表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし社長と溺愛契約(こちら、あやかし移住転職サービスですー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋)  作者: まえばる蒔乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

21

「うどんは土地で色々味があるよねえ。香川の讃岐に富山の氷見に、秋田の稲庭に、群馬の水沢。おじさん若い頃に修行で色々食べに行ったなあ」

「いいですねえ」

「近場なら五島のうどんもよかったよ」

「へ〜……うーん、いつか全国各地のおうどん食べに行きたいなあ」


 私の言葉に川副さんはニコニコする。


「行けばいいのに。篠崎さん、ちゃんとお休みくれるでしょ? 週末で一泊二日とか、行ってくればいいじゃない」

「そうですねぇ。あはは、前職で勤めてる間に、すっかり旅行に行く習慣失っちゃって…」

「行けるときに行くのが大事だよ、楓ちゃん。これおじさんからの人生訓」


 ウインクをする川副さん。

 その時、隣で黙々と食事をしていた篠崎さんが会話に入ってくる。


「楓、旅行に行くなら先に言えよ」

「もちろんです、お仕事に影響は」

「違う。霊力だだ漏れで観光地なんてうろついてみろ。翌日には不審死ニュースだぞ」

「ぎゃ」


 怖い顔をして私を脅す篠崎さんだが、うどんが美味しいのか尻尾がぱたぱたと揺れている。抱き枕に良さそうな大きな尻尾だから、揺れるだけでも風力もそれなりに出る。かわいいなあ。


「かわいいなあ」

「おい」

「すみません。口に出ちゃいました」


 篠崎さんの会社に入って、早3ヶ月。

 全国各地から移住してきたあやかしと接していると、彼ら彼女らの新天地に望む好奇心や行動力に充てられて、私も毎日新鮮な気持ちを感じている。

 お稲荷さんをもぐもぐしている篠崎さんにお茶を淹れながら、川副さんが話を始めた。


「そう言えば篠崎社長はもう聞いた? 最近この辺に出る『通り巫女』について」

「ああ」

「え、通り巫女ってなんですか? 歩き巫女の派生系とか?」


 私の言葉に、なぜか突然篠崎さんがむせる。


「篠崎さん、どうしたんですか」


 むせる背中をさすると、生理的な涙を浮かべた目でじろりと睨まれる。


「珍しいもの知ってやがるな、お前」

「あ、いやあ」


 私は頭を掻く。


「昔学祭で友達のサークルがラップバトル川中島って舞台をやった時、私、武田軍に仕えるくのいちの役をしたもので」

「脚本担当趣味出し過ぎだろ」

「で、くのいちが普段は歩き巫女をやってる設定だったんですよね。だから覚えてたんです。確か神社にいる巫女さんと違って、流しの巫女さんみたいな人たちですよね?」

「……………」

「間違ってました?」

「……間違ってねえよ……」


 私の言葉に、篠崎さんは眉間に皺を寄せてすごい顔をしている。

 怒っているのか引いているのかわからないけれど、とにかく何かを踏んだらしい。

 そういえば。

 篠崎さんは400年を生きた狐さんだ。

 武田信玄もそのくらいの時代の人じゃなかったっけ。もしかして当時、歩き巫女さんに会ったことがあるのかな。


「まあいい、問題は大将の話だ」


 ごほん、と咳払いし、篠崎さんは私から川副さんへと目を向ける。


「通り巫女ってなんだ、通り魔が出てることは知ってるが」

「それが、通り魔がどうも巫女らしいんだよね」

「待ってください。通り魔が出てるなんて、ニュースでやってましたっけ?」


 私がフォローしている治安情報botでもローカルニュースでも、通り魔の話題は見覚えがない。


「やってないさ」


 慌てる私に説明してくれたのは篠崎さんだ。


「通り魔と言っても、あやかし相手の通り魔だからニュースにも出ねえよ」

「こ、怖いですね……。警察に通報はされてるんですか?」


 篠崎さんは肩をすくめる。


「あやかし関係の事件事故摘発のニュース、テレビで見たことあるか」

「……ないですね?」

「一応福岡県警にあやかしや神霊にまつわる管轄部署はあるが、公にはなっていない。それにあやかしの側もできればそちらに厄介になりたくない。こちらの界隈の問題に、人間が首を突っ込むのは気分が良くねえからな」

「なるほど……」

「だから俺たちはなるべく内々に揉め事は解決する。この街は『天神様のお膝元』ってな。強靭な霊力が満ちている場所なだけに、あやかしの自治組織もしっかりしている。だからここで悪さをやらかす奴は滅多にいないんだが……」


 私はゾッとしてしまう。

 通り巫女という話の恐ろしさも。そして、普通の人のように暮らしていながら、彼らが『普通』の社会とは別の軸で生きているのだということにも。


「そうだ、楓」


 篠崎さんが思い出したように声をかけてくる。


「お前も護身用にそろそろ霊力の使い方を教えてやる」

「私あやかしじゃないですよ?」

「ばか。あやかしより胡散臭いんだよお前は。一般社会人のくせにそこまで霊力ダダ漏れなのは」


 川副さんが私を見る。


「そういえば楓ちゃん、最初の日みたいにダダ漏れじゃなくなったんだね」

「ええ、まあ」

「処置してもらえてよかったねえ。おじさんも心配だったからね」

「はは……」


 私はちらりと、篠崎さんがおあげを食べる口元をみる。

 唇を美味しそうに舐めとる舌の動きに、動悸がして急いで目を逸らす。

 うう、見れない。

 最初の日から私はまだ、二度目のキ……霊力を吸ってもらう()()を、されていない。篠崎さん曰く、まだ吸い上げるまでには溜まってないらしい。

 いつかまたキスされる予告だけされて、平然とした顔で普段から並んで仕事をしたり、こうしてうどんを一緒に食べに行くことが、なんだか動揺してしまう。

 こんなことならば、もっと高校時代に彼氏作ったりしておけばよかった。友達の恋愛相談ばっかり聞いていたから……。


◇◇◇


 うどんの帰り道、篠崎さんと一緒に歩いていると私はふと、あることに気づいた。


「そう言えば篠崎さん」

「なんだ?」

「篠崎さん、霊力を「あげる」のは、契約なしにしたら危ないって仰いましたよね」


 大濠公園で、夜さんに霊力をあげようとした時だ。


「それがどうした」

「篠崎さん、主従契約なしに私から霊力を……す、吸ったじゃないですか。あれって危なくないんですか」

「ばぁか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