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うきぐもがたり  作者: towa
第六章 右将軍の帰還
23/25

其の三 覇刃軌族の王




光野の私室へ向かう道すがら、示詩は火乃の家柄が長年左将軍・秋英の家に仕えていることを知らされた。その上秋英は火乃にとって小さい頃などよく遊んでもらった、兄のような存在でもあるらしい。


「それにしても、それを聞くとますますあのように不躾な対応で良かったのかと気にかかりますわ。そなた達も、あの方には特別な眼差しを向けていたのではなくて?」


一応示詩なりの気遣いであったが、三人の侍女はさっぱりとしたものだった。


「正妃様にお仕えする身でありながら、申し上げにくいことではありますが、恐れながら正妃様はこの城にとって……いえ、私たちにとっても、その、とても『稀』なお方なのです。今までのどの姫様より、陛下は正妃様に対して特例を敷かれております。そうと分かっていながら、何事にも周到な秋英様となんのご用意もせずお会いさせるなど、私が浅はかだったのです。お許しくださいませ」

「火乃殿の仰る通り、秋英様はあのように美麗なお姿とは裏腹に、非情な策士の一面もお持ちで……まして陛下とは意を異にしておられる立場です。……あの場ではああするより他にはありませんでした……」

「正妃様、どうぞお気に病まれないで下さいませ。私、今ほど自分の無知を恥じたことはございません。もう二度と正妃様の御身が危ぶまれるようなことなど無きよう、己を律したはずですのに、童女のようにはしゃぐばかりで、何も分かっていなかったなんて……!火乃様と臙脂様がおられなかったら、どうなっていたことか……」


麗しい殿方の気を引くよりも女主人の身を案じるその答えには、侍女の鑑を見る思いだったが、あれほど浮かれているように見えたのにこうもきっぱり公私を分けることができるものなのかと示詩は不思議に思った。

実のところ、桃衣はさておき、火乃と臙脂の二人には何が何でも女主人を危険から遠ざけ信用を得なくてはならないという事情があったのだが、示詩が知る由もない。それというのも、一度家に戻って再度入城した際、その辺のことを光野から半ば脅しのように言いつけられていたためだ。


『あなた方の罪に目をつぶるのは、決して正妃様からの温情ばかりではない。陛下より、その身を挺してでも正妃様をお守りせよとの命が下された。これを違えればどうなるか……分かっておりますな?』


この、温厚でのんびりとした口調でありながらもどこにも情の宿らない言葉に、火乃と臙脂は戦慄した。陛下よりも圧倒的に恐ろしいのは、若年ながら謎の貫禄を漂わせる目の前の近衛隊長である。やんわりと微笑んでいるようにも見えるが、どこにも取り付く島がないのが怖い。失敗したら今度こそ二度めは無いのだと、言外に伝わってきた。

そんなわけで、示詩を五体満足で城に住まわせることが当面の二人の仕事であった。たとえ憧れの男性が来訪したとしても、自分の身が可愛い二人は断腸の思いで公私を分けなければならないのである。


座龍の近衛ということもあり、光野に与えられた執務室はすぐ下の階に位置していた。何度か訪れたことのある部屋だったが、今日に限ってはどこか物々しい雰囲気を放っている。なぜかという答えは、入ってすぐに見つかった。


「よう、お姫さん。しばらくだな。どうやらその様子じゃ息災だったみてぇで何よりだ」


部屋には光野の他に別の男の姿があった。

長い黒髪を背中まで垂らし、緋色の竜が取り巻く柄の豪華な衣装を身に纏う偉丈夫の体躯には、常ならぬ革製の甲冑が装着されている。太い首筋には、いつもの軽薄そうな印象を与える首飾りではなく威厳を放つように凝った意匠の金細工が飾られており、どことなく別人の気配を漂わせている。


