第九話――氷結の暴君への道
ヴェル=ザルヴァを倒し、俺たちは次なる四天王――氷結の暴君ヴァルドリウスが支配するダンジョンへ向かっていた。
冷気が漂い、空気が凍るほどの寒さが広がっていく。
「……本当に寒いな。俺の魔力で火を焚くか?」
「やめとけ、無駄に目立つだけだ」
ナタリアが小さく肩をすくめる。
「それにしても、相手は氷を操る四天王か……厄介そうだな」
「奴は魔王軍の中でも防御力に優れた厄介な存在だ。城塞ごと凍らせ、侵入者を凍結させる能力を持つと言われている」
「よく知ってるな、相変わらず」
ナタリアの目が鋭く光る。
「……なあ、お前ら、今更だけどよ」
ガルヴェスがぼそりと口を開く。
「俺たち、普通の人間じゃねぇよな?」
一瞬、沈黙が流れる。
「今さら何を言い出すのよ」
ナタリアがため息をつく。
「いや、考えてみたらおかしいと思わねぇか? 俺たちは魔王四天王と戦えてる。だが、世界連合軍は奴らに全く歯が立たなかったんだろ?」
「それは……」
「つまり、俺たちは普通じゃねぇってことだ」
ガルヴェスは握った拳を見つめる。
「俺は昔から、人よりも強かった。剣の腕を磨けば磨くほど、俺の体はどこまでも応えてくれた。常人じゃ耐えられない鍛錬をしても、体が壊れねぇ……それどころか、より強くなっていった」
ガルヴェスの存在は、まさに“異常”だった。生まれつきの才能だけでは説明がつかないほどの身体能力と戦闘センス。
「……私はかつて、魔王軍の“実験”に使われたのよ」
ナタリアの言葉に、俺とガルヴェスは目を向ける。
「魔王軍の奴らは、戦闘能力の高い人間を捕らえ、強化実験を行っていた。私はその生き残り」
「……!」
「魔王の力を移植され、普通の人間よりも強い魔力を持つようになった。でも、それは“人間ではなくなる”ってことでもあった」
ナタリアは皮肉げに笑う。
「つまり、私もお前も、そしてアンタも――普通の人間じゃないってことだ」
ガルヴェスが腕を組む。
「まったく、どうりで妙に強ぇわけだ……」
俺は何も言えなかった。
俺は――俺自身の意思とは関係なく、体内の魔物に力を借りている。 その代償として、人間でなくなっていく。
ガルヴェスは異常な身体能力を持ち、ナタリアは魔王軍の実験によって強化された。
――俺たちは、もう人間とは言えないのかもしれない。
だが、それでも。
「……考えるのは後にしよう。まずはヴァルドリウスを倒す」
俺たちは前を向いた。
次なる戦場へ――氷結の暴君が待つダンジョンへと進む。




