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最強悪役令嬢と魔王が本気で殴り合ってる横で、最弱王子が紅茶飲んでます  作者: 怒れる布団


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6/6

クレイジー フォー ユー 〜最弱王子は君に首ったけ〜

 

 魔王ルードリッヒを寝室のベッドに運び込み、ソフィアはいそいそと魔王の介護を始めようとする。


 しかし、一ヶ月間、魔王の指先一つから排泄までを管理すると宣言したソフィアだったが――その野望は、結局半分ほど潰えることになった。


 実はアンジェリカ、ちゃっかり薬の解毒剤?を用意していたのだ。


「アンジェリカ、恩にきる」


 魔王が心の底から礼を言う。


「だって、15歳の義妹に一ヶ月フルタイムで魔王の重介護なんて、労基に怒られるじゃない! 労働環境のホワイト化は基本よ!」


「ロウキ……? ホワイト……?」


 俺が首を傾げている間に、アンジェリカは魔王に解毒剤を飲ませた。

 この解毒剤、激苦、めちゃマズらしい。


 ソフィアは


「お姉さま、話が違います……!」


 と、もう一度ヤンデレが目を覚ましそうなほど不満げだったが、こればかりは譲れないようだった。


「どう考えても力が必要な介助があるからね。彼の尊厳なんて破壊しつくしたいところだけど、ほら、魔族の従者たちが泣いて『自分たちの主に慈悲を』って懇願してくるから…」


「あ、ありがとうございます……!」


 いつの間にか部屋の前にいた

 魔王の部下たちが、泣きながらアンジェリカを拝んでいる。


「あ、でも完全に体が動くわけじゃないのよ。通常の三分の一程度の能力しか発揮できないから、その辺はソフィアのヤンデレが復活しない程度におもちゃになってね?」


 ……やっぱり魔女だ。慈悲なんてなかった。


「お嬢様、やっぱりソフィア様にお優しいです」


「エイダ、当たり前でしょう。可愛い義妹の願いを無碍にするわけにはいかないわ」


 魔王の尊厳よりも、義妹のメンタルを優先したアンジェリカ。まあ、最低限の魔王の尊厳は守られそうだし、ある意味で彼女らしい「愛」の形だった。


 ------------


 そして今。

 俺とアンジェリカは、ソフィアとエイダ(見張り役として)を城に残し、二人きりであの森へと戻ってきていた。


 太陽はすでに西の空へと傾き、空は茜色に染まって、気の早い星が瞬き始めていた。


 隣を歩くアンジェリカは、相変わらず眉間に深いシワを刻んでいる。


「…………」


「……なあ、アンジェリカ。何をそんなに不機嫌そうに悩んでるんだ?」


 俺が恐る恐る尋ねると、彼女は足を止め、忌々しそうに吐き捨てた。


「……解せぬ」


「だから、何が?」


「ソフィアがあんなに魔王を愛するなんて、私の知っている『前世の本』には、一行も書いてなかった。あの子は、あんたのことを好きになるはずだったのに何故かしら?」


 彼女の言う『本』。この行動に駆り立てている、予言の書。


「『本』と違うことなんて、もう山ほど起きてるだろ。ピクニックの時、俺がお前に罵られた時点で、その『本』の賞味期限は切れてるんだよ」


「おかしいわよ。今までいろんな人を観察してて分かったの。行動が違っても、好きになる相手だけは、運命の通りだった。」


 俺は少し首を傾げて彼女の次の発言を待った。


「だから、ソフィアもあんたと恋人同士になると思ってたの……」


 アンジェリカは自分の光る頭に手をやった。


「……お前、 俺に恋に落ちないように髪をそったんだよな?」


「まあ、そうなんだけど……

 運命の強制力、これが私は怖かった。

 ……例えば、あんたの姉のルカ姫様。彼女は騎士のアルフレドと恋に落ちるシナリオなんだけど、ルカ姫様は最近まで彼に塩対応だった。なのに今日、あんたの姉がアルフレドを見つめる視線、かなり熱を帯びてたわよ?」


「アルフレド……? ああ、いたな。完全に忘れてた。あいつが姉上と?後で殴っておこう」


 フフ。

 彼女が静かに笑う。


「『本』の中の私は、かなり悲惨な環境で育って、孤独に足掻いた挙句、初めて優しくされたあんたに重たい恋をして。でも結局アンジェリカはひとかけらも報われなかったわね…」


 アンジェリカは自嘲気味に笑う。


「この世界の私は孤独なんて背負ってない。ソフィアともエイダとも仲良し。友達もたくさんいるのよ?それでも不安で仕方ないの。あんたに恋をして、いつか醜くい魔女となる運命が待ってるかもって…」


