~?」
うーん、明姉さんも治美さんもイケメン惚れる、マジ愛してるって感じでグダグダいつも思ってるけど...
千鶴は、こう、うーん?
「私千鶴のこと、イケメンだと思ったことないんだよなー」
ポツリと呟くと、何かが落ちたような音が聞こえた。
大丈夫なのか確認しようと、明姉さんに目線を向けると、姉さんは何故か苦笑していた。
まあ苦笑してる姉さんも結局かわいいんだけど。
千鶴は、素直で幼くて、真っ直ぐで、カッコいいというよりは可愛いって感じなのかなぁ。
何だかんだ、優しいし、いいやつだし...
「千鶴の隣は居心地がいいよ」
思ったまま口にすると、自分の言葉に納得した。
うん、千鶴の横は安心できる。余計な力も抜けて、よりかかれるようなそんな存在。
数ヶ月とはいえ、きちんと兄してるんだよなぁ...
「千鶴は、将来いいオジサマになりそうね?」
「はい、私もそう思います」
何故か嬉しそうに弾んだ声で、ないしょ話のように明姉さんは囁いた。
つられて私も小さな声で同意する。
ーーーあいつはきっと、将来素敵な紳士になっていくだろう。