01話 メッセージ
昨日は少し期待をしていたのに、やっぱりこの世の中はつまらないものばかりだと洸介は思った。
あくまで自分の価値観であるというのは重々わかってはいるが、自分の価値観ほど大事なものは少ない。大切にはしないといけなものではある。バカなことをしても、罪を犯したとしても面白いと思うことは基本的にはいいことではある。
そうやって生半可な気持ちでいるからいつまで経っても面白い事には出会わないことも知っている。自分がどんな人間なのかをわかっているからこそ、刺激という物は欲しいものなのだ。
「洸介ーごはんよー」
「はーい」
一階のキッチンから母の声が聞こえた。今は特に何もしていないので早く晩御飯を食べに部屋を出ようとした。
が、生憎ベッドに寝っ転がっていたところ体を起こしたときに洸介のスマホが鳴ってしまった。
ピロリン♪
タイミングが悪すぎて投げ出したくなるが、一応何の連絡かを確認した。祥平からだった。こいつからくるメッセージは碌なものでもないが、とりあえず中身を見てみる。
『やっぱり青春はしておかないとだよね』
「…………………何言ってるんだこいつ………」
「ごはん冷めるわよー」
「はいはい今行くー」
母に急かされた洸介はすぐに階段を下りた。
『だったらやっぱり少しはイケナイことしようよ!』
晩御飯を食べ終わり直接風呂に入った後、洸介は自分の部屋に戻って来た。スマホにまたもやメッセージが来ているがどうせ祥平だからと無視してゲームをし始めた。
数分後、ゲームをしている最中にスマホが鳴りやまなくなった。祥平はやっぱりしつこくメッセージを送っていた。何をそんなに伝えたいのかわからないのでゲームは一時中断、スマホを確認した。
『ねー返事しろよー』
「面倒臭ぇな……」
『なんだよしつこいな』『ゲームしたいんだけど』
『いやいやそんなことよりさ、夏休みの話をしようよ』
『今日はもう眠たい』
『ダウト』『ゲームやってたくせに』
『おやすみー』
『あ、おい!待てぇ!!』
正直どんなに仲が良くても会話をするのは面倒なので今日はもう寝ることにした。部屋の電気を消してベッドに寝っ転がった。
暑い…あ、エアコン…………
エアコンのスイッチを入れるのを忘れたことに気づき、リモコンを暗闇の中で探す。確か机の上に置いていたはずなので、手で頑張って探し出した。リモコンらしきものを見つけ全体を触ってみる。
ボタンの配置的にここで冷房を入れれるはず…
ピッ
見事にエアコンをつけることに成功した。なんかこういうことがあると嬉しくなる洸介は少しテンションが上がった。明日はいい事があるかもしれない、と思いながら眠りについた。
…ピピ…ピピピピ………ピピ
ピッ
……もう朝かよ…時間が経つのは本当に早いな…
いつの間にか翌日になっていた。現在時刻は午前七時三十七分。寝坊という訳ではない、むしろ早く起きれた方なので洸介は朝はゆっくりできそうと思った。ベッドから跳ね起き、階段を下りて一階に行った。まだ両親は帰ってきていない。
真原家は父、母、洸介の三人家族である。共働きであるので、朝は大体洸介一人が残されることが多い。両親の二人とも深夜に仕事に出かけて朝まで帰ってこないので、大体冷蔵庫に朝ごはんが入っていることが多々ある。
洸介は冷蔵庫を開けて中を見た。ラップをされているご飯とみそ汁、そして納豆がそばに置いてあった。納豆以外を電子レンジにぶち込み温める。
あ、そうだ。あの後どうなったんだろ…
昨日の夜の出来事を思い出した。祥平とメッセージを送り合っていて、最後強引に無視して眠りについたので、寝ている間の出来事は全く見ていない。
自分の部屋に戻り充電していたスマホを確認する。メッセージには未読が三件あった。すぐに開いてみる。
『じゃあ学校で話合おうよ』『明日ね』『おやすみ』
あいつ絶対"おやすみ"は言う奴だよな…そういうところ結構好きだけど。
ピーッピーッ
そう思っていると電子レンジが温め終わった。すぐに一階に降りてご飯とみそ汁を取り出し箸を出してテーブルに並べる。納豆も冷蔵庫から取り出して手を合わせる。
「いただきます」
祥平が"おやすみ"を絶対言うとか思っている洸介も"いただきます"と"ごちそうさま"は絶対言う人である。どんなに忙しくても手を合わせることはルーティーンとしているので絶対に忘れないようにしている。
「ごちそうさま」
ご飯を食べるスピードはまあまあ速いので必ず言うようにしているそうだ。本人もそうであってほしいと言っているが、残念ながら本当の理由はわからない。意識はしているが、無意識でも言うので体に染みついているのではと祥平は思っている。
食べ終わったら茶碗を水に漬けて二階に上がった。制服に着替えてリュックサックを背負う。
「行ってきまーす」
洸介は玄関のドアを勢いよく開け、学校に向かって歩いて行った。