第7話 異世界転移
俺たちは元いた世界に帰れなくなった。
黒い獣に襲われ、命からがら異世界の入り口を使うことで逃げ切ることに成功した。
しかし、気が付いた時には通ってきた異世界の入り口が閉ざされてしまった。
俺たちは見知らぬ世界に迷い込んだのだ。
帰れなくなった俺たちはこの世界のことや元の世界に変える方法を調べることにした。
調べていく過程でこの大きな町が学術魔法都市ルミナスということを知り得た。
この世界も剣と魔法が主体であり、あまり異世界転移したという実感が湧かなかったが前と明らかに違う部分がある。
それは魔法に対する価値観だ。
この世界では魔法至上主義であり、仮に元奴隷であっても高い魔力量と魔力制御があれば貴族として生活することができる。
そしてさらにケインの故郷であった世界よりも魔法が発展しているように感じられる。
元の世界と比較しても魔法に対する理解度や技術が明らかに高い。
無論俺たちが住んでいた村が魔法に疎かった可能性も否定はできないのだが、それにしてもここまで魔法の技術に差は生まれないはずだ。
他にも文化や生態系などにも細かな違いがあり、ここが異世界であるということは間違いなさそうだった。
ちなみに言語も異なっていたが、その部分は魔法で通訳をすることで解決した。
俺たちは当てもなく彷徨っていたところ、ある人物に拾われた。
名をヴィクターという。
とても強面であり、鋭い目つきをしていた。
彼は俺たちが魔法を使えることを一目で見抜き、王立魔法学校の生徒ではないと知ると入学するように勧めてきた。
学費免除、寮完備、三食付きという破格の対応だった。
俺たちは断ろうと考えていたがこの世界で衣食住を確保する手段がなく、また学術魔法都市ということもあって学校が持っている権力は非常に高かった。
その場所にいることで様々な情報が得られる可能性もあることから、最終的にはその提案を受け入れた。
後から知ることだがヴィクターはその学校の先生らしい。
この世界では先生という立場は貴族以上に高い身分であるそうだ。
そんなこともあって俺たちは王立魔法学校に入学することになった。
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学校に入学して早1か月が経過していた。
俺たちの前には先ほど倒した魔物が綺麗に掃除され、元の綺麗な渡り廊下に戻っていた。
先ほど襲われていた生徒たちは既に移動している。
「朝早くから精がでるな」
ケインの後ろから声がかかり、ふりかえると鋭い目つきをしたヤクザのような雰囲気を持つ人物がいた。
すごく怖い。
ケインは即座に敬礼をし、その相手がヴィクター先生だと知り表情を緩めた。
「おはようございます、ヴィクター先生」
「ああ。朝から魔物対峙とはな」
「最近は構内でも魔物が出現していますからね。生徒会に所属している身としても尽力させていただくつもりです」
「そうか」
俺は生徒会に所属することになった。
所属と言っても見習いではあるが、生徒会に所属すれば一般生徒よりは情報が入ってくるからだ。
本来生徒会に入るにはかなり大変だそうだが、ヴィクター先生の一言で許可された。
「お前たちの働きには期待している」
「ありがとうございます」
そう言ってヴィクター先生はその場から去っていった。
『ヴィクター先生相変わらず怖いな。もし俺が体の主導権握っていたらうまく話せなかった自信があるわ』
『ヴィクター先生は確かに恐ろしい見た目をしていますが、話せば分かる人です』
『しかし、なぜヴィクター先生は俺たちに対してこんなに優しくしてくれるんだろうな。入学手続きや生徒会への斡旋。何か裏でもあるのかね』
『それは分かりません。ただの善意かもしれないですし、何か目的があるのかもしれません』
『一応あの先生に関しても調べるべきかもな』
俺たちはそんなやり取りをしつつ、その場を後にした。
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俺たちはその後見回りを行い、異常がないことを確認した後に授業に参加していた。
生徒として入学している以上、授業はある程度参加しておかないと退学になってしまう。
退学になってしまえば、情報収集はより難航することが予想されるため真面目に授業には参加する。
この世界の魔法の授業は聞いていると存外面白い。
独自の理論が展開されており、そうでありながら無駄がない。
授業をしっかり聞いておけば魔法に対する理解度は各段に上昇するだろう。
