第9話 魔法の修練
修練場は大きな木造の建物であり、コロッセオを想像させる。
3階建てとなっており、一階には魔法を使った模擬戦が可能な広いスペースがあり、端には見学できるようにベンチが並んでいる。
2階、3階はスタジアムの観客席のように吹き抜けとなっており、1階での試合の様子を見ることが可能だ。
ニコとシャーリーが修練場に訪れたときには人が大勢いた。
他の生徒も魔法の実技試験に向けて練習しているようだ。
修練場の中は多くの試合ができるように広々とした空間となっており、多くの人が利用できるようにとスペースが分けられている。
私たちは受付に向かい、修練場の1スペースを確保した。
ニコとシャーリーは向かい合っていた。
「実技試験は対人戦と魔力制御の試験があるけど、今回は対人戦を中心にいくよー」
「分かっている。今日こそシャーリーに勝ってみせる」
「私は簡単には勝てないよー」
そうしてお互いに杖を構える。
杖がなくても魔法を使うことが可能であるが、杖があると速射性や魔力制御が格段にしやすくなる。
そのため対人戦では杖を使うのが一般的である。
二人は向かい合いながら、お互いに魔力を練り始めた。
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最初の一撃はニコだった。
「エアショット」
彼女は風属性魔法の衝撃波を放ち、シャーリーを後ろへ吹き飛ばそうとする。
シャーリーはそれに対し、前方に水の壁を作った。
水属性魔法、水壁であり風の衝撃波はすぐに防がれた。
ニコは自身の魔法が防がれたのを見て即座に魔法を切り替える。
「風刃!」
風の刃を作成し、それを高速で射出する。
水の壁は風の刃にバラバラに切られ、風の刃はシャーリーに届こうとする。
シャーリーはそれに対して動けず、体を斬られる。
ニコの使う風刃はリョウが使った時の魔法ほどの切れ味こそないものの、それでも十分驚異的なものだ。
体を斬られたシャーリーだが、途端にその姿が消えてなくなる。
幻影だ。
動けなかったのではなく、動く必要がなかったのだ。
光魔法で幻影を作りだす魔法があるというが、いつ使われたのだろうか。
しかし、こうなるとまずい。
ニコの目には現在シャーリーを捉えることができていない。
シャーリーはおそらく自身の姿を光魔法で消している。
それを察知したニコは次なる一手を打つ。
「エアリアル・エクスプロージョン」
彼女はそう呟き、途端にニコを中心に全方位に大きな風の衝撃波が放たれる。
大気を圧縮させ、全方位に向けて爆風を起こす魔法だ。
あまりに大きな衝撃波で砂埃が舞い、周りが一瞬見えなくなった。
気が付いたらニコの後ろにはシャーリーがいた。
彼女はニコの頭に杖を突き付けていた。
「私の勝ちだね。いやー、危なかったよー」
「シャーリーいつの間に後ろにいたの?全然気が付かなかった」
「秘密。けどニコも前より強くなっていたね。私もちょっと対処間違えていたら勝てなかったかも」
「もう一回。次は負けない」
ニコは負けて悔しかったが、それ以上に楽しかった。
ずっと頭を使った勉強ばかりで退屈していただけに、魔法の実技訓練はいい運動になる。
二人は向かい合って改めて対人戦を開始した。
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二人は休憩していた。
結果から言うと8-2 でシャーリーが勝った。
しかし、シャーリーは少し悔しそうだった。
2回も負けずに勝てる自信があったのかもしれない。
ニコはというと放心状態だった。
楽しくはあるが疲れないというわけではない。
ニコは体が筋肉痛になりそうなことを予見しながら、全身の体を休めている。
二人で休んでいると、ふと2階の観客席が騒がしい感じがした。
見てみるとある生徒が2階の観客席から修練場を眺めており、周りからは黄色い声援が発せられていた。
生徒会長であるスティーブ・スミス・マレーという男子生徒である。
金髪金眼であり、非常に整った顔立ちをしている。
街中を歩いていたら声をかけられること間違いなしの顔だ。
そしてその隣にはよく見えづらいが老人が座っているようだった。
温和な顔立ちをしており、この学校でも有名だった人だ。
確か…
「生徒会長と学園長がなんでここにいるんだろ…」
シャーリーがそう呟いた。
そう、生徒会長の隣にいる白いひげをしている老人は学園長だった。
温和な性格であり、生徒が分からない疑問点があると優しく丁寧に教えてくれるそうだ。
そのため生徒からの信頼は厚い。
なぜ教師のトップと生徒のトップが修練場で会談しているのだろうか。
そういえばさっきケインから魔物の件がどうとか言っていた気がする。
「たぶんだけど、魔物の件で話し合っているんじゃない」
「さっきケイン君が報告するって言っていた魔物の件のこと?」
恐らくだがケインが生徒会室で魔物の件を報告し、その報告を受けた生徒会長がああして学園長と話しているのではないかと察した。
しかし、学園長と話していることからもこの件は私たちが思っている以上に重要な案件なのかもしれない。
「ケイン君長引くって言っていたし、やっぱりなにか重大なことでもあったのかな」
「シャーリーさ、魔物の件って実際やばいの?」
「生徒会じゃない生徒に教えるのはダメなんだけど、ニコは他の人には言わない?内緒にしていてくれる?」
「言わないし内緒にするよ」
「信じるね。正直に言うと結構やばいんだよね。行方不明者が多発していて、魔物が発生すると必ずと言っていいほど犠牲者や行方不明者がでちゃっているの」
「シャーリー達は結構魔物を討伐できてなかった?」
「討伐はしているんだけど、それでも被害を抑えられていないの。だから、騎士団にも協力を仰ぐかもしれないって議題に挙がるくらいにはあんまり良い状況とは言えないの」
騎士団とはこの大きな町を守るために存在する軍のような存在である。
騎士団はかなり大きな事件でないと動かないし動けない。
そんな騎士団が動くかもしれないということは、本当にあまり良い状況ではないのだろう。
それもそうか。
あまり公にはなっていないが、魔物が出現すると必ずと言っていいほど犠牲者が現れるということは、私の知らないところでかなりの人数が事件に巻き込まれたのかもしれない。
用心する必要があるかもしれない。
それから私たちは再び自室に戻り、勉強を再開した。
不謹慎だが、試験が中止になってほしい。
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