其の三 虎口と竜穴
強い風が、美しく結い上げた示詩の髪を乱して吹き荒れる。
しかし、示詩はもうそんな瑣末なことを気にしていられるような状態ではなくなっていた。
見上げた先には、いつか薄暗い研究塔で顔を合わせた座龍の腹心の男が、しっかりと示詩を抱えてくれている。
そして、ゆっくりと視線を前方に動かせば、全身真っ黒の装束に身を包んだ怪しげな男がうつ伏せで倒れ伏していた。
あまりの衝撃に茫然としていた示詩も、時を置けば、己が何者かに命を狙われたのだと理解することができた。
だが、頭で理解しても体はついていかず、「命を狙われた」という恐怖に全身が震え出す。
示詩は、思いの外頑強な腕に横抱きにされながら、くたびれた生成りの衣装を震えながらもしっかりと掴んだ。
「おのれぇ……っ!かくなる上は!」
いつのまに起き出したのか、突如黒装束の不審な男が武器も無しにこちらへ突っ込んできた。
いやあぁぁ!と示詩が惑乱する前に、陽炎は人のものとは思えぬほどの敏捷な動きを披露し、黒装束から見る間に距離を取る。
驚いたことに、その間、抱えられた示詩の体には何の負荷もかからなかった。
「ちぃ、貴様、歳火王の子飼いの斥候か!その動き……さては灰露の業だな」
驚愕した黒装束の男に、陽炎は何も答えない。
その代わりで、全く別の所から声が上がった。
「敵に喋るような口は持っちゃいねぇとさ。いい加減観念したらどうだい」
飄々とした、場違いなほど間延びした声が最上階の入口の方から聞こえてきた。
その朗々とした低音を、示詩が聞き間違えるはずもない。
「ざ、座龍、陛下……!」
「よう、示詩。久々の逢瀬だってのにこんな物騒になっちまって、すまねぇな」
二月近く城を開けていたことなどまるで感じさせない、その辺の散歩から帰ってきたかのような気安さで、長い黒髪の偉丈夫が笑いかける。
彼は、紛れもなく示詩の夫であるところの歳火国王、座龍であった。
「あんたも気を利かせてくれよ。どこから頼まれてきたんだか知らねぇが、失敗したと分かったらすぐに引き返すのが刺客の美学ってなものじゃねぇか?」
「くっ…!」
まさか国王まで出てくるとは思っていなかったのか、目に見えて焦り出した黒装束は踵を返そうとして、しかし、後方にずらっと兵士が並んでいるのを見るととうとう観念したようだった。
赤い甲冑をつけた兵士達に連れられて行く刺客を見送りながら、示詩は陽炎の腕からゆっくりと下ろされたことにも気づかず放心していた。
「おい、姫さん。あんたを狙っていたヤツは行っちまったぜ。どうしたんだ?いつもの強情がすっかり引っ込んじまって」
茶化す様な座龍の声が、右から左の耳へと通り抜けていく。
示詩は、必死に今起こったことを整理しようとしていた。
(どこからどこまでが、罠?やはり、最初に感じた通り、あの文が罠だったということかしら?黒幕は黄詠殿?……けれど、それなら何故陽炎が私を助け、驚く様子もない陛下がここにいるというの)
罠に陥っていたことには気づくも、嫌がらせどころか命すら危うかったという事実に衝撃を受け、うまく頭が回らないのだった。
(あら、そういえば、火乃。あの者が何かを見ていたのでは)
示詩は、ふと気づいて己をここまで伴って来た者の姿を探そうとする。
彼女に聞けば、何か分かるかもしれないと踏んだが、見回した示詩が見つけたのは、兵士達に腕を掴まれてやってくる、青ざめた侍女の姿だった。
「火乃?」
「せ、正妃様、申し訳、ございません……わ、私、このようなつもりでは……」
示詩は、なぜ火乃が兵士に捉えられる形になっているのか、一体何をどうして謝っているのか、まったく理解することができなかった。
説明を求めようとして座龍を見上げた時、いたわる様な柔らかい声が横合いから聞こえてきて、それを遮った。
「正妃様、最悪の事態を想定しておきながら手遅れとなってしまい、申し開きもございませぬ。こ度のことは、全てこの光野の不手際による失態でございます。一連の騒ぎの下手人であるこの者、火乃と、共犯である臙脂の二人は、すぐに処断いたしますゆえ、平にご容赦を」
「光野殿?そなたまで、何故ここへ……」
いやに穏やかな光野が出てきて、示詩の前に膝を折ったかと思うと、隣で火乃が必死に声を張って何かを訴えてくる。
「お、お待ちください、光野様!!わた、私は、このようなことになるなど、何も知らされておりませんでしたわ!ただ、ただ正妃様を最上階へお連れするようにと……っ」
(まさか)
ここまで来て勘付かない示詩ではない。
(火乃が、私を陥れた?)
