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最強悪役令嬢と魔王が本気で殴り合ってる横で、最弱王子が紅茶飲んでます  作者: 怒れる布団


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4/6

ティータイムの後、ヤります。え、何を?〜魔王とガチの殴り合いです〜

 俺の問いに、黒ずくめの男

 ――否、多分、魔王は、ようやく俺に興味を示したらしい顔でこちらを一瞥した。


「……ああ。君か、ソフィアと共に魔王討伐に加わる“未来の勇者王子”」


 身長、負けてる。くっそう。

 2センチくらいか。


「名乗れ。ここは王家の管理地。不法侵入だぞ」


「それは失礼。私はルードリッヒ。現・魔王だ」


 言葉は丁寧だが、なぜか空気が一段階重くなる。

 背後で雷が鳴った。演出?


「魔王が、なぜここに?」


 俺が剣に手をかけた瞬間、アンジェリカが片手を上げて制した。


「ダメ。あんたじゃ、敵わない」


 俺の心は静かに折れた。

 ソウデスネー


 ――ルードリッヒは、キラキラとしたエフェクトを背負いながら、悠然と口を開く。


「それにしてもアンジェリカ。あの美しい髪はどうしたのだ?」


 その視線は、彼女の光を反射する頭部へと落ちる。


「あの、絹のようにしなやかで――

 光と共に流れるラベンダー色の髪。

 いつか、この指に絡め取る日を楽しみにしていたというのに……」


「引っこ抜く気ね?」


 間髪入れずにアンジェリカが返す。


「いや、違うと思う」


 俺も反射で突っ込んだ。


「……君の髪の美しさを讃えたのだ」


 多分、魔王は口説いているつもりだったのだろう。

 だがアンジェリカには何も刺さらなかったようだ。


 ルードリッヒは一瞬、間を置き、咳払いを一つ。


「……ともかく」


 何事もなかったかのように背筋を伸ばす。

 その拍子に、先ほど華麗に決まった左フックの入ったみぞおちを、無意識に押さえたのを――


 俺は、見なかったことにしてやる。


  「ところで、勇者の子孫……」


「カイトだ」


「では、カイト王子。

 貴殿はなぜこんな所にいるのかな?」


 ルードリッヒは首を傾げ、どこか楽しげに続けた。


「今日は王妃主催の“お見合いピクニック”だったはずだが?花と食事と未来の妃。

 魔王と遭遇する予定はなかったのでは?」


 ……よくご存知ですねぇ。でも、ピクニックより魅力のあるものを、見つけてしまったから。


 魔王は、こちらの反応を見て目を細める。


「なるほど。そういう事か…」


 一拍置いて、声音が少しだけ柔らぐ。


「それではピクニックの続きはお茶会としようか――」


 にこり、と魔王らしからぬ爽やかな笑み。


「カイト王子、君も城に招待しよう」


 …格好つけてるけど、まだ、みぞおちを抑えてる。痛いんだ。


「招待?」


「そう。ソフィアも待っている」


 アンジェリカが前のめりになる。


「行く」


 なんですと?!俺は驚いて


「ヤバイだろ!?」


 と、とめたが


「ソフィアが行っちゃってるし、それにもう何回か行ってるから大丈夫」


 魔王城ってそんな友達の家みたいに行っていいもんなのか…


「それに青いリンゴのアップルパイは滅多に拝めない代物よ。逃したくないわ」


 食べ物に釣られてるんじゃないよ!


 魔王ルードリッヒが肩をすくめる。


「過保護な姉だ。だが安心しろ、私は彼女に指一本――」


「触れたら爪剥ぎ」


 どこのホラーですか?