「へ、陛下……?」


燃え盛る業火を思わせる強い瞳でにやりと薄い笑みをよこしてくるのは、誰あろう座龍陛下に違いなかった。

示詩がその飄々とした夫の姿を見たのはおよそ半月ぶりのことだった。

あまりに突然のことで心の準備ができていなかった示詩は、己がなぜこれほど座龍の姿に胸を騒がせているのか、そちらに戸惑った。


(何かしら、この胸のざわめき。私、どうしてしまったというの)


座龍が姿を見せなくなることには慣れたものだが、再会してこれほど動揺を覚えるなど、慣れていないどころか初めてのことだった。


(私、いったい怒っているのかしら、喜んでいるのかしら、悲しんでいるのかしら。私自身のことなのに、それがさっぱり分からない。激昂してしまいたいのに、力が抜けていくかのよう……)


子を作らなければと、ついさっきまで息巻いていた己はどこにいったのか、示詩には皆目見当がつかなかった。会ってすぐ「卑怯者」とでも罵ってやる算段だったはずが、怒りよりもまず湧いて出てきたのが戸惑いだったため、どんな顔をすれば良いのかも分からない始末だ。

そんな示詩の様子を不思議に思った座龍は、示詩の反応が鈍いのはずっと姿を見せなかったくせにこのような急用で呼びつけたからに違いないと早合点し、機嫌を取るようにへらっと笑ってみせた。


「いや、急なことですまなかったな。何しろ、今から姫さんに合わせる野郎がどうにも御し難いヤツで、手こずっちまってよ。場当たりになっちまったんだ。それから、式が終わってからになるが、ちょいと姫さんに案内したいところがあるんで、ぜひ付き合ってほしいんだが……」


ちらちら示詩の様子を探りながら手でも揉みだしそうな座龍の腰の低さは、まるで恐妻家のそれであったが、対する示詩はぼうっと座龍の顔を見つめるばかりで何の応えもない。

話の内容が耳に入っているのかも怪しいので、座龍が見かねて「お姫さん?」と再度呼びかけると、ようやく示詩はええ、と答えた。

その大きな濃緑の瞳にはいつもの勝ち気な光が宿っていて、それを確認した座龍はようやく胸を撫で下ろすことができたのだが、まだどうも落ち着かない。

出会いからこちら常に能動的な姿を見せつけられていたせいか、そうでない示詩には不安を覚える座龍である。なにしろ頭の巡りが早いので何を言い出すやら分からないし、そのうえ黙ったままの示詩というのは整った容姿のおかげか妙に迫力がある。彼女をまだ手の内で泳がせておきたい座龍にとって、常と違う示詩と接するのは腫れ物に触るような心地をもたらした。きゃんきゃんと吠えてくれている方が、まだ扱いやすいというもの。


「座龍様、正妃様に置かれましては、突然の逢瀬の場にことのほか戸惑っておいでのご様子。先日の刺客の件もありますし、やはり事前にお伝えした方が行き違いも少なくなるのでは……」


光野が近衛の姿勢を拭い去るような親しさで耳打ちすると、座龍は珍しく素直に「そうだな」と二つ返事で快諾した。大人しい示詩というのは、二人にとってそれだけ奇妙奇天烈に映った。

そんな二人を前に、示詩は今、珍しく正装めいた格好の座龍を前にした自分が、これまた珍しく念入りに着飾って化粧をした姿で良かったというようなことを考えている。

さらには、座龍がこの姿を見て一体どんな感想を抱いたのだろうと、まるで普段の示詩だったら気にもしないようなことを考えていたのだが、もちろん座龍がそんな乙女の思考を読み取れるはずもない。

そのため、示詩の常にないしおらしさを、次の言葉で完膚無きまでに突き崩すことに成功した。


「ま、まあ、突然連れてこられてあれこれ言いつけられンのが気分のいいもんじゃねぇこたぁ重々承知さ。しかしここは、正妃としてなんとか役目を果たしてほしいんだ。その、せっかく着飾ってくれたところ申し訳ねぇんだが、今から別の衣装に着替えちゃくれねぇかい?」