努めて考えないようにしていたが、もちろん示詩とて火乃と臙脂の行動には疑問を抱いていた。人生を賭けるといって示詩の元へ来ておきながら、実際に一番有能なのはやはり桃衣で、二人には足を引っ張られるばかりだった。それどころか、奥の改革を進める上では妨げにしかならず、考えたくはなくとも「敵情視察に来た黄詠の間者では」と思わずにはいられなかったのだ。
それで蓋を開けてみれば、二人がやって来てからの失せ物の数々、災難の連続、そして今回の一件と、やはり火乃と臙脂が元凶だったとしか考えられない理由付けがいくつも浮かび上がってきた。
「なにを世迷言を……。正妃様の行動は常にここに控える陽炎によって逐一報告されている。火乃、臙脂、お前達両名が正妃様に成した数々の無礼も、すでに知る所にある。往生際が悪いにも程があるぞ」
(え?)
光野が意外な事実をさらりと明かしたことで、それは示詩にとって青天の霹靂とも言える発言となった。
(『正妃様の行動は常にここに控える陽炎によって逐一報告されている』ですって?)
「ええ、光野様、こうなっては白状しますわ!確かに私たちは黄詠様より正妃様の元へ遣わされ、斥候のような真似ごとを致して居りました。けれど、それは全て命を狙う類のものではありませんでしたわ!黄詠様からも、正妃様にお心変えしていただくように働きかけよと、そうとしか告げられず……」
「いかに言い逃れしようと、実際に起こったこ度のことが全てを物語っている。あの黒装束を見習って観念せよ」
「そ、そんな……!どうぞ、ご慈悲を!光野様!陛下!」
食い下がる火乃に、それまで静観していた座龍がとうとう声をかけた。
「俺ぁ光野と違って慈悲深い。美人を見逃してやりたいのはやまやまなんだが、見た所あの黒装束はどうも濡羽の間者ってな線が強い。となると、ここへ正妃を呼びだしたお前が、濡羽と無関係と見るには難しくなってくるのさ。黄詠の出しゃばりだけなら謹慎ぐらいで済ませられるが、他国が絡んでるんじゃあな。せいぜい今の内に親不幸を嘆いておけよ」
内容に見合わず軽い口調のそれは、慈悲深さから程遠い、まるで情容赦の無い留めとなった。
国王の突き放した言葉を受けていよいよ八方塞がりとなった火乃は、常の華やかで明るい彼女を微塵とも感じさせない悲壮な様子で項垂れた。
その場にいた誰もが、連れられて行く火乃の末期を想像した時、張りの強い凛とした高い声が響いた。
「お待ちなさい」
示詩が、ようやくいつもの己を取り戻し、強い瞳で火乃を引き留めていた。
「せ、正妃様……」
「火乃、そなた、私に人生を賭けると言って侍女になりましたわね。あれは全て虚言だったというのですか?」
「それは……」
「私の改革に感銘を受けるどころか、黄詠殿の命を受けて私を陥れようとしていた。それが本当であれば、このまま行っておしまいなさい。ですが、もし、あの時の言葉に少しでも誠の思いが宿っているのであれば、こ度のことは目をつぶるとしましょう。兵たちも皆、私の沙汰がおりるまで手を出すこと罷りなりません。良いですわね」
「正妃様!?」
驚いたのは火乃ばかりではない、示詩と火乃を注視していた者は皆一様に動揺した。
「何を仰っておられるのです、正妃様!その者は、正妃様に無礼な所業を繰り返し、あまつさえ御身を危険に晒したのですぞ!?その様な罪人を不問に付すなど、許されるはずが……!」
中でも一番驚きを隠せずにいた光野が目を向いて訴えたが、示詩はそれへぴしゃりと返した。
「光野殿、被害を受けた私が許すと言っているのですよ。それに、何故陽炎が私の行動をすべて知っていたのか、私はそなたにも聞きたいことが山ほどあります」
「あ、そ、それは……」
光野がたじろいだことで、示詩は全ての元凶がどこにあるかを瞬時に察した。
