第十話――抗えぬ業
大阪。
かつて賑わいに満ちたこの都市は、今や瓦礫と氷の塊が点在する死の街と化していた。氷結の暴君ヴァルドリウスの支配域に足を踏み入れたことで、街全体が寒気に包まれている。
しかし――俺たちが目の当たりにしたのは、魔物ではなく人間同士の殺し合いだった。
「……やれやれ、四天王がいるってのに、どうして人間同士で争うんだ?」
ガルヴェスが忌々しげに呟く。
廃墟と化したビル群の中、二つの勢力が戦っていた。
一方は黒ずくめの戦闘服を着た武装集団。もう一方はボロボロの服を着た生存者たち。武装集団が一方的に生存者を蹂躙し、抵抗した者を撃ち殺している。
「どうする?」
ナタリアが俺を見る。
「関わるべきじゃない……が、無視できるか?」
俺は拳を握った。
「理由はどうあれ、人間同士で殺し合ってる場合じゃねぇだろ……」
ガルヴェスが剣を抜く。
「行くぞ。四天王を倒す前に、まずはこいつらの愚行を止める」
――俺たちは飛び込んだ。
抗えぬ業
「――テメェら、何やってやがる!」
ガルヴェスの咆哮が戦場に響いた。
俺は《ヘルハウンズ》を構え、狙撃手を優先的に撃ち抜く。魔力弾が闇を切り裂き、武装集団の一人が吹き飛んだ。
「チッ、何者だ!?」
「構うな! 奴らも排除しろ!!」
生存者を襲っていた武装集団が、一斉にこちらを向く。
「無駄だな……お前らは、俺たちの敵になっちまった」
ガルヴェスが前に出る。
「くそっ、なんでこんな時に人間同士で争うんだ……!」
俺は吐き捨てるように呟く。
四天王が支配し、魔物が跋扈する世界で、人間が生き延びるためにすべきことはただ一つ――“協力”のはずだった。
それなのに、俺たちは“人間”同士で争い続けている。
「抗えないのかよ!人間は!」
俺はの言葉に反応するようにナタリアが冷たく呟いた。
「奪わなきゃ生きられない。支配しなきゃ安心できない。そういう生き物なのさ」
――俺たちは“魔物”と戦ってるんじゃない。
“人間の業”と戦っているのかもしれない。
「……それでも、止める」
俺は銃を撃った。
この愚行に終止符を打つために――。




