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2話

マズイ…中々量を書くのは辛いです。

ゼイとヒカルが出会って、丁度10日。

例の小屋では、計画の実行に合わせて最後の打ち合わせをしていた。

「…だから、最終的にはゼイがどれくらい力を上手く扱えるかによる。圧倒的な力を見せつければ相手は簡単に蒼の使者だと信用してくれるだろうし、何より派手にやった方が隠蔽も出来ない」

ヒカルは、ゼイの方に視線を送る。

包帯が取れ、左手にはまだ痛々しい傷が残るものの、腰にぶら下がった刀を振れるだけの力は戻ってきていた。

…つまり、殆ど回復していた。

怪我の跡は未だ残るものの、触れても飛び跳ねても痛くないそうだ。

正直、ヒカルは一ヶ月程はかかると思っていたのだが、魔力が違えば身体の頑丈さも違うものなのか、と深くは考えていなかった。

「とにかく派手に暴れて、奴らにこちらの大義名分を押し付け、納得させ、権力の中に入り込む…か。中々乱暴な計画だな」

「しかし、それが最良でしょう。英雄がその力を振るい、王と国を護る。まさに民衆が好みそうな話です」

冷ややかに言いながらも、サクラの顔は若干火照っていた。

「お前はそういったものを信じている人間なんだな」

ゼイがからかい交じりに言うと、サクラは言い訳をするように、ボソボソと言う。

「おとぎ話が大好きだったので、どうもこういった話になると熱が入ってしまって…」

「まあいいさ、サクラが騙されやすいのは何時ものことだ。やる時はマジメにやってくれればそれでいい」

「ちょっと、どういうことですか!?」とサクラがヒカルを問い詰めるが、それをヒカルは軽くいなす。

「…ところで、この刀は?」

ゼイが尋ねると、ヒカルはゼイの腰にぶら下がる刀を見て、言う。

「刀は、ある高級な職人に鍛えてもらった特別製だ。最高級の世界樹の石を練りこんであるから折れもしない。血は自然と流れていき刃こぼれもせず、達人が振るえば研ぐ必要すらないであろう名刀だ」

ゼイがスラリと刀を抜く。伝承とは違う青い輝きを持つ刀身が、ランプの光を妖しく照り返している。

「黒い輝きだの、自由に変わる武器の形状だのは流石に再現出来なかったが、間違いなくそこらの剣には…もしかしたら、伝承の黒い刀にすら負けないかもな」

「蒼の使者に青い刀か。悪くはないな」

ゼイが、刀を鞘に収める。それを見ながら、ヒカルは指示を出す。

「最後の確認だ。ゼイ、お前はサクラを伴って城に真っ正面から入れ。入ったらサクラは私に合図を送る。私は合図を確認し次第、蒼の使者降臨っていう情報を、手分けしてばら撒く。そうして民衆が城に集まった辺りを狙って…」

「俺が王と共に民衆の前に現れ演説を行う、と。そんな簡単に行くものか?」

「勝てない戦争か、尊厳を奪われるか。その二択に挟まれ、少なからず気持ちが沈んだ民衆には丁度いい発破をかけられるだろう。そうして興奮に沸く民衆を、王が無碍にするわけにもいかない。ここの王が腐り切っていたら、もう少し派手に革命だの処刑だのって事も出来たんだがね」

ヒカルが笑みを浮かべて、続ける。

「この国の王は、弱気な癖に民に好かれている。だが、こう言っちゃなんだけど、だからこそ王としての威厳は無いに等しい。お前が上手く誘導すれば、その威厳が欲しい王はこちら側の提案に飛びつくだろう」

「王がこちら側の提案を拒絶した場合は?」

「…その時は、私に考えがある」

ヒカルが笑みを消して言う。心なしか、沈鬱な表情だ。

ゼイはそれを気にしつつも、話し合いを締めくくる事にした。

「作戦の開始は明日早朝。それまで、ヒカルと俺たちは別行動だな?」

ゼイが横目でヒカルを見ると、いつもの表情に戻っていた。気のせいか、とゼイはヒカルの言葉に集中する。

「ああ。私は知り合いの所に泊まらせてもらって、なるべく街に例の噂を流しやすくする。二人はここを夜明け前に出て、昼頃に人の目に付くように大通りを歩いてくれ。その頃には噂も行き渡って、お前らも注目されやすくなってるだろう」