「君は本当に やりそうだね」


 魔王は笑う。

 ――顔、強張ってるけどな。


「で?あんた、ついてくる?」


「…俺も…行く。」

 

全く心配はないけど心配だ。


「ふーん。まあ、いいんじゃない。

 魔王城の料理長が本気出したアップルパイ堪能しましょ?」


「……その料理長、気に入ったなら引き抜けば?」


 アンジェリカが眉を下げる。


「誘ったけど断られた」


 ルードリッヒは目を見開く。


「いつの間に…」


「あなたの城に27回も行ってれば、そういう機会はあるものよ」


 俺はハハハと乾いた笑いをもらすしかなかった。


 ---


 黒い魔法陣が地面に広がる。


「転移だ。手を取れ」


 魔王がそう言って差し出した手を、エイダが一瞬で叩き落とした。


「お嬢様に触らないで」


「厳しいな」


「触るなら王子にして。」


 俺はドンと魔王の方へ突き飛ばされた。この侍女も強い!


「ちょっと待て!?転移魔法って罠なんじゃ――」


 言い終わる前に、魔王が俺の右手を掴み、アンジェリカが俺の左腕を掴んだ。エイダもアンジェリカの手を取る。


「ほら、行くわよ。未来の勇者様」


「嫌味!!」


 視界が反転する。


 雷鳴。浮遊感。

 そして、


 ----------------------------------

 黒曜石の床は、磨き上げられた鏡のように艶めいていた。

 禍々しさのない広めの部屋。


 罠ではなかったようだ。


 部屋の中央のテーブルには白いクロスが掛けられ、

 淡いバラ模様の陶磁器。

 壁際には背の低い飾り棚が並び、ガラスケースの中にはぬいぐるみや、ドレス人形、陶器のオルゴールなどが陳列している。


 ……可愛い。


 ここどこ?


 甘い香りが鼻をくすぐった。

 焼き林檎とシナモン――アップルパイだ。


「ここ……もしかして魔王の城?」


 思わず小声で呟く。


 天井から下がるシャンデリアは、繊細なガラス製で、光も柔らかい。

 花瓶には魔界の花と思われる可憐な花。


(城というより……貴婦人のサロンじゃないか)


 魔王の趣味?俺が訝っていると、金髪に緑の瞳の少女がぱたぱたと駆け寄ってくる。


「お姉さま!」


「ソフィア!」


 二人はぎゅっと抱き合った。

 ……仲、良すぎない?


「無事だった?怖い思いしてない?」


「ううん。ルードリッヒ様、優しいよ?」


 優しい魔王とは。


 優雅なテーブルに、着席すると魔王は当然のように自らアップルパイに銀のナイフを入れた。


 さくり。


 青みがかった林檎の層がほどけ、甘酸っぱい香りがふわりと立ちのぼる。


「本当に青いリンゴなんてあるんですね。初めて見ました」


 ソフィアが珍しそうに見ている。


 青リンゴではなく青いリンゴのパイ。

 焼き上がった茶色の生地と青いリンゴのコントラスト。


 ……見た目、最悪だ。


「どうぞ。焼きたてだ」


「……待て」


 俺は魔王の手をとめた。


「俺が毒味をする」


 一瞬、室内が静まる。


 アンジェリカが、観察するように俺を見る。


「王子」


「もし毒が入ってたら――」


「大丈夫よ」


 あっさりと言われた。


 俺が言葉を失っていると、彼女は小さく肩をすくめる。


「私もソフィアも、エイダも」


 さらりと続ける。


「毒なんて効かないように訓練、受けてるから」


「……訓練?」


 思わず聞き返した。


 ソフィアがにこにこしながら頷く。


「はい。死ぬのとか、痺れるのとか、幻覚が出るのとか、効きませんし、口に入れれば味で、すぐわかります」


「さらっと言うな…」


 俺は呆れた。モロー家はどんな教育方針?


 アンジェリカが、ほんの少しだけ――

 本当に一瞬だけ、口元を緩めた。


「ふふ」


(……今、笑った?)