 運命に抗おうとして、必死に自分の美しい髪すら投げ出した彼女。その不器用な努力を思うと、俺の胸の奥が大きく騒いだ。


 俺は小さく溜息をつく。そして…


「お前の言う''俺''はお前の髪を讃えて惚れられたらしいけど…」


 一呼吸おいて俺は大きく息を吸い、大声でまくし立てた。


「君の頭皮!とても綺麗ですねぇー!夕日を浴びて真珠みたいに輝いてます!!」


 言ってやった。


 アンジェリカが、びっくりしたように目を丸くする。


  そして、

 しばし沈黙のあと。


 _________あーっはっはっは

 と大爆笑。

 酸欠寸前、くの字になって笑い続ける。


 全く、人の真面目な賛辞を笑いとばすんじゃないよ。


「あーもう!フッ、ふふっ、そ、そんな賞賛の仕方ある?」


 最弱王子から最大の攻撃だ。


「で?俺の事、好きになった?」


「そんな雑なお世辞で…ふふふ…愛なんか生まれないわよ。」


「だよなぁ。」


 やっぱり頭皮はダメだったかと少しがっかりしながら彼女を見て


「だいたい、お前は難しく考えすぎなんだよ」


 と一言。


「……何がよ」


「運命?前世?。俺たち、すでに『本』のシナリオからかけ離れた行動をしてるよな?」


 俺は一歩、彼女に歩み寄った。


 アンジェリカは大きな瞳を揺らして俺を見上げる。


「『本』になにが書いてあるのか知らないが、俺の前にいるのは、魔王を全力で殴りつけて、エグい薬飲ませて、でも義妹のためにわざわざ解毒剤を作る、最高に格好良くて、最高に甘い、 令嬢だ。嫉妬に狂った魔女なんかじゃない」


 俺は彼女の手を取った。


 拳だこがある、鍛え抜かれた力強い手だ。多分、ここまで強くなるのは並大抵の努力ではなかったのだろう。


「お前は、自分が納得いかない運命を、普通の女がやらない方法で全部殴り飛ばした。

『本』の中のアンジェリカとは、もう別人なのさ。」


「な…によ……」


「不安だっていうなら、何度でも言ってやる。

 アンジェリカ、お前はちゃんと人を愛するってことを理解してて、自分勝手に恋に狂って人を傷つけるような女じゃない」


 いまだ太陽の名残が、アンジェリカの輪郭を淡く縁取っている。

 夕焼けはもう消えかけているのに、その白い顔と頭だけが不自然に鮮やかだった。


 アンジェリカは、反射的に何か言い返そうとした。だが、言葉は唇の奥で絡まり、音にならない。


 唇がわずかに震える。


 ――否定しなければ。

 そう思っているのに、否定の言葉だけが見つからない。


 その沈黙を、俺は見逃さなかった。


「で、本の世界とは違うことが、もう一つある」


 アンジェリカの喉が小さく鳴る。


「……もったいぶらないで」


 声は強気だが、視線が合わない。

 逃げ場を探している目だった。


「――お前が好きだ。アンジェリカ」


 飾らず、逃げ道も用意せず、俺はただそれだけを言った。


 アンジェリカは、まるで弾かれたみたいに息を詰まらせた。

 視線は俺の目を見つめ、そのまま動かない。


 握った手から――力が抜けた。


「……嘘でしょ」


 ぽつりと、零れた声は驚くほど弱かった。


「嘘よ。からかわないで……

『本』の中のあんたは、私になんの興味もなかったはずよ……」


 ゆっくりと、顔を下げる。


「嘘じゃ無い」


 耳元で囁いた。


 夕闇の中でもはっきり分かるほど、

 その頬は熱を帯び、鮮やかな赤に染まっていた。


「……信じられない」


 声が掠れる。


「……あんたが、そんなバカみたいな事言わなければ……

 ちゃんと、逃げ切れたのに」


 アンジェリカは自分に言い聞かせるように、呟いた。


「最後の、最後で……負けちゃった」


「アンジェリカ……」


「……やっぱり好きになっちゃったじゃない!」


 感情が堰を切った。


「ああ、もうどうしよう!

『本』の通りになっちゃった!!」


 彼女は泣き笑いの顔のまま、

 勢いよく俺の胸に額――つるつるのそれをぶつけてきた。


 ゴンッ。


「ぐっ……!」


 正直、痛かった。

 だがそれ以上に、胸の奥が締めつけられた。


「髪を剃ったって、何をしたって無駄だった……」


 額を押し当てたまま、アンジェリカは続ける。


「結局、私はあんたに恋をする。

 でも……でもね」


 声が震える。


「ハゲ頭を褒める男がいるなんて、

 夢にも思わなかったわ……」


 小さく息を吸う音。


「もう、何があっても知らないから……」


 彼女の肩が、わずかに震え始めた。


 俺は、そっと腕を回し、彼女を抱き寄せる。


 髪のない頭の滑らかな感触。

 胸越しに伝わる、必死に抑え込まれた鼓動。


「だから言ってるだろ」


 彼女の耳元で、静かに言った。


「『本』の中とは一緒じゃない。

 お前は髪がないし、俺はソフィアじゃなく――

 アンジェリカって女に惚れたんだ」


 腕に力を込める。


「多分この世界の俺は、

 どんな髪型のお前でも、何度でも惚れて、お前を追いかけるのさ」


 アンジェリカは、泣きそうな呼吸を繰り返しながら、

 小さく、でも確かに頷いた。


 ――彼女が恐れていた“シナリオ”は、

 この瞬間、完膚なきまでに書き換えられたのだ。



「……さあ、帰るぞ。最強令嬢。

 このあと俺を『へびめた衣装』を着てベッドに押し倒してくれ!」


 願望を言うと俺はバラ色に染まった彼女の右ストレートにぶっとばされた。


 最強に強いお前、最弱の俺はお前に首ったけ!


 終わり

読んでいただきありがとうございました。

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