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人工衛星Ⅱ
その朝、地上のすべての画面が一斉に“空白”になった。
衛星信号が消え、通信も航路も途絶えた。
ただ青空だけが、何事もなかったかのように広がっていた
GPSの座標は虚数を返し、気象モデルは崩壊し、
株式も鉄道も軍も、指針を失った。
そして早くも天候予報は再び「勘」に戻った。
混乱は静かに、しかし確実に拡がっていった。
飛行機は着陸地点を見失い、海底ケーブルが過負荷で焼けた。
都市では信号が同期を外し、
夜の街は明滅する光があり秩序を失い、混乱した状態となった。
政府は非常通信を出そうとしたが、誰も正確な時間を知らなかった。
「午後八時」と告げても、その“八時”がどの地域の基準か誰もわからない。
国境線は再び物理的な線となり、
人々は、見えない衛星が結んでいた“関係”が断ち切られたことに気づいた。
夜空にはただ、虚無の青が広がる。
星々は遠く、しかし不気味なほど鮮明だった。
人々は久しぶりに天を仰いだ。
天候を”読む”ことが蘇り、理論計算を書く手が震えながらも働いた。
それは不便で、危険で、しかしどこか懐かしい。
そしてかつて正確であったことが、ひとつ残らず不確かになった。




