番外編「インハルテの少女」
本編で抜けている部分を少しでも保管するために生まれた番外編。
ストーリー自体はもともとあったんだけど筆者のスキルじゃ本編にうまく落とし込めなかったんだ。
他にも本編には出てない断片、投稿するに当たって消えていった視点、ストーリーがたくさんあったりします。
うまく形に出来たらまた番外編・・・という形で投稿できたらと思います。
その日はお母さんと収穫祭で振舞う料理を作っていた。
できた料理は・・・私がお手伝いしたところは少し不揃いだったりもするけど一応お母さんからは合格をもらった。
私にとってはなかなかに充実した一日だった。
お父さんたちは村の青年団ーーお父さんのどこが青年なんだろうーーで集まって領主様達と一緒にビール呷っていた。
夜も更けてきたので私は家に帰って寝るように言われた。
もう子供じゃないのに・・・。
でも、朝早起きしてずっとお料理してたせいか疲れは溜まってる。
収穫祭は明日もあるもんね。
今日はもう休もう。
どれくらい眠っていたんだろう。
外が騒がしい。
お父さんたちまだ騒いでるのかな?
私に早く寝るように言っといて・・・文句の一つでも言わないと気がすまない。
私は扉に手をかけ、みんなで騒いでいるであろう広場に足を進める。
そこに待つ凄惨な景色など想像も出来ずに。
私の目に映ったのはさっきまでお父さんたちと一緒にビールを飲んでいた青年団の人たち。
昔、名の通った冒険者だったと言っていた村一番の狩人のハンスさん。
・・・・・・・の死体。その全員が全員血まみれで倒れている。
あるものは胸に穴が、またあるもの上半身と下半身が繋がっていなかったり、首が無い人までいる。
なのに・・・生きてる?
だって、息をするように胸は動いてるし、目の前に転がっているハンスの頭が私に「逃げろ」って話しかけているんだもの。
私はその光景に腰を抜かす。
でも、そうか・・・夢か。
これは酷い悪夢だ。お料理のときにつまみ食いしたバチが当たったのかな。早く目を覚まさないと。
「あはは、あはははははっ・・・」
私に誰かが近づいてくる。
「あらら、壊れちゃったか。まあ・・・子供には刺激が強すぎるわな」
聞いたことの無い野太い声。
見上げるとそこには返り血で真っ赤になった鎧と赤く血塗れた剣を持った巨体があった。
男の手が私に伸びる。
そこで・・・私の意識は途絶えた。
目が覚めると私は村の重犯罪者用の独房の中にいた。
あれ・・・?あれれ?
何で私こんな所で寝てるんだろう。
思い出そうとすると酷い頭痛に襲われる。
周りを見回すと数人の、見たことのある顔が。
話しかけてみるも、誰からも返事は無い。
寝てるのかな?
私は悪いとは思いつつも、自分が何でこんな所にいるのか聞くべく近くに座り込む男の子に手を伸ばす。
と、丁度私がその男の子を揺さぶろうとしたとき、こちらに誰かが近づいてくる音がした。
同時に部屋のみんなが震えだしたのが分かる。
手を伸ばした男の子なんてひざを抱えてブツブツと何かを呟きだした。
驚いた私はとっさに伸ばした手を引っ込める。
どうしたんだろう?
足音は大きくなって、ついには私達のいる牢屋の前で足を止めた。
目を向けるとそこには、腰まで伸びる白い髪の端正な顔立ちの男の人。それと、その男の人につき従うように控える、全身を覆う黒い鎧に包まれた黒髪長身の屈強な男の人。
「さて、次はあなたの番ですよ。ヴァルトヘルト、連れて行きなさい」
白い髪の男の人は先ほど私が声をかけようとしていた男の子に向かって呟く。
「あ、ああっ・・・・・」
男の子は声にならない声を上げ、かすかに抵抗する素振りを見せるも、牢屋に入ってきたヴァルトヘルトと呼ばれた男の人に連れて行かれてしまった。
私はそれを止めようと声を振り絞ろうとするも、先ほどその男に見られた瞬間、頭の中は真っ白になり、震えが止まらなくなる。
乱れた息が収まらない。
苦しい。
意識が朦朧とする。
薄くなる意識の中、私が最後に見たのは私に視線を向けニヤニヤと笑う白い髪の男の顔。
何かを告げられているのはわかるが、すでに何を言われているのか分からない。
ただその歪んだ笑みから、私にとって良い知らせでないことだけは察する事が出来た。
次に私が目覚めたのは少し固いベットの上だった。
起き上がろうにも何かで固定されているのか、身体は動かない。
目だけを動かし辺りを覗うと、白い白衣を纏った男の人が4人いるのがわかる。
何か話し合っているようだ。
と、そこで私が目覚めたのに気付いたのかその中の一人、中でも若い男の人がこちらに近づいてくる。
「おはよう、意識を取り戻したんだね。でも、せっかく目覚めたところ悪いけど今から君は死ぬ。無事、次に目が覚めたとしてもそれはもう君じゃない。だから最後くらい君の親しい誰かに看取ってもらわないとね」
男が指差す先に目を向けるとそこには魔族に犯される母の姿があった。
「お・・・かあ・・・・・・・さん?」
すでにその目には光が無く、たまに喘ぎ声を上げるだけ。
「お母さん!お母さん!!」
私はお母さんに出せる限り大きな声で叫びかける。
「ほお、お母さん、お母さんか。よかったな、最後はそのお母さんとやらに看取ってもらえるんだ。でもうるさい、それと時間切れだ」
首筋にチクっと何かに刺されたような痛みが走った。
「それじゃあ、おやすみ」
私の声は届かなかったのは最後まで母の目が私を捉えることはなかった。
そして、これが私の見た最後の光景になった。
いかがでしたでしょうか?
蛇足だったかもしれない。。。
今後も生暖かく見守っていただければ幸いです。