独り惹かれて
未来は決してひとつじゃないの。
今すぐこの世界が救われる未来もあれば、その数百年後の未来にやっと救われる未来もある。
それはかって私がいたこの時代においても同じこと。
すべてはすでに決まった中でのささいな動き。そこでもがく無数の者達。
その中に一人の少年がいたの。
彼の名はソディ。
中和国という国の王子で「古の王」と呼ばれていた魔王を倒した勇者の中の勇者−−。
そういうことになったけれど、本当はそうではないの彼は「古の王」を倒したわけではないのだから。
でも、私はそんな彼に惹かれていった。「勇者」だからとか、そういうことではない。
ソディだから−−
ソディだったから−−
私は彼についていこうと思ったのだ。
それはひょっとしたら恋に似ていたのかもしれないし全然違うものなのかもしれない。確かなのは、私の中にソディへの信頼と感謝の気持ちが芽生えていたということだ。
もしあの日、ソディに出会えていなかったら、私は今でもあの神殿の中で窮屈な生活を繰り返していたと思う。あの辛い修行の毎日だっただろうから。
だけど、その修行もソディのためと考えれば、私の気も晴れて前向きになれた。
ソディのために頑張りたい!!
それは息が詰まりそうな神殿生活から解放された私が初めて持った目的意識だったのかもしれない。
私はルーン。
かってはソディとともに旅をして、古の王を倒してこの世界を救おうとしていた。
でも今では、私のことを知る人は一人もいない。