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「親父が冬樹を恋愛対象として見ることはないと思うぞ?」
とある肌寒いある日、千鶴は唐突に私に話しかけてきた。
「大概の男性は女子高生が好きだと聞いたことがある。そして私は女子高生だ」
どこで聞いたのだったか、まあ生物的にも女子高生くらいの年齢が一番魅力的にうつるものなのだろう、と妙に納得した思い出のある話だ。
「確かにそうかもしれないが...って違う!誰に聞いたんだ、そんないい加減な話...」
何気に納得している千鶴は我に返ったように慌て出して、誤魔化すように早口になる。
「...さぁ、誰に聞いたのだったか。だがしかし、それが事実だったとしても千鶴には関係のない話だろう?」
「いや、家族だし関係はあるだろ...というか嫌だぞ、家族間でどろどろの恋愛劇なんて」
頬をひくつかせて唸るように話す千鶴は、今の関係が壊れることを心配していたらしい。...それで最近ため息が多かったのか。随分と余計な心配をさせてしまっていたようだ。
「大丈夫だ、千鶴が心配しているようなことは起こらないよ」
息を吐き出すようにして出した言葉は、意図せずに少しだけ荒くなってしまった。
そんな私を心配しているのか、チラチラと私を伺う千鶴は本当にいい奴だと思う。
「...なんでそんなこと言えるんだよ...万が一にも冬樹は報われないぞ」
気を使いつつも、しっかりと現実を見せて甘い言葉で慰めない辺りが、私の千鶴を気に入っている要因の一つだったりする。下手したら嫌われることだってあるだろうに、でもそれを恐れることなく口にできる強さ、変わらないでほしい、是非に。
「そんなことはわかっているさ。しかし、それとこれとは関係がない」
私の返答に納得がいかないのか、はたまた私が嘘をいっていると思ったのか、何故か千鶴は怒ったような顔をする。
「何が関係ないんだ。冬樹が悲しむのは十分関係あることだぞ!」
何を勘違いしたのか、千鶴は泣きそうな顔になりながら私のために怒ってくれていたらしい。
しかし、その気持ちは嬉しいが本当に関係はないのだ。
「勘違いをしているよ、千鶴。私は確かに治美さんが好きだがな、それは明姉さんを一途に好いていて渋くて格好いい治美さんが好きなのだ。...もしも万が一、治美さんが私になびくようなことがあれば、それはもはや私が好きな治美さんではないのだよ」
なんと言えばいいか、治美さんへの好きは憧れのようなものが大きいのだ。私が勝手に恋愛感情だと決めているが、そもそも好きの種類すらよくわかっていない私に、親愛やら恋愛やらの区別は余り無いのだ。
...流石に友愛と、恋愛の違いくらい区別はつくが。
その事を噛み砕いて伝えると、赤くなったり青くなったり色々な表情を浮かべていた千鶴は、混乱したようにうろうろするとなにかを呟いて走り去っていった。
まともな恋愛経験をしていない私が言うのもなんだが、初な千鶴にはまだ早い話だったのかもしれない。