「もし城の兵士が襲ってきた場合は?」

「殺してしまうと、蒼の使者の評判にもキズがつく。武器は使ってもいいが、なるべく怪我はさせないようにな」

了解しました、とサクラが返すと、ヒカルはゼイの方を向き、一言。

「質問はあるか?」

「ない」

ゼイが短く答えると、ヒカルは手を打ち、話し合いを締めくくる。

そして、成功すれば後世まで語り継がれるであろう所業を始める言葉を、やけに軽く言い放った。

「じゃ、やるか」




「…少し、よろしいでしょうか?」

その夜。

小屋の外に居たゼイに、サクラが呼びかけた。

「なんだ?」

彼の今の服装は、布を簡単に縫った涼しそうな部屋着だった。右手には『疾風』が握られており、その額には汗が滲んでいる。

彼は毎晩、ここで剣の練習をしていた。「地力を上げれば、何かの役に立つかもしれないだろ」というのは、彼の弁だ。

「あの時は、申し訳ございません」

「あの時…」

ああ、とゼイが思い出したように声を出す。

「お前が俺の事を刺した時か?」

はい、とサクラが答える。

「指示とは言え、一瞬我を忘れ、本気で振りかぶっていました。謝っても謝り切れるものではないと分かっていますし、そもそも赦しを請う事も間違っているというのは十二分に理解しています」

それでも、とサクラは言葉を続ける。

「一度、ハッキリとした形で謝っておきます」

申し訳ございませんともう一度繰り返し、サクラは深々と頭を下げた。

「…気にしていない、といえば嘘になる」

それを見届けると、ゼイはポツリと言葉を吐き出す。

「だけどまあ、引きずってちゃ始まらない。明日しっかりと俺の背中を守ってくれたら、それでいいさ」

ここで許さないと言っても事態が好転しないのは、ゼイも分かっていた。しかも、今まで事あるごとに謝られていたのでいい加減面倒だ、と思ったのもある。

「…ありがとうございます」

だが、サクラはその言葉を好意的に受け取ってくれたようだ。

彼女が頭を上げ、ほっと胸を撫で下ろす。

「それより、そこで振り方を見ててくれ」

「分かりました」

サクラが言うと、ゼイは黒い刀身を抜き放ち、自らの顔の横に付ける。

だが、訓練を始めて約十日。そろそろ見なくても良いのでは、とサクラは思い始めていた。

正直ゼイの戦い方については、特に見る所は無いと言っていい。

刀を振る姿勢や立ち姿は自然で、筋肉も並以上にある。

特に戦い方は凄まじい程の攻撃型で、模擬試合などをした時、それなりの武人であるという自負のあるサクラも、鍔迫り合いが出来るほどの間合いに持ち込まれると3回の内2回は負けてしまうほどだった。

その異常なまでの強さの理由をヒカルに尋ねられると、「祖父の知り合いに習った」とだけ、ゼイは答えた。

これに蒼の使者としての力が加われば、彼の戦闘力は計り知れない物になるだろうと、ヒカルとサクラは予測していた。

「…よろしいのでしょうか」

「何がだ?」

鍛錬が終わったのか、近くの岩に腰掛けたゼイが問いかけてくる。

「私などが、あなたの背中をお守りするなどという大役を任されて…」

「お前は強い。それに、お前は俺と違って弓を使えるからな。得意な戦い方が違えば、お互いの弱点をカバーし合えるだろう?」

「ですが、あなたの力は本当に早い成長を遂げています。私はいずれ必要なくなるのでは…」

矢継ぎ早にまくし立てようとした、その時だった。

「少しは落ち着け」

近づいてきたゼイが、サクラの肩を押さえる。

「肩の力を抜けよ。お前が思っているより、俺はまだ弱い。お前に腹を刺されて死にかける程度には脆弱でもある」

う、とサクラが言葉に詰まった。

「だけどサクラ、それはお前も同じだ。お互い弱いが、それだけに何処をやられたらマズイか、お互いが知っているんだ。攻防一体とは言うが、それを出来るほど俺はまだ強くない。なら、お前と俺でやればいい。時に俺が攻め、時にお前が守る。お前がやられそうになったら俺がカバーし、俺が脅威に気付けなければお前がその脅威を取り除け。それだけでいい」