 魔王ルードリッヒも、面白そうに紅茶を注ぐ。


「勇者の血を引く王子、毒味を買って出るとは豪胆だな」


「あ、私、紅茶に砂糖いらない」


「このティーカップ、可愛い」


「お嬢様とソフィア様にはレモンよ!」


 エイダが魔王に命令した。


  完璧に準備が整うと

 アンジェリカは平然とアップルパイを口に運ぶ。


 もぐ。


「うん、美味しい!」


 ソフィアも続く。


「はい!」


 エイダ

「あとでレシピもらえるかしら?」


 問題なし。


 毒の気配も、罠の気配もない。


 俺は、フォークを持ったまま固まった。


「……俺の役目は?」


 そう言うと、アンジェリカがこちらを見る。


「あんたは――」


 一瞬、間を置いて。


「普通の人として座って、食べればいいの」


 魔王が頷く。


「せっかくのアップルパイだ。冷める」


 ……俺は、ゆっくりフォークで一口。


 甘くて、少し酸っぱくて。


 ――普通に、美味しい。


 その向こうで、

 毒も魔王も気にしない女たちが、優雅にお茶を飲んでいる。


(……俺が最弱?)


 そう思いながら、

 俺はアップルパイをもう一口食べた。


 ――魔王城のティータイムは、最後まで平和だった。


……が


 魔王は三杯目の紅茶を注ぎながら、当然のように言った。


「本題だ」


 途端に空気が冷えた。


 嫌な予感しかしない。


 魔王が不敵に笑い


「アンジェリカ、ソフィア――

 今から二人とも私の花嫁になってもらおう」


 ソフィアは一瞬、悲しそうな顔をした。


 聞いていたアンジェリカは紅茶の最後の一口を飲み干し、カップを乱暴にガシャンと置いた。


「……ふう。美味しかった」


 満足げに息をつく。


 彼女は立ち上がり、

 ドレスの布を軽く払う。


「アップルパイ、ご馳走様」


 魔王――ルードリッヒの視線が、ゆっくりと彼女に向く。


「さて」


 その声が、一段低くなる。


「……ヤる?」


 一瞬、沈黙。


 俺は反射的に叫んだ。


「待て待て待て待て!!

 ヤる?ってなんだ!」


 エロい事?そうだよな!そうだと言ってくれ!!いや、それはそれでアカンやつだけど!


 アンジェリカは不思議そうに首をかしげた。


「殺し合いだけど?なんかおかしい?」


 やっぱりそのヤるかぁー!!

 俺は叫ぶ。


「おかしい!!」


 魔王は、楽しそうに笑った。


「君は本当に切り替えが早いな、アンジェリカ」


「無駄話は不要よ。求婚は何度も断ってるわよね。今日は普通に帰るつもりだったのに、あなた私の作っといた帰り道ふさいだわね?

ヤるしか無いじゃない」


 アンジェリカは振り返り、優しく言う。


「ソフィア。エイダ、ついでに殿下、危ないから端に避難しててね?」


 ----------------------------------


「最初に確認だけど……

 今日は殴り合いでカタをつけましょ?魔法だと周りを巻き込んじゃうから」


 ソフィアが目を潤ませる。


「お姉さま。こんな時まで私たちの事を気遣ってくださるなんて!」


「はい、お嬢様は淑女の鏡です」

 エイダが同調する。


 魔王と殴り合う淑女。淑女の鏡とは?