「ま、まあぁ……!今、なんとおっしゃって?」


堪らないとばかりに噛み付いてきた示詩は、「一体陛下は私のこの格好をどう思っているのだろう」などと考えた己を一瞬にして翻した。

座龍と光野は、ようやく正妃がいつもの調子を取り戻してくれたので一安心していた。今度こそ示詩は激昂してみせているのだが、二人にとってはこちらの方がよっぽど手玉に取りやすかった。


「光野殿、私に支度してくるようにと申しつけたことを忘れておりまして!?侍女たちの苦労を無碍にすると仰るのですか!」

「それにつきましては、申し開きもございませぬ、正妃様。私が確認を怠ったゆえ、このようなお手数をおかけすることに……」

「いや、光野は悪くねぇさ。全部俺のせいだ。実のところ、この群雷ぐんらいに着いたのも今しがたのことで、伝令が行き違ったのよ。この通りだ、お姫さん、すまなかった」


光野をかばい平身低頭で訴える座龍には、その見かけとは逆に威厳のかけらも見当たらない。だがそんな座龍はとても新鮮に映って見え、示詩はそこで「そういえば会うのはあの中庭での逢瀬以来なのだ」ということに気が付いた。会ってすぐに戸惑いが生じたのはこの為かと察したが、その理由を追究したくはなかったので、話の続きを促すことにした。


「それで、どのような事情がございますの?」

「さっき言った、式が終わってからの用事がまた重要なんだ。すぐに向かっちまうから、今からその用意をしておきてぇのさ」

「なぜ私の衣装がそれほど重要になるのですか?」

「姫さんにゃ、神殿に行ってもらいてぇんだ。歳火の筆頭巫女様が詰める、炎舞竜えんぶりゅう神殿しんでんにな」

「炎舞竜、神殿?」


元を辿れば炎竜神えんりゅうしん崇拝の聖地とも伝えられている歳火は、首都である群雷ぐんらいにも古い遺物が散見される。とりわけ炎舞竜神殿はその最たるもので、木造でありながら未だにその姿をはっきりと残しているため、半ば奇跡として崇められていた。示詩もその程度の情報であれば聞き及んでいる。だが、式典の後に急を要して訪問する理由など思いつきもしなかった。


「また、なにごとか企んでおりますのね」

「企むたぁ、人聞きがわりぃな。俺だってこの前の件で多少は懲りてるんだぜ?大事な正妃様を悪いようにはしねぇさ」


恐らく軽い冗談のつもりなのであろうが、今の示詩にとってその言葉は多少なり毒であった。

「大事な」という枕詞に、何故だか胸がざわついて、少しばかり顔をそらす。それは示詩があの中庭での一件で胸に覚えた、甘い痛みとよく似ている。


「姫さん?」

「な、なんでもありませんわ!とにかく、こちらの衣装を身に着けると良いのですね?さ、早く支度してしまいましょう」






着替えを終えた示詩は、今まで身に着けたこともない衣装に軽く首を傾げながら長い廊下を歩いていた。前方には仰々しい出で立ちの座龍が立ち、後ろには神妙な顔つきの侍女三人と正装した光野が付き従っている。

その道中、廊下を行く王の列に気づいた者は皆脇に避け、首を垂れるが、その前に必ず示詩を見た者は「ぎょっ」としてから慌てて姿勢を正すのに、示詩は憤懣を募らせていた。


(よもやこの衣装、よほど奇異に映っているのではなくて!?何やらじゃらじゃらと装飾品が多いし、色味も淡くて野暮ったい……ひらひらしているし……このような衣装、私が一番忌避しておりますのに)


白や亜麻色の絹地に金糸で刺繍が施されている裳装束は、良く言えば華やか、悪く言えば前時代的だった。派手というのとはちょっと違う。どこか荘厳さすら漂わせている。


(そう言えば、桃衣達もわずかばかり目を見張っていたのだわ。だって……そう、これでは、まるで……)