そこまで言うと、ゼイはサクラの肩から手を放す。

「信頼、してくれているのですね」

「…正直に言わせてもらうと、守られてくれ。俺は正直、女子供が矢面に立つのは反対な人間なんでね」

頬をかきながら、ばつが悪そうにゼイが言う。

その言葉に、サクラは少し違和感を覚えた。

今まで彼の、若干冷徹とも言えそうな部分をよく見ていたので、そんな言葉がゼイから放たれたのか、疑問に感じたのだ。

「意外です。てっきり、使えるものは使う方かと」

「悪いが、俺は差別主義なんでね。女はおとなしく家で家事でもやってろって人間なんだ」

「それは差別とは言わないと思います。自身は矢面に立ち、女性を守る。素晴らしい美徳だと思いますよ」

サクラが言うと、ゼイが無言でこちらを向いてくる。

じっと見つめられると、彼女も流石にくすぐったくなってきた。

「…なんですか?」

「…ダメだな、お前と居るとどうも調子が狂う」

その物言いに、サクラはぷくりと頬を膨らませ怒ったような仕草を取る。

「ちょっと、何ですかその言い方は…」

「ほら、とっとと寝るぞ!」

スタスタと、ゼイが小屋に戻っていく。

サクラはその素直じゃない男の背中を眺めながら、昔を思い出していた。

兄と共に暮らしていた、懐かしい日々を。




それから少し経った、夜更けの頃だった。

山の国の王都である、バーク・ヴィルカイムがある山。

四ヶ国同盟の代表を連れた護衛隊がつかの間の休息を取ったのは、山腹にある僅かな平地だった。

その内の、一際目を引くとても大きな馬車。

その中には、二人の男女が座っていた。

「全く…こんな所に国を作るなんて、やはり猿どもの考える事は分かりかねるな」

男が言う。

「そう言いなさらないで下さいな。確かに厳しい環境ではありますが、雄大な自然に囲まれた場所は、いつだって人心の拠り所ではないですか?」

女性が僅かに反感を含んで言う。

「ふん、数だけは多いケダモノが。もう少し人の作り出した叡智を尊んでみたらどうだ?」

「あいにくと、私はあの森が性に合っているので。教会の皆様とは価値観が違います」

「まあ、貴様ら獣人に、我々の高度な文明の片鱗すら分かるはずも無いだろうがな」

クツクツとのどの奥を鳴らしながら、男は目の前の女性を嘲笑う。

良く響く嫌な笑い声だと、女性は男から見えないように拳を握りしめた。

白の国の代表、ディナート・ヘイヴンズ。

ディナートは、白髪に尖った耳、切れ長の目が特徴的な、典型的なエルフの面持ちだ。白に金の装飾を過剰なほど付けた鎧に白いローブ。出発する前に手に持っていた華美な杖と合わさってか、何処かハリボテのような雰囲気を醸し出している。

