表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

エピローグ:哀しい結論

 夜も更け、居酒屋「舞子」のざわめきは少し落ち着いてきた。

 追加で頼んだ氷見うどんをすすりながら、黒川がぽつりと切り出した。


「……で、結局のところさ。一之石と波多野、くっつくと思うか?」


 唐突な問いに、宮本が噴き出した。

「なによその話題転換! でも……まぁ、あの子たちの距離感は、見てて微笑ましいわね」


 中条も盃を傾け、にやりと笑う。

「でも結奈ちゃんって、この街の一番高いビルを所有してるITコンチェルンの会長の孫娘でしょ? 千尋、そこはどう思う?」


 黒川はジョッキを掲げ、真顔でうなった。実際問題、結奈の祖父は経団連の幹部が未だに挨拶にわざわざ訪れる重鎮。北陸経済における最重要人物である。

「そこがなぁ……。わたしなんか庶民すぎて想像もつかんわ。けど、あの会長さんにとっては孫娘の相手が一之石って、むしろ“歓迎”なんじゃねぇの?」


 宮本がすかさず頷く。

「そうよ。だって数学オリンピックの金メダルはほぼ間違いないんでしょう? 基幹数学って、いまやAI研究の人材輩出において最重要の学問分野よ。結奈ちゃんのお祖父様にとって、これほどの良縁はないんじゃない?」


 中条が肩をすくめた。

「でも……美羽ちゃんも紗月ちゃんも、明らかに孝和くんのこと好きよね。私は結奈ちゃんだけを応援するってわけにはいかないなぁ」


 三人は顔を見合わせて、同時に吹き出した。


「おいおい、“正妻戦争”はまだ続いてるってか!」

「結局、わたしたちが一番楽しんでるのかもね」

「……青春って、ほんと残酷で、でも眩しい」


 笑いの余韻が収まると、ふと静けさが戻った。

 それに、と3人とも思うのだ。最終的には美桜がいない限り、一之石孝和にとっての本当の答えは出ない、と。

 黒川が天井を仰ぎ、大きく息を吐く。


「……でもな。一之石みたいな男、大人になったら何故かいないんだよなぁ」


 その言葉に、宮本も中条も、思わず黙り込んだ。

 胸にじんわりと広がる哀しさと、それを包み込むような誇らしさ。


 グラスの中の氷がカランと鳴る。

 笑いから始まり、哀愁で締めくくられる夜。


 ――一之石孝和という存在は、三人にとっても、そしてこの街にとっても、消えることのない影と光であり続けるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