神前に飾られるような宗教画でよく見かける、まるでこれは……


「さ、正妃様、こちらへ履物のお召し変えを……」


何かが閃きかけた示詩へ、桃衣が外履きの、これまた華美な金装飾の履物を差し出したので思考は遮られた。

一行が緋竜城一階から中庭を横切り正門を抜け、広大な庭へ向かうと、竜を従えた竜騎兵や見たこともない貴族たちの姿が綺麗に整列して並んでいた。

式典というには若干小規模に見えなくもないが、よく目を凝らすと沃賀や黄詠の姿もあり、重鎮と言えるだろう貴族諸侯は軒並み揃い踏みである様子が見て取れた。

それというのも、皆、身に着けている衣装が一際華美であり、荘厳である。

騎竜兵まで常ならず豪奢な武具を身に着けているので、相当に位の高い人材が集められたことを暗に表していた。

急ごしらえであろう、竜神教の祭壇が設けられた前に座龍が立ち、その隣に示詩が招かれた。

すると、皆一斉にそちらへ向き直り、兵士たちは跪き、貴族諸侯は沃賀や黄詠も含め全員深く頭を垂れた。


「皆々、此度は急な招集にも関わらずよくぞ集まってくれた。礼を言う。だがそれも全ては、歳火にとって輝かしい戦歴を刻むであろう二人の将軍の門出と帰還を祝うためである!」


座龍がそんな風に口上を切ると、左将軍・秋英が貴族諸侯の前列から示詩たちの前に進み出てきた。


「これなるは左将軍・秋英。我が歳火国に、長きに渡る山岳部族との悲願の勝利をもたらす片翼。その武勇は言うに及ばず、美麗な面に似合わぬ数々の猛き戦ぶりは皆の知るところであろう」

「勿体なきお言葉、痛み入りましてございます」


如才なく言葉を返し、秋英は笑みを含んで軽く一礼した。

秀麗な額に、一筋垂らした長髪がかかる。

その視線はなぜか座龍ではなく示詩に向けられてきて、戸惑うが、彼は艶美な微笑みを意味ありげに送って後は顔を伏せた。


「そして、右将軍・烈火れっか。初めて目にする者も多かろうが、この片翼も歳火にとって欠かせぬ……」


座龍の説明が終わるより先に、どういうわけか辺りがざわめき始めた。

整然と並ぶ隊列のそのさらに向こうの城壁の辺りが何やら騒がしい。


「ようやくのお出ましか、気をもませやがって……」

「?」


皆に聞こえぬような呟きを漏らした座龍は、どうやらその騒ぎの原因を把握しているようだ。同じく城壁の辺りを見つめながら、皆とは違って安心したような顔つきで「やれやれ」といった具合に肩をすくめている。

示詩が不思議に思って夫の横顔から眼を離し、城壁を眺めていると、やがてその左右から少数の竜騎兵が集まってきた。遠目で見た限りでは、どうも歳火の者とは思えない風貌の者たちで、示詩は「陛下、これは!?」と不安を隠しもせず声を荒立てたが、座龍はそれには答えず、喧噪を掻き消すような大音声を張り上げた。


「皆の者、括目せよ!あれなるは、我が同胞、覇刃軌はばき族の王にして、歳火の右将軍に就任した、『烈火れっか』!勝利への片翼を担う男よ!」


どど……と地響きを上げて近づいてくる騎竜兵の少数部隊は、まったく速度を落とすことなくこちらへ向かってくる。

やがて辺りにはもうもうと土煙が舞い上がり、参列者は皆して堰をし、難を逃れようと散らばり始めた。


「な、なんと!?我らが見えてはおらぬのか!?」

「まことに右将軍の部隊だというのか!?」


兵たちはさることながら、貴族諸侯からも批難轟々だった。


「このように無礼な振る舞い、考えられぬ!!」

「陛下は気でも狂ってしまわれたのか!?あのように野卑で礼儀知らずな輩をこの緋竜城へ迎えようなどとは……!」


わああ、と逃げおおせる騎竜兵や貴族たちを蹴散らすかのように、王の御前寸前で一団は進軍を止めた。

示詩はあまりの恐ろしさに座龍の袖の裾を思わず掴んでいたことにも気づかず、それでもなんとかその場に二本の脚で踏みとどまって立っていた。不思議と逃げる気にはならなかったのは、掴んでいるその袖の手で、座龍が少し庇うように示詩を隠していたからかもしれなかった。


―――ジャキィ……ィン!!