ローブから覗く腕には快楽魔法の跡がついており、白の国の腐敗をよく表してみた。

その男の対面に座るアーヴィアは、白いワンピースに白い肌。

顔立ちはどちらかというと幼く、獣人の中では珍しい部類に入る。

クリーム色の髪は膝まで届く程の量であり、絡みついた『植物のツタ』が良く似合っていた。

きめ細やかな肌を薄いレースで覆いつくした姿は、まるで何処かのお嬢様のようだ。

対立する二人の人間は、馬車の中で時が止まったように佇んでいた。

「…そういえば」

ディナートが、思いついたように言う。いや、どうせいずれは話そうと思っていたのだろう。他国や私を嘲る言葉か、とアーヴィアは我知らず身構えた。

だが、彼の口から出た言葉は、予想から大きく外れるものだった。

「貴様は、蒼の使者という伝説を知っているか?」

「蒼の使者…ですか?」

その言葉に、アーヴィアは眉をひそめる。

おとぎ話のような響きの言葉が目の前の男から出たというのは、この馬車の中で短い時を共に過ごした彼女にとってはとても信じられない事だったからだ。

「そのような話があるというのは、聞いたことがあります。山の国に危機訪れし時、蒼い力と黒い刀を携えた者が、危機を振り払うと」

「それはかなり解釈を加えた物だな。所詮伝説は伝説と思っていたが、我々はそれについて、とても興味深い情報を掴んだ」

ディナートが誇らしげに呟き、足を組む。

「つい先日の事だ。我々の国の魔導師が、通常の魔力とは違う、とても強力で、異質な魔力を観測した。その数時間後に同じ魔力が観測されたが、それはすぐに消えた」

「蒼の力だとでも?」

「伝承によれば、蒼の力は我々の魔力とは一線を画す力らしい。その力を正しく振るえば、地が割れ、海が干からび、世界は火に包まれるとも言われている」

余りの眉唾な話に、アーヴィアは猜疑心を含んだ眼をディナートに向ける。

「だが安心しろ。その件に関して、四ヶ国同盟は次の結論を出した。…山の国は、禁止条項である人間の精神汚染をし、蒼の魔力を持つ人間を作ろうとしている。それを果たして、四ヶ国同盟の加盟国であり、神の崇高なる意思を代行する我らは許せるかな?」

(…またこのやり口か)

数年前から、白の国の腐敗は始まったと言われている。

新たな王としてこのディナートという男が立つと、白の国は軍国主義を急速に推し進め、僅か一年で海の国を自国の傘下に収めた。

こうして、恐ろしいスピードで諸外国をその軍事力の元に屈服させた白は、同盟とは名ばかりの、白の国を最高の国とした支配関係を持つ四ヶ国神聖同盟を、それぞれの国と締結した。

そして、今度は山をも自分達の傘下に収めようとしているのだ。

戦争のしかけ方は、こうだ。

でっち上げた『非人道的政策』や『条項違反』を口実にし、他国に攻め入る。

単純ではあるが、ある意味とても理に適っているやり方だ。民意も煽れるし、責任を王に押し付け、王を殺し、白の国の息のかかった者を後釜に据える事も可能ではある。

最初の頃は、少しだけではあるが…本当に少しだけではあるが有る程度の証拠も出揃っており、戦争の口実になるであろう物だった。

だが、今はどうだろうか?

そんなある筈がないであろう物を、さもあるかのように振る舞い、国の尊厳を貶める。

魔力の軍事利用を『白の国』以外には認めず、パワーバランスを大幅に傾ける。

他国の人間を全て『野蛮人』とし、白の国の国民…つまり、エルフを最高位とした政策。

詰まる所、今の大陸はエルフに支配されていると言っても過言ではないのだ。

(…本当に、居るのだろうか)

アーヴィアは聡明だ。

気高き百獣の王の血を持つ、王族の一人だ。

だがそんなアーヴィアでさえ、目の前の男…ひいては、この男が作り上げた大国に、一矢報いる策も、考えも、そして覚悟も無かった。

ただ、自らの国が如何に罵倒されようと、相手が満足するのを待つ。

そんな絶望の中で、暗闇に差し込む光のように現れたのが、今聞いた蒼の使者であった。

「もし本当に、蒼の使者が居たならば?」

「何の為にわざわざ貴様らの方から野蛮人を連れてきたのだ」

分かっているだろう、とディナートはアーヴィアに目で問いかける。

「分かっております。森の軍勢が、その様な者に後れを取るとは思っていません」

「安心しろ。もし仮に貴様らが役に立たずとも、白の軍勢がそのような胡散臭い物に負けはせん」

再び、ディナートが声をあげて笑う。

耳にこびり付く、イライラさせる声だった。

「…さて、そろそろ出発だな」

「私は自分の寝室に戻っております。何かあれば、お呼び下さいませ」

「貴様のような獣人に、私が自らの世話を焼かせるとでも?」

「左様でございますか。では」

ドアを閉めるとアーヴィアは、がくりと倒れこむようにベッドに倒れこんだ。

その唇から出たのは、疲れによるため息ではなく、嗚咽だった。

悔しい。

ただ、そう思うだけだった。

あの男に負ける自らの国が。あの男に侮辱され、そこで言い返せもしない自分が。

何も出来ない、弱い自分が。

まるで子供のような、押し殺した泣き声は、暫くの間寝室に響き渡っていた。

頑張ります。頑張って月末までに十万文字超えてやる!

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