第八話――秘められた力と疑念
ナタリアの視線が突き刺さる。
「アンタは何者なんだ?」
俺は少しの間、沈黙した。
「……俺はただの生き残りだよ。世界連合軍が負け、モンスターが支配するこの世界で生き延びてるだけのな」
「その割には、魔王四天王と互角に戦えたな」
ナタリアは一歩踏み出す。
「アンタが魔王側の奴だなんて思っちゃいない。でも……隠してることがあるのは確かだ」
「……お前に話すことはない」
それ以上言うつもりはなかった。これは俺自身の問題であり、誰かに知られていいことじゃない。
――俺の体には、魔物が宿っている。
それが俺を強くし、魔王四天王とも戦える力を与えてくれる。だが、その代償は――俺自身が徐々に人間でなくなっていることだ。
だからこそ、世界連合軍は魔王にあっさりと負けた。
戦場で俺は見た。魔王四天王の異常な強さ、そして人間が太刀打ちできない絶望を。普通の人間では、奴らとは戦えない。俺が戦えているのは、俺自身が普通の人間じゃないからだ。
「……まあいいさ。今は深入りしないでおく」
ナタリアは腕を組み、軽く息をついた。
「でも、アンタが“人間でなくなった”時、どうするかは考えとけよ」
一瞬、心臓が跳ねた。
「……どういう意味だ?」
「さあね。ただの勘だよ」
ナタリアはふっと笑い、俺から目を逸らした。
――俺が人間でなくなる?
そんなこと、考えたくもない。
「……次の四天王のダンジョンはどこだ?」
話を切り替えるようにガルヴェスが問う。
俺は地図を広げた。
「次は……“氷結の暴君”ヴァルドリウスの領域だ」
「四天王の一人か……そいつも派手に暴れそうだな」
「行くぞ。止まるわけにはいかねぇ」
俺たちは新たな戦いへ向かう。
俺が“まだ”人間であるうちに――。