第8話 試験勉強
(ニコ視点)
王立魔法学校では年に4回大きな試験が存在する。
試験の結果は今後の学生生活を大きく左右するほど重大なものとなる。
なぜなら試験の成績によって生徒たちは3つのランクに分けられることになるからだ。
生徒たちはランクの良し悪しが学生生活どころか長い人生にも影響を与えるものだと知っている。
そのため、生徒たちは試験が近づくと嫌でも勉学を開始する。
ここでも生徒たちはその試験に向けて勉強をしていた。
「ねーシャーリー。そろそろ1時間経ったよね?」
「まだ、10分しか経ってないよ」
「はぁ。勉強ってなんでこんなに退屈なんだろう…」
ニコはため息をつき、今の状況を呪っていた。
時間は数分前にさかのぼる。
ニコは前回の試験の成績があまり良くなかったことをシャーリーに相談した。
その相談を受けてシャーリーは勉強会を開くことにしたのだ。
勉強会といってもニコとシャーリーの二人で、自室での勉強だ。
そして勉強会を始めて10分でニコが弱音を吐いた状況である。
「私は勉強してもスターズになれないんだから勉強する意味ないでしょ」
「そんなことないよ。ニコなら頑張ればきっとスターズになれるよ。それにスターズになれるかどうかは重要じゃないんだから」
「それはそうかもだけどさ。なんかやる気でないんだよね」
ニコは物事が長続きしない性格だった。
そしてそれは勉学に関しても同様である。
「スターズにもっと魅力があればやる気出るのに。シャーリーさ、スターズの良さをPRしてよ」
「PRしてもどうせやる気でないでしょ。まあいいけどー。スターズになれると色んな優先権が得られるでしょ。他にはノーマルとかだと禁止されている役職や教室、魔道具の利用とか色んなことができるようになるでしょ。それと後はスターズのまま卒業出来たらこの学校の先生になれるとかかな」
「学校の先生になるのにスターズじゃないとダメなのきつすぎ。私みたいなのでも先生できるでしょ」
「先生はみんなに教える立場だから、ある程度実力がないとダメなんだよ。私もニコだったら先生の素質はあると思うけど、条件がやっぱり厳しいよね…」
「シャーリーだったらスターズ維持して先生になれるでしょ。シャーリーの知識を私に分けてくれないかな」
「どうやって分けるのよ~」
王立魔法学校の教師。
それは成績上位者の中でもトップの人間しかなることができない。
教師になる条件としてスターズであることが義務付けられているからだ。
つまり卒業時に成績上位3%以内でないと教師になる資格がないのだ。
この世界では教師は就職が難しい職種ではあるが、なることさえできれば一生安定した生活をすることができる。
しかも貴族以上の権力と財力を得ることができる。
そのため教師は王立魔法学校に通う生徒からすると夢のような職種なのである。
ちなみにニコの現在のランクはノーマルである。
「私も安定した生活がしたい。シャーリーさ、テストの時カンニングさせてよ。マジで」
「嫌だよー。テストは自分の力で解かなきゃ。そんなこと言ってないでニコもそろそろ勉強しなよー。勉強ずっとしてないとグラスにランク落ちちゃうよ」
「それだけはやだ」
ニコは一瞬自分がグラスになったことを想像し、青い顔をした。
すぐに表情を切り替えて、先ほどまでほとんど手を付けていなかった勉強を再開した。
ちなみにグラスというのは3つのランクで最も下のランクである。
成績下位30%になるとこのランク付けにされる。
魔法至上主義であるこの世界で、魔法ができないというレッテルが張られるとはどういうことか。
それは想像に難くないだろう。
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ニコたちが勉強をして2時間ほどが経過した。
彼女たちも集中力が切れ始めたときである。
シャーリーはともかくニコは何度か集中力が切れているが。
「そういえば試験って筆記試験だけじゃなくて実技試験もあったじゃん。筆記試験の勉強も飽きてきたしそろそろ別のことしない?」
「確かにちょっと疲れたねー。息抜きも兼ねて外で魔法の練習する?」
「する」
そう言ってニコは勢いよく立ち上がった。