つまり、全ては「この男」の手の中で踊らされていたのだろう、と。
「もちろん、座龍国王陛下にも、じっくりとお聞かせ願いたく存じます」
「はは……お手柔らかに頼むぜ、正妃様」
じろっと睨みつけた示詩に、冷や汗を垂らして座龍が笑う。
夫と妻であるはずの二人の視線に、刹那、火花が走った。
許すとはいえ、ことは示詩だけの問題ではなくなっていたため、結局火乃の身柄は一度拘束されることになった。臙脂も同様に取り調べを受けることが決まって兵士達が即座に迎い、屋上に残されたのは示詩と座龍、光野と陽炎の四人のみとなった。
示詩は結い上げた髪が乱れるのを気にもせず、一心に座龍を睨みつけている。
座龍は赤い外壁に身を預け、示詩の視線をものともせず城下を眺めている。
荒野はそんな二人を心配げにおろおろと見守り、陽炎は相変わらず無色の瞳で静かに傍に控えていた。
「陛下、正直にお話しして下さい。こ度のこと、よもや、私を囮に使ったのではないですか?」
先に口を開いたのは示詩だった。
言葉の刺々しさを隠しだてもせず、次々と湧き出る怒りを存分に込めた口調だった。
さもあろう、火乃と臙脂が黄詠の刺客だっただけではなく、それを「知っていて静観していた」ことを光野がみずから明かしたのだ。
「まさか、大事な姫さんを囮になんかするはずがねぇだろう。だから、陽炎をあんたにつけておいたんだ。いざってことがねぇようにな」
飄々とした座龍の態度に、示詩は胡散臭さしか感じられずに臍を噛む。
「いざ」という時を想定していたとは、一体いつから?
たった今の話ではないはずだと、歳火に来てから今に至るまでの身辺の出来事を思い出しつつ、示詩は反論する。
「それは、私を囮にしたと言っている様なものです。火乃と臙脂が黄詠殿の差し向けた者だと知っていて、どうして何も言ってはくれなかったのですか」
「姫さんなら大丈夫じゃねぇかと、あんたを買ってたんだよ。こう言っちゃなんだが、姫さんは女にしておくのが惜しいくらい大したタマだ。もし宰相を目指す気があるなら、喜んで取りたててやりたいくらいにな。それに、黄詠は腐っても侍女頭だから、まさかあんたの命を狙うまではしねぇだろうと日和っていた。ああ、そこんところは謝っておくよ、悪かった。だが昔から、女同士の話に男が首を突っ込むのは野暮と相場が決まっているし、本当に、姫さんなら放っておいても自力でどうにかするんじゃねぇかと、期待していたんだ。だからとにかく、あんたを囮にしようだなんて、微塵とも考えちゃいなかったってことさ」
どうやら評価が高いことは嘘でないらしい座龍の言い分は、分からないでもなかったが、結果として示詩が囮にされたことは事実なのだ。だから納得しかねてしまう。
「あの陽炎に私を監視させていたのは、こ度だけの話ではありませんわね。おそらく、私がこの城へ来たその日からずっと動向を探っていた。そうでございましょう?」
そう、思い起こせば、示詩には思い当たる節がいくつもあるのだった。
嫁して来た初日に座龍の王竜に襲われ、助け出された時に感じた妙な浮遊感と衝撃。
竜研究塔で爆発音を聞いて向かう道すがら、何者かの気配を感じた時。
(すべて、『最初から』何らかの災いが降りかかることを知っていて私を監視させていたのだわ)
それに気付いた示詩は、何かの思惑に巻き込まれていると薄々感じておきながら、まったく問題視していなかった己自身の愚かさが一番腹立たしく思えてきた。
(問題は、黄詠殿との確執ばかりではない。座龍陛下……いいえ、おそらく歳火という国のすべてが私の前に立ちはだかる障壁となる)
差し当たっては、座龍などは一番信用が置けない人物であると改めて認識した示詩は、何も答えずに空ばかりを眺めている夫にしびれを切らして近づいた。