ケインも真面目に授業を聞いており、魔法に対する適性をより高めようとしていた。
俺もケインが授業に参加しているため、魂の世界越しではあるが今後のためにもしっかり学んでおくとしよう。
授業が一通り終わった後、俺たちは図書館棟へと向かっていた。
見た目は大きなドーム状の建物であり、その建物すべてが図書館となっている。
前の世界で見たイハルドという町の図書館の数倍の規模だ。
『相変わらずでかい建物だな』
『この世界屈指の規模でしょうしね。ここでなら僕たちの欲しい情報も見つかるかもしれません』
俺たちは現在異世界の入り口と黒い腐敗のことを調べている。
図書館棟の規模が大きく、授業にも参加しているためあまり調べられていないが現状成果はない。
元の世界に戻りたいと思っても異世界の入り口が見つからなければ何もできない。
また、ただ戻っても打つ手がないのであれば意味がないだろう。
しかし、この世界では黒い腐敗に関する情報はなかった。
これまでに黒い腐敗が出現したところを見たことがなく、それとなくいろんな人に聞いてもみたが誰も知らない様子だった。
もしかしたらこの世界には黒い腐敗がないのかもしれない。
もしそうだとしたらいくら調べても見つからない気もするが、誰も知らないだけで過去にはあったかもしれない。
何にせよ今の俺たちは情報不足なこともあり調べるしかないのだ。
「キャー!」
図書館棟へ歩いていると女子生徒と思わしき悲鳴が聞こえてきた。
ケインは即座にその悲鳴が聞こえた方角へと駆け出す。
悲鳴が聞こえたと思わしき場所はすぐに見つかった。
その場所を中心に学生たちの人混みが形成されていたからだ。
ケインは人混みをかき分けて、事件があった人混みの中心へと向かう。
中心にたどり着くと一人の女子生徒が腕にけがをしており、もう一人の女子生徒が治癒魔法をかけていた。
魔物はというと、首を切られて死んでいた。
その魔物は全身が黒い体毛に覆われた狼型の魔物だった。
黒い獣と酷似しているため、一瞬焦ったがよく見ると狼ではなさそうだ。
どちらかというと犬というか狐に似ているような曖昧な感じだ。
また、黒い獣特有の真っ黒な感じではなく所々に灰色が混ざっていることから黒い獣ではないと推測できた。
ケインは魔物を見て一瞬驚いたがすぐに感情を落ち着かせ、怪我が治った女子生徒の傍へと向かった。
「生徒会見習いのケインです。悲鳴が聞こえて駆け付けました。怪我は大丈夫そうですか」
「大丈夫です。彼女が助けてくれましたから」
そう言って魔物に襲われた女子生徒は治癒をかけてくれた女子生徒のほうを見る。
彼女は桃色の髪色をしており、端正な顔立ちをしていた。
「誰かと思ったらケイン君か。魔物は私がやっつけといたよー」
「シャーリー先輩でしたか。迅速な対応ありがとうございます」
「お礼はいいよー。私も生徒会だし仕事はしないとだしね」
彼女は気さくな笑顔でそう答えた。
「聞いたよー。ケイン君も朝学校に出現した魔物をやっつけてくれたんでしょ」
「生徒会の末席とはいえこれぐらいは当然です」
「いつもありがとうね。ケイン君もう生徒会の正式メンバーになってもいいと思うのにならないの?」
「僕はスターズの皆様とこうして一緒に働けているだけで光栄です。それ以上となると、僕には過分すぎるかと」
『本当に光栄だと思っているの?』
俺がそう横やりを入れるとケインは少しムッとした。
なんか魂の世界にいる俺に向けてじっとした目線を向けているように見える。
ちなみにスターズというのは3つのクラスの内一番上のクラスだ。
魔法の成績上位3%しかなれないというトップの中のトップだ。
つまりシャーリーは成績上位3%の超優等生である。
ちなみにケインは真ん中のノーマルというクラスだ。
俺に肉体の主導権を渡したらどこのクラスになるのか試してみたくなる。
「そんなに謙遜しなくていいのに。それに確かに生徒会はスターズで構成されているけど、私はそんなの関係ないと思っているからね。正式に入りたかったら私から言っといてあげるからいつでも言ってね」
「心に留めておきます」
「うん。じゃあ後の片づけは私がやっとくから大丈夫だよ」
そうしてその場は解散となった。
怪我した生徒も大事なく問題なさそうだった。
しかし、先ほど倒されていた魔物に関しては少し考えたほうがいいかもしれない。
あの魔物は黒い獣とは異なるが、全く違うというわけでもない気がする。
あの魔物に関しても調べてみるべきだろうか。
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