第十五話――決別の刻
黒い影が暴れ狂う。
俺の腕は完全に“魔物”のそれと化し、指先には鋭い爪が生えていた。
「……クソがッ!!」
俺は叫びながら、ゼファルドに向かって飛びかかる。
「ははっ! いいぞ、布藤!!」
ゼファルドは笑いながら迎え撃つ。
細剣が疾り、俺の魔力弾を弾きながら一瞬で間合いを詰めてくる。
剣と爪が交差し、火花が散った。
「ッ……!」
ゼファルドの剣が俺の脇腹を裂く。だが、痛みはない。
――それどころか、傷口から黒い靄が溢れ、瞬時に塞がった。
「おいおい……もう“人間”じゃねぇな、お前」
ゼファルドが嘲笑する。
「うるせえ!!」
俺は躊躇なく《ヘルハウンズ》を撃つ。
ドンッ!
至近距離から放たれた魔力弾。だが――
「遅い」
ゼファルドは細剣をひねり、一瞬で弾丸の軌道を逸らした。
「ッ……!」
「お前の魔物が強くなろうが、所詮は俺の魔力の支配下だ」
ゼファルドは淡々と言うと、剣を振りかぶる。
「――終わりだ、布藤」
剣が閃く。
……だが、その瞬間。
俺の中で何かが弾けた。
『俺たちの邪魔するな……』
「……ッ!?」
俺の体を“何か”が乗っ取る。その時黒い腕がゼファルドの剣を掴んだ。
「なっ――!?」
ゼファルドの目が見開かれる。
「お前の負けだ、ゼファルド」
俺の爪がゼファルドの胸を貫いた。
「――が……ッ」
ゼファルドの口から血が零れる。
「ククッ……ハハッ……!」
それでも笑うのか、コイツは。
「面白くなるぞ……布藤」
ゼファルドは息も絶え絶えに呟く。
「お前は……魔王に“直接”会った……だからこそ……」
俺は息を呑む。
「だからこそ、こうなった……」
ゼファルドの目から光が消え、静かに崩れ落ちた。
俺の黒い腕が、ゆっくりと元に戻っていく。
だが――俺の中の魔物は、確かに言っていた。
『すまないな…』
まるで、別の意思を持つように。
「……俺は、何になろうとしている?」
冷たい夜風が、戦場に吹き抜けていた。