 魔王は言う。

「それは私が不利ではないか?魔法では君より少し長けてるいるというのに」


「地の利はあなたにあるでしょう?」


 そう言って先に動いたのは、アンジェリカだった。


 踏み込み。

 拳が風を切る。

 ヒュという音すら

 置き去りにする速度。


「――っ!」

 本気で魔王の顔面を狙った一撃は

 寸前で受け止められた。


 受け止められたアンジェリカの手は

 魔王に握られ、骨に響く鈍い衝撃が、アンジェリカの腕を震わせる。


「……そうか」


 魔王――ルードリッヒは、少しだけ目を細めた。


「今日は、本気なんだな?」


「いつも本気よ」


 アンジェリカは即座に魔王に足蹴りをしかけ距離を取った。


 右、左、右、左

 拳同士、一切の間を挟まない連撃。

 魔王もアンジェリカの頭、顔面、腹を狙って全力で殴りかかっている。


 …いくら自分より強い相手でも、やっぱり女を殴るのは、俺は嫌だな。


 しかし――

 魔王は

容赦は無し。

 躊躇も無し。


 アンジェリカの攻撃はだんだん受け流されるようになってきた。


 拳が、決定打にならない。


「チッ……!」


 アンジェリカの舌打ちと同時に、魔王の反撃。


 重い。質量が違う。


 アンジェリカの腹に一撃が入り、瞬間、宙を吹っ飛んだ。


 ――彼女の細い体が黒い床に叩きつけられる。


「くっ…」


「お姉さまっ!!!」

「お嬢様!!!」

 二人が叫ぶ。


 ――それでもアンジェリカはすぐに起き上がった。



「アンジェリカ!!」

 俺は思わず飛び出す。


 魔王は、少し困ったように笑った。


「おやおや、カイト王子、これは二人の戦いだよ。邪魔しないでいただきたい」


「ふざけんな!」


 俺は、もう考える前に叫んでいた。


「女にこんな事して、言い訳ないだろ!

 だいたい――お前、振られたんだよ!

 もうあきらめろよ!」


 ……言った。言ってしまった。


 その瞬間だった。


 魔王の目から、感情というものが完全に消えた。


 怒りですらない。

 ただ、氷点下。


「……なるほど」


 低い声が、床を這う。


「貴様は、命乞いすらできないらしい」


 次の瞬間、黒い玉が魔王の上で輝き始めた。


「っ――!?」


 食らえば死ぬ。本能が告げる。

 しかし、恐怖で膝が言うことを聞かなかった。


「安心するといい」


 魔王はうっすらと笑う。


「痛みは一瞬だ」


 禍々しい玉が俺に向かって飛んでくる。


 ――殺される。


 確信した、その刹那。


 俺の体は宙を浮いた。

 アンジェリカが俺を抱き上げ飛び上がったのだ。

 スタッ、と音もなく魔王から距離を取って着地する。


「カイト殿下…無茶苦茶じゃない?」


 俺は手で顔を覆った。これは恥ずかしい。格好つけて飛び出して、結局アンジェリカの邪魔をした。しかもお姫様抱っこ!


 そっと俺を床におろしてアンジェリカが笑う。


「まぁ、でも守られる女もちょっと嬉しいわね」


 アンジェリカは魔王に向き直り一歩、前に出る。


「……押し切れないわ。前みたいに」


 アンジェリカは歯を食いしばった。


「魔王、あなた……ちょっと、いえ、かなり強くなってない?」


 魔王は肩をすくめた。


「君に何度も殴られてたら、嫌でも鍛えられる」


 アンジェリカは鼻で笑う。


「……短期間で成長する魔王とか、聞いてないんだけど」


「私はまだ完全に能力が開花した訳では無いからね。それに負ければ君に殺られてしまう。必死なのさ」


 アンジェリカが負ければお前にヤられてしまうんですね。わかります。


 そう呟くとエイダから、強烈なキックが俺に入った。

 スミマセン。


 視線がぶつかる。


 魔王が余裕で言う。


「それで…

 続けるかい?君が私の手をとれば痛い思いをしなくてすむよ。それでも辞めないなら、もう容赦はしない」


 アンジェリカは、ふっと息を吐いた。


「……前から言ってるけど」


 静かな声だった。

 けれど、次の言葉ははっきりとした拒絶だった。


「私たち姉妹を侍らせようって考え方そのものが、気に入らないの」


 魔王の表情は相変わらず微笑んでいる。


「どちらも同じくらい大切にするよ」


 アンジェリカは拳を握り直す。


「価値観の違いね」


  俺は内心、かなりあせった。

 今の状況を、分析するとアンジェリカは不利だ。今の魔王は彼女より強い。


 それがわからないアンジェリカでは無いはずだが――


 だが、その口元が、わずかに歪む。


「まあ、でも計算のうちかな……」


 アンジェリカは、拳の感触を確かめるように指を鳴らし ニヤリ、と笑った。

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