時間(その物)case1.時間がない世界
この世界には、時間がなかった。
草は芽吹いた瞬間に永遠の芽であり、石は割れた瞬間に永遠の破片だった。
彼らの言葉に「昨日」も「明日」も存在しない。ただ「ある」だけ。
そこに、ある日、「時間」が降り立った。
時間は姿を持たないが、世界を震わせる存在感を放っていた。
——私が来た。
そう告げるだけで、世界は変わりはじめた。
雲が流れ、影が伸び、草が成長し、枯れ落ちた。
永遠だったものは、有限に刻まれていった。
そのような「時間に依存した変化」が訪れた。停滞も終わりを迎え、未知が生まれた。
時間はただ見つめていた。
自らが楽園を壊したのか、牢獄を解いたのか、その答えを知ることはできない
ある者は「進歩」を見た。
歴史が生まれ、学びと技が積み重なり、文明が立ち上がっていく。
ある者は「破滅」を見た。
戦が起こり、欲望が拡大し、終焉が避けられなくなる。
進歩か、破滅か。
楽園か、牢獄か。
それは常に表裏一体であり、時間そのものも答えを持たなかった。
ただひとつ確かなのは——「歴史」が始まった、という事実だけだった。
時間はその歩みを止めず、世界を刻み続ける。
実際、素粒子から今に至るまで時間はいろいろな変化をもたらした。