彼女はよほど勉強がしたくないらしい。
彼女たちは自室を出て、魔法の練習ができる修練場へと向かう。
彼女たちの部屋から修練場は10分ほどの距離がある。
その間歩いているが、すれ違う生徒たちは皆参考書のような書物を持ち歩いていた。
試験が近づくこの時期は全生徒が勉学に集中しようとする。
そのため廊下の雰囲気も普段なら和気あいあいとした空気なのだが、今日はいつもよりピリピリとした空気を感じる。
そんなことを考えながら歩いていると、ふとシャーリーが口を開いた。
「そういえばニコ。最近魔物に襲われたんだよね。大丈夫だった?」
「大丈夫だったよ。生徒会のケインって人が助けてくれたし」
「ケイン君かー。彼、生徒会の見習いだけど頼りになるよね。ヴィクター先生が生徒会に彼を連れてきた時は驚いたけど、今なら納得しちゃうぐらい強いし」
「そんなに強いんだ。もしかしてシャーリーよりも強い?」
「それはさすがにないよ。私これでもスターズなんだから。ただ…」
「ただ?」
「なんというか違和感を覚えるんだよね。なんというか、実力を隠しているような」
「そうなの?」
ニコはあの時助けてくれたケインの姿を思い出す。
魔物を一撃で切り倒した姿。
そういえばあの瞬間は魔法を使っていなかった気がする。
そう考えると彼は魔法なしでも相当強いということなのだろうか。
つまり、魔法を使えばもっと強いのだろうか。
考えたところで分からない。
私の審美眼は腐っているから、彼の実力を正式に測れるとは思えない。
そんなことを考えていると目の前から灰色の髪色をした生徒が現れた。
シャーリーも彼に気が付いたらしく、彼にパタパタと近づいていく。
「ケイン君だー。こんなところで何しているの?」
「こんにちは、シャーリー先輩。僕は生徒会室に用があるためそちらへ向かっているところです。そちらの方は?」
「私の友達のニコだよー」
「ニコです。あの時はありがと」
「あの時?」
ケインは少し目を薄めて考え事を始めた。
そして急にはっとした顔へと変化し、
「あの時の生徒でしたか。お元気そうでなりよりです」
「敬語はやめてよ。同い年なんでしょ?」
「こういう性分ですので」
ケインは少し笑って答えた。
そういえば彼はシャーリーのことを先輩と呼んでいた。
同い年のはずなのに先輩と。
これも性分なのだろうか。
「実はさっきケイン君のこと話していたんだよー。本当はもっと強いんじゃないかって」
「僕は弱いですよ。自分一人の力では魔物を倒すのもギリギリですから」
「謙遜なんかしなくてもいいのにー」
ニコの目には彼の態度が何となく謙遜ではないように思えた。
「ところでお二方はこちらで何を?」
「私たち今から修練場で魔法の練習するんだー。ケイン君も生徒会の用事が終わったらどう?」
「遠慮しておきます。生徒会の用事ですが長引くと思われますので」
「もしかして魔物の件?」
「はい」
確かに最近は学校内で魔物の出現が多発している。
どこからどう出現しているのか不明であり、現状でも何人もの生徒が犠牲になっている。
まだ大事になっていないのは生徒会や教師が何とかしているからだが、これが続けばどうなるかは読めない。
最悪、一時学校閉鎖になる可能性も考えられる。
「なるほど。私もついていったほうがいい?」
シャーリーもこの件に関しては重要度が高いと考えているのだろう。
真剣なまなざしでケインを見ている。
「大丈夫です。今回は報告するだけですからね。ただ僕一人の手に負えないと判断した時はシャーリー先輩にも相談させていただくつもりです」
「その時は任せてよ。私だってこれでも強いんだから」
そうしてシャーリーはドンと胸を張った。
ニコの目から見ても、贔屓目なしにシャーリーは頼りになる。
彼女はスターズということもあり、頭が良いだけでなく魔法力も高い。
彼女に勝てる存在はこの学校中探してもあまり見つからないだろう。
「では、僕はそろそろ行きますね。魔法の修練頑張ってください」
そう言ってケインは生徒会室へと向かい、私たちも修練場へと足を踏み入れるのだった。
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