「私が、陛下の偽の文に騙されて踊らされているのを、さぞや面白おかしく見ていたのでしょうね!いいえ、それだけでなく、この二月もの間私が精を出して取り組んでいたことごとくを陛下は馬鹿にして遊興の如く御観覧あそばされていたのだわ!こんな屈辱がありましょうか!?確かに私は人質同然に嫁して来た小国の姫です、けれど、これほどの侮辱を受ける謂れなど、どこにもありませんわ!!」
「正妃様、お待ち下され!それは、陛下が正妃様の御身を慮って……っ」
示詩の激昂に首を振って制止しようとした光野を、「いいさ」と軽く座龍がいなす。長い黒髪を風に遊ばせ、相変わらず城外の景色を眺めたままの座龍は、少し二人きりにしてくれと言って急に光野と陽炎を下がらせた。
「姫さん、ちょいとここへきて、あんたの貰った文とかいう奴を見せちゃくれねぇか」
「え……?な、何故、そのようなこと」
腹心の部下を二人も下がらせたとあればよっぽど深刻な打診でもあるのかと思った示詩は、やや拍子抜けした。
それでも、懐から素直に文を出したのは、怒りより何より、座龍からの答えを最優先にしたためだ。
しげしげと偽の文を眺めた座龍は、十字傷のある頬を指でかきながら、いささか感嘆して見せた。
「ふむ、なるほどな。確かにこの印章はおれの龍印によく似ている。騙されるのも無理ねぇやな」
「まだ私を侮辱なさるおつもりでございますか」
「いいや、その逆さ。俺はな、あんたを褒めたいと思ってんだ」
「はぁ?」
渡された偽の文をしげしげと見ながら、座龍の口からはまったくはずれた言葉が飛び出してきたので、示詩の釣り上がっていた目も思わず点になる。
「実際、姫さんはよくやってるよ。俺の竜…天轟を前にした時の度胸といい、黄詠相手に引くどころか宣戦布告して『奥』を引っかきまわしちまったことといい、並みのお姫様じゃこうはいかねぇ。何度も言うようだが、本当に女にしておくのが惜しいくらいだ」
「なにか、褒められている気が致しませんけれど」
これから色仕掛けで落とそうとしている男に「女にしておくのが惜しい」と言われた所で、示詩にとってはなんの益にもならない。
「まあ、ここは素直に褒められておいてくれよ。褒美に、今から姫さんにひとつ、いい話をくれてやるからさ」
「いい話?」
「姫さんはもちろん『終末伝説』を知っているよな?」
「四竜連合国に生を受けて知らぬ者などおりませんわ」
話の端々が国によって若干異なりがあるものの、大まかな流れはどれも一緒だった。
「『世界が終末に近づく頃、陽読の巫女、月読の巫女が現れ、石読の御子の手を取りて、四つの石を携える。さすれば、世界に平和がもたらされん』こんなもん、神話とはいえ、ただのおとぎ話で終わるはずが、厄介なのが実際に四つの石ってのが存在して、力のある巫女も各地に点在してるってことだ。ここにも一個あるが、なぜその石が戦の道具になってんのか、一度見ればよく分かるよ。あれは『力の器』だ。残念ながら、その器を操れる奴はここにいねぇが、保有しているだけでも大国の体面を守れる。この国が腐敗しながらも滅びずにやってこれたのは、多分あれのお蔭なんだろうさ」
「ええ。…………それで、その話のどこが『いい話』ですの?」
右手で顎を撫でながら座龍が話し出したのは、やっぱり示詩にとってはなんの益にもならない、褒美という言葉からはまったく程遠い内容でがっくり肩が落ちる。
あまり期待はしていなかったが、そんな示詩の様子を横目で見て満足げに笑う座龍を見るにつけ、腹立たしさを覚えずにはいられなかった。
「まあ、聞けって。実はここからが本題なんだが、その伝説でしか登場しなかった月読の巫女ってのを、お隣の濡羽が見つけちまったらしくてな。今連合国はそれのお陰で真っ二つに割れようとしている」
「え……?」
(終末を救う二人の巫女のうちの一人、月読の巫女が……?なんですって?)
