緊張
「うう……」
数分前から腹が痛い。まずい、かなり緊張してる。
「ったくなんで俺がやらないといけないんだよ」
ボヤいたところで今更遅い。軽く引き受けたのが間違いだったよ。
今回の取材対象は、時の法務大臣、野瀬有治。傍若無人な振る舞いで周りを振り回すが、それによって幾多の危機を乗り越えてきたことでも知られている。
「はあ……とんでもないババ引いちゃったよ」
「何がババだって?」
あっ。
終わったな。
恐る恐る声をかけられた方へ振り向くと、案の定。
「愚痴は周りに注意してから言う物だよ」
まるで友好的でない笑みを浮かべた野瀬が、そこにいた。
「ゴ、ゴメンナサイ」
片言になりながら、精一杯の謝罪。つーかなんで片言なんだよ俺。答えは簡単。
だって怖いんだもん。
「君が密着取材したいっていう記者?」
「は、はいっ!」
謝罪を完全にスルーされる。ありがたいがやはり怖い。
「ふーん……」
え、俺何かやったっけ。いややったけど。
冷や汗が垂れる。とその時。
「っ!?」
腹部に強烈な痛みが走る。景色が前方へ飛んでいった。一瞬意識が飛んだような気がした。そのまま床に倒れ込む。
「どうだった? 俺の腹パン」
いやいや、どうだった?じゃねえよ!立派な傷害罪だよ!
「これでも俺についていく自信ある?」
正直、ありません。いきなり殴られるとか勘弁。勘弁なのに。
「はい」
口を突いて出た言葉。たった2文字が、自分の首を締めるなんて思っていなかった。
「あっそ。わかったよ。出来るだけ取材には協力する。途中でリタイアとか言わせないよ?」
「もちろんです! 最後まで全力で取材しますから!」
ああもう何言ってるんだよ。アホだろ俺。だがもう引き返せない。
「そうだ、君の名前聞いてなかったね、何ていうの?」
「前島……朝日です」
「前島君ね、了解」
こうして、俺の地獄の取材が始まった。