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雪うさぎと黒からす  作者: 獅子倉七爺
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はじまりのはじまり

【はじまる前のはじまり】



 ちょっと田舎の3階建ての学校。最近できたわけではないが、百年近い歴史があるような古い学校でもない。

 ちょうどホームルームが終わった頃で、それぞれの教室でおしゃべりをしていたり、連れ立ってどこかに出かけようと準備をしていたりする生徒たちが校舎に残っている。

 その校舎の三階にある教室にいる二人の生徒。

 一人は、椅子に座って机に肘をついている女の子。肩まである栗色の髪を後ろでまとめてポニーテールにしていて、すらっとした体からも運動をしっかりしている活発そうな子だ。

 もう一人は、机に腰掛けてポケットに手を入れている男の子。ツンツンした艶のある黒髪で、制服を着崩し耳にイヤーカフスをしていて不良っぽいが、面倒くさそうでぼんやりした表情が良くも悪くも砕けた印象を与えている。

 鞄に教科書を詰め込み、帰ろうとしている男の子に女の子が話しかけた。



「ねえ、今日用事あったりする?」


「いや、特に何も無いけど。正直暇だな。」


「私も今日暇だからさ、付き合ってよ。」


「んー。おっけ、いいぜ。何する?」


「お互い暇はあれども金は無い、って感じだし。適当に話してれば思いつくんじゃない。」


「情緒もへったくれもないなおい。」


「じゃあおごりでカラオケね。ゴチ!」


「ごめん、無理です。」


「だと思ったわよ。変にかっこつけるからそうなるの。」


「うう。金が無いと何もできない世の中だ。」


「そういうものよ。」



 掛け合い漫才をしつつ席に座って話し込み、そのまますっかり時間を忘れて一時間、二時間と経っていった。

 夕暮れ時になって校舎が紅色に染まり、部活動をしている生徒が残っているくらいで、校舎の中に残っている生徒はもうほとんど居ない。

 誰も居ないがらんとした教室に、二人の話し声が響いていた。



「しっかし、大分寒くなってきたな。」


「まだまだよ。私の故郷はとっても寒くてね。冬でも一番寒い、今くらいの時期になるとダイヤモンドダストが見えるの。ほら、日本だと細氷って言って雪の結晶の形したやつ。」


「無茶苦茶寒そうだな。俺そんなところに住んでたら冬眠しちまうよ。」


「あはは。授業中よく冬眠してるじゃない?」


「あー。それは言わない約束だろ。」


「そんな約束はしてませ~ん。」


「ちぇ。お前だってよく宿題忘れて先生に怒られてるくせに。」


「ぐっ。い、いやそれには色々とジジョーがありまして。」


「ほほう。そのジジョーとやらを教えてもらおうかな?」


「それはほら、うん。女の子の国家機密ね。」


「宿題忘れる理由に、そんなご大層な秘密があるのか。」


「うるさい!男が細かいことをぐちぐち言わないの!あたしだって別に好きで忘れてるわけじゃ――。」


「判った判った。」


「むー。」



 最初は女の子がからかっていたのに、すっかり形勢逆転してしまっていた。

 慣れた感じに男の子が流しているところを見ると、女の子がかなり無理矢理かつ理不尽に話を逸らすのも、いつものことなのだろう。仕方ないヤツだ、といった顔をして聞いている。

 なんだかんだとちょっかいを出しているが、結局なだめる側に回っているあたりは、この男の子見かけによらず面倒見がいい。二人の付き合いの長さと、仲の良さが見て取れる。



「どこまで話したっけ。」


「故郷のダイヤモンドダストだか細氷がどうとかから、全く進んでないな。」


「あーそっか。もう、あんたが無駄話するから。」


「お前だって話に乗ってきただろ?」


「あたしはいいの。だってあたしだから。」


「どんな理屈だよ。と言うか屁理屈にすらなってねえし……。」


「ほら、また話がそれてるじゃない。いいからとにかく話を続けるっ!」


「あいよ。」


「それで、その細氷にまつわる話があってさ。雪うさぎって言うの。」


「ふむ。それだけじゃさっぱりわからないが、どんな話なんだ?」


「はいはい、今話すから静かに聴いてね。」


「ん、判った。」



 男の子は女の子をじっと見て、先程よりは大分真面目に聞いている。

 ちらっと男の子の方を見て様子を確認した後、時々区切りながら、女の子はゆっくりと話しだした。

 何度も繰り返して内容を覚えているのか、詰まる様子はまったく無く、緊張気味だがしっかりとした話し方だ。案外ナレーターの才能があるのかもしれない。



「山の奥深く、人が踏み入ることができない場所。そこではいつも、細氷が辺りを覆っていました。ある時、小さな塊ができてそこに雪の精が乗り移り、雪うさぎになったのです。」


「雪うさぎはとても寂しがり屋で、山奥に一人なのが耐えられません。一緒に居てくれる相手を探そうと考え、思い切って山から降りることにしました。」


「無事に山を降りて、誰か居ないか雪うさぎは探しました。けれど雪の精の力なのか、雪うさぎの周りはいつも細氷が降り続き、誰も近くに来てくれません。山に居た頃よりも自分が一人ぼっちだという気持ちが強くなって、寂しさが増していきます。」


