第三十一話――錆びた船と魔力の帆
飛行機も軍艦も周りに存在しない今、移動手段は限られていた。
老朽化した貨物船を修理し、魔力を動力にして海を越える計画を立てたはずだった。
「……これが、渡るための“船”だと?」
俺は目の前の鉄の塊を見上げた。
巨大な貨物船。だが、船体は赤錆にまみれ、甲板には蔦が這い、エンジン部分はすでに沈黙していた。まるで、時が止まった亡霊のようだ。
「使えるのか、これ……」
ガルヴェスが腕を組む。
「いや、使わせるんだよ」
ナタリアが言い放った。
「戦後に一度だけ動いた記録がある。あとは、魔力動力さえ適合すれば……」
彼女は懐から設計図のようなものを広げた。文字のほとんどは判読不能だが、かろうじて〈魔力流路〉や〈強化骨格〉などの言葉が読み取れる。
「一週間で修理する。手伝ってくれ、お前たちの力も、借りるぞ」
「仕方なしか…」
俺たちは寝る間も惜しんで修理に取りかかった。
ボロボロの船体に、ナタリアは古代遺跡で見つけた魔力増幅器を組み込み、俺は内側から魔力を流し込み、破損した構造体を再構築した。ガルヴェスは船体の外で魔獣の襲撃を捌きながら、巨大な推進翼を担いで取り付けた。
途中、魔力が暴走し、船体が光に包まれて空に浮かびかけるなど、何度か死を覚悟する場面もあった。
だが3日目の朝――
「……動いた!」
ナタリアが叫ぶ。
錆に覆われていた船体が、うっすらと蒼く光り始める。船底の魔力炉が目覚め、動力が全身へと流れ込んでいた。
「航行開始します」
ナタリアが手をかざすと、船がゆっくりと海を裂いて進み始めた。
波が砕け、風が唸る。
海は静かで、だがどこか不気味だった。霧が濃く、夜は魔物の遠吠えが響いた。途中、海底から触手のような怪物が襲いかかるも、俺たちの連携でこれを撃破。
そして――ある朝。
「……見えてきた」
ナタリアが指をさす。
霧の向こう、朽ち果てた自由の女神の残骸が、半身を海から突き出していた。
「アメリカ……」
摩天楼が崩れ落ち、赤黒い霧が大地を覆っている。
だが、そこに待っている。
この世界の終焉を望む者――赤眼の魔王が。