さすがに驚いて、示詩は腹を立てていたことも忘れて、目を丸くした。
かろうじて開けた口を袖で隠すことはしたが、とても座龍のように平静で聞いていられるような話ではなかった。
「また、御冗談でお茶を濁しているのですか?月読の巫女だなんて、本当に?」
「俺は神話で冗談を言うほど高尚じゃねぇよ。もうあんまり隠しているのも意味がねぇから言うが、あんた達がこの国に来た日、街道を迂回させたのも、やたら情勢が悪化してきたからだったんだ。少しの情報も漏らさねぇ様にと互いに牽制しあってな。俺としちゃ相手をかく乱させる目的もあった。もちろん、ただの盗賊だとしても危険なのはおんなじだがよ」
「それでは、私を監視していたのも、そのためだと?」
「ああ。大国で大きい顔してる割には、みみっちいと思ったかい?すまねぇが、そりゃ俺の力不足のせいだ。月読の巫女を獲得した濡羽は、邪九馬から引き渡しを要求されたが、それを蹴っちまった。体面丸つぶれになった邪九馬が、もちろん許すはずもねぇ。濡羽に戦を仕掛けようと、水面下で連合国に決起を呼びかけた。恭順か、それとも反逆か。そろそろここも決断を迫られる頃だろう」
「なるほど、だから……」
王族でありながら寝耳に水だった示詩は、おそらく園恋宮で過ごしていたため蚊帳の外となったのだろう、父である赤社国王が知らなかったなどとはとても思えない。
だが、これで父・律草が諾々と歳火の言いなりになった理由も判明した。
連合国全土を巻き込んでの戦となれば、確かな後ろ盾でもなければ、赤社のような小国は生き残れないだろう。
律草はおそらく、恭順と反逆の決断すらも他国に預けてしまったのだ。
―――わが父ながら、なんたる優柔不断なことか!
父の不肖ぶりには身の置き所が無いくらい情けなくなってきた示詩ではあるが、それでも、陽炎の監視をつけられるのは我慢ならなかった。
もっといえば、その情勢の悪化がなぜ示詩と関わってくるのか、まったく分からないから納得もできない。
「ですが、私にとっては陛下のお子を授かるのがもっとも重要なことなのです。他国が月読の巫女を獲得しようが戦を起こそうが、私には少しも関わりがありませんわ」
「……まったく、強情な姫さんだな」
顎を軽くそびやかせた示詩に、座龍は呆れたように笑って、ふいに触れてきた。
その瞬間、どくんと大きく脈打った心臓を、示詩は知らぬふりでなだめる。
「俺の提案で、あんたの親父は他国に中立の意志を表明してる。俺は俺で、あんたを嫁にもらったことを他国に伏せている。……これがどういうことか、本当に分からねぇかい?」
「私の立場を曖昧にしていることが、私の身を脅かしていると?何故そのような……!?」
「その綺麗な頭でゆっくり考えてみな。そうして、これからは目立つような行動は控えるんだ。言って聞く様な耳を持ってるとは思えねぇが、この忠告が俺からの褒美だ。受け取るかどうかあんたの自由にしていいが、今回みてぇに、いつでも陽炎が守ってやれるとは限らねぇ。そんで、俺はご覧の通りあっちこっち体を貸す用があって忙しい。そこんとこを、ようく肝に銘じておいてくれ」
虎口は黄詠で竜穴は座龍ってとこでしょうか。
一難去っても二難三難と待ち受けている示詩に応援のお便りをお待ちしてます(笑)