「どうにもできない状況に、とうとう諦めて山に帰ろうと雪うさぎは決めました。そこへ、通りすがりの黒からすがやってきて遠くから声をかけたのです。」



『なぁそこの雪うさぎ、何をしてるんだ?震えているじゃないか。そんな寒いところに居ないでこっちに来いよ。一緒に話でもしようぜ。』


『無理だよ。私の周りはいつも冷たいから、そっちに行けば黒からすに迷惑がかかるよ。』


『なんで何もしないうちに諦めるんだ。やってみないと判らないだろ?待っててやるからこっちに来てみろ。俺は大丈夫だから。』


『うん……判った!』



「鳥の言葉に後押しされ、勇気を振り絞って雪うさぎは黒からすの元へ走りだしました。すると、雪うさぎの体から細氷がぱらぱらとこぼれ落ち、普通のうさぎへと変わったのです。」



『ほら、やってみれば簡単だっただろ?バカなヤツだ。』


『うん、黒からすのおかげだよ。ありがとう!』


『フン。暇だったからちょっと相手してやろうと思っただけだ。気にするな。』



「ただのうさぎになった雪うさぎは黒からすの仲間たちとも仲良くなり、一人ぼっちではなくなりました。そして大好きな黒からすとずっと一緒で、幸せに暮らしました。」



 話終えて少し間を空けた後、万感の気持ちを込めているように、女の子が長くふーっと息をはいた。静かに聞いていた男の子も、話が終わったのを見計らって体を崩した。落ち着かなさげにイヤーカフスを指先でいじり、少し戸惑った表情をしている。

 なんとなくシーンとした空気の中、女の子が明るめに喋りだした。



「とまぁ、こんな感じ。」


「んー、何か童話みたい。」


「あ、確かに。田舎の話だしね。似たようなのはいっぱいあるかも。」


「まぁありがちといえばありがちだけど、俺はこの話好きだな。」


「そう?なら良かった。ちなみに、直接話には関係ないけどもうちょっと続きがあるんだ。」


「お、なんだ?」


「この話を知っている二人が細氷の降る中で愛を誓うと、ずっと一緒に居られる、って言われてるの。」


「それもう完全にお約束だぞ。」


「だよねぇ。」


「でも、細氷って実際どんなのなんだ?見たことないんだが。」


「そうね、細氷はすっごく綺麗だよ。キラキラ光る粒が、ゆっくりゆっくり辺りを舞ってて、夢みたいな景色でさ。」


「へぇ。よっぽど綺麗なんだろうなぁ。」


「うんうん。もう何時間見てても飽きないんだから。」


「それは言い過ぎじゃないか?」


「そんなこと無い。だってあたしは外でずっと見てたせいで風邪引いたくらいだし。」


「またバカなことをしてるな。」


「あっしまった!今の無し無し!!」


「ダメだな。お前の間抜けな過去まとめ帳に記録した。」


「んなっ。そんなもんどこにあるのよ!?」


「俺の頭の中。」


「今すぐ忘れさせてあげるわ!」


「お前には無理無理。」


「逃げるなー!!」



 女の子が勢いよく椅子から立ち上がって、男の子に向かっていく。

 しかし、女の子が素早くいい動きで追いかけているのに、男の子は器用に逃げ回り、捕まる気配すらない。本当にこの男の子、外見とは大分差がある。

 と、その時。女の子がふとした拍子でバランスを崩し、机に顔から突っ込みそうな勢いで倒れ込んだ。



「わきゃっ!」


「あっぶねぇ!!」


「あっ……。」


「怪我はないか!?」


「う、うん。かばってくれたから。」


「はぁ~。暴れるのはいいが、足下には気を付けろよ。今のかなり危なかったぞ?」


「ごめんね。」


「あ、いや。悪い強く言い過ぎた。」


「ん。ところで、いつまで抱きしめてるつもり?」


「え、あ、こ、これは違うんだそうじゃなくて助けようと!」


「あははっ、冗談だよ。慌てすぎー。もしかしてほんとにそのつもりだったのかな?」


「バッ、バババカ、そんなことあるか!」


「そういうことにしといてあげる。」


「そういうことってなんだそれ!?」


「何でもない。ありがと。」


「え?あ、あぁ。何か今日はやけに素直だな。」


「たまにはそんな日もあるわよ。ねぇ?」


「何だよ。」



 照れくささからつい茶化してしまい、どうしても素直にお礼を言えない女の子。だけど、今日はいつもと少し違うようだ。

 少し思い詰めた表情で目が落ち着きなく辺りをチラチラと見回し、夕日に紛れているが顔が赤くなっている。男の子はまだ抱きしめたままの状態に動揺していて、そんな女の子の様子には気づいていない。

 そして何度かためらいながら、女の子が言った。



「えっとね。」


「うん?」


「いつか。いつか一緒にあたしと、さ。細氷見てくれない?」


「へ?それって、あの、そういうこと?」


「うん。」


「えーっとその。なんだ。あ、あれ見て。」


「ん?何々ー?」



 女の子は不思議そうな顔をして、男の子が指さした外に見える雲や山を見つめる。一体何があるのか分からず、怪訝な表情だ。男の子はそれを見て、迷いながら女の子に近づく。

 もう一度聞き返そうと女の子が振り向いた時。夕陽が射す校舎の中で、男の子と女の子の影が重なった。



「…………っ!!!」


「これが返事代わりじゃダメか?」


「あっあっあああたし初めてだったのにいい!せせ責任取ってよね!」


「こら、その言い方は誤解招くだろ。」


「何よ、ほんとのことでしょ!」


「判った判った。責任取るから許して。」


「心がこもってないわよ!」


「よし。俺と付き合って下さい。」


「あ……っ。う、うん!でもあんた、顔真っ赤よ?」


「うるせー。」


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