いつの間に、散り散りになっていた騎竜兵達が、乱入してきた一団を取り囲み一斉に剣先を向けている。


(まったく気づかなかった……!やはりここは歳火国なのだ……赤社せきしゃの凡愚とは出来が違う、精鋭兵なのだわ)


いくら躾が行き届いているとはいえ、人の倍以上はある竜に取り囲まれるなど生きた心地がしない示詩だったが、それよりもっと不気味なのが、この、目の前にいる乱入者の一団に他ならなかった。

彼らは皆一様に半裸の上に革鎧や武器を装備し、土色の外套を背中になびかせ、同じく土色の頭巾で目元以外を覆っている。

特徴的なのが、彼らの騎竜は歳火の騎竜よりも黒に近い配色であることだ。彼らの足元の衣装が真っ黒であるのも相まって、より一層禍々しさを漂わせていた。


「この不届き者どもめ!!いくら陛下より勅命を受けた右将軍直轄の部隊といえ、神聖な場をこのように荒らすとは何事か!」

「陛下の御前というに頭が高い、即刻控えろ!」


先ほどと打って変わって怯んだ様子も見せず、むしろ一層殺気立って騎竜兵達は口々に言った。だが、黒い騎竜の一団はすんとも反応を見せず、しばらくして十三、四の竜の中から二体が歩み出てきた。その内一人は、騎上でも易々と分かるほど体格が規格外だった。


「へっへっへ、頭が高いときたよ、烈火。俺たちゃお呼びじゃねぇんかな?」

「けっ、ならすぐにでも引き返してやらぁ、こんなチンケな城。おい、座龍、テメェとるためにこっちは眠りもしねぇで来てやったンだ。さっさとそのツラ貸しなァ」


布でこもった声でも十分響き渡る荒い声は、ずいぶんと強い訛りが残る言葉だった。

ますますもって素性が怪しくなった周囲とは逆に、うっすら笑みすら浮かべて悠然と立っていた座龍が歩み出た。


「陛下、危険です!このような蛮勇の輩、いつ裏切るものか……」

「そういきり立つな、光夕こうゆう。歳火の最精鋭の兵長として、余裕見せつけな」

「…………は。御意にございます」


苦々しい顔で下がった光夕という男は、取り囲んでいた兵達に合図を送り、包囲を解いた。

ほっとするよりも、むしろ座龍が進み出でて行ったことで不安を募らせる示詩。

そうしていくらもしない内に、体格の小さい方が腰から片刃の剣を抜き、座龍めがけて飛びかかってきた。

小さいかと思った体格は、いざ竜を下りると座龍と同等に背が高く逞しい。

いや、もしやもう一人が大きすぎるのか。


「危のうございます、陛下!」


我知らず、示詩は叫んでいた。

だがぶつかると思った時には、座龍もすでに腰に佩いた剣帯から刃を抜き去っていた。


「そう来なくちゃあなァ、座龍」

「おいおい、顔もマトモに見せやがらねぇとは、ずいぶんご挨拶だな、烈火」


(烈火!?では、あの男が……)


驚きを隠せない示詩の目の前で、二人の男は切り結ぶ。


ガキィィン!


刃のぶつかる嫌な音が辺りに響いたかと思うと、二人は同時に二、三歩距離を取って飛び退った。

すると、座龍の豊かな黒髪の一房が、耳の辺りからバサリと落ちて、相手の男は覆っていた頭巾がぱらりと剥がれていた。


「やってくれるじゃあねェの、座龍」

「おめぇもな、烈火」


(い、一体、なんなんですの、……あの野蛮な男!?)


頭巾の下から現れた、野獣そのもののように浅黒い顔をしたギラつく目の男に、示詩は戦慄する。

この余りにも強烈な出会いが右将軍・烈火と示詩のその後を左右することになろうとは、当然のこと、どちらもまだ気づいてはいなかった。










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