第6話 学校生活
私は以前から夢を見る。
同じような夢を何度か見ている。
その夢の内容は詳細には覚えていないが、誰かと一緒だったと思う。
その誰かと一緒に行動し、共に学び、共に遊んでいたような。
おそらく昔あった出来事の夢だ。
けどそんな夢は気が付いていると終わっている。
同じような夢を何度も見ているからか何か意味があるのではと思った。
いわゆる予知夢のようなものではないかと。
もしそうだとしたら、この夢をしっかりと覚える必要があるだろう。
しかし、この夢はなんてことないただの夢だと分かる。
だってそうだろう。
「こら~!そろそろ起きないと遅刻するよ~」
予知夢だったら絶対にありえないだろう。
夢の中にまでモーニングコールが届くことは。
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私は寝ぼけていた。
ふと気づくと桃色の髪色をした女子生徒が私のベッドの前に立っていた。
「そろそろ起きないと本当に遅刻するよ!早く起きて!」
ルームメイトである彼女はいつまでも寝ぼけている私に対して、根気強く目を覚まさせようとしていた。
私は寝ぼけ眼で彼女を見つつ、重い体を起こした。
「おはよ、シャーリー。今何時?」
「今は朝の8時だよ。早く起きて準備しないと、ニコ遅れちゃうよ」
「朝の8時なんてまだまだだよ。あと30分は寝られる」
「そう言って前遅刻したじゃん。今日は早く起きないならこっちにも考えがあるよ」
「どんな考え?」
「聞いちゃう?そ・れ・は・ね…」
私は咄嗟に不安になってベッドから飛び起きた。
こういう時のシャーリーは何をするか分からない。
基本的にはかわいらしいいたずら程度であるが、たまに加減を間違えるからだ。
「あ、起きちゃった」
彼女は自身のやりたかったことができず、少し残念そうだ。
しかし、すぐ表情を切り替えると
「じゃあ私は学校でやらなきゃいけないことがあるから先に行っているね。ニコも遅刻しないように早く準備してねー」
彼女はそう言い残し、バタバタと部屋から出ていった。
私は一連のやり取りですっかり目が覚めており、すぐに朝の支度を始めた。
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私の名前はニコ。
学術魔法都市ルミナスにある王立魔法学校に通っている生徒だ。
年齢は18歳で得意魔法は風魔法と治癒魔法。
以上、終わり。
説明が少ないって?
正直ここに何を書けばいいか分からないんだよ…。
とにかく私は魔法学校に通っている生徒であり、絶賛朝の登校中だ。
制服を着てローブを羽織っているとはいえ、外は少し寒かった。
もうすぐ朝のホームルームが始まるということもあり、周りにいる生徒も心なしか慌ただしく感じる。
私もいつもより早足で自身の教室へと向かう。
私は学生寮に住んでおり、学生寮は学校の敷地内にある。
そのためドアtoドアで20分もあれば着く。
学校の敷地内にあるのに20分もかかるのかと思われるかもだが、それは私の足が遅いからではない。
学校の敷地がとんでもなく広いからだ。
王立魔法学校はこの町の中心に位置する学校であり、外から見れば大きなお城のような見た目をしている。
清潔感を感じられる白色で全体的に着色されており、まるで王族が住んでいるのかと錯覚するほどである。
実際には王族や貴族などもこの学校に通っており、彼ら専用の寮もあるから王族が住んでいるというのが嘘というわけではない。
王立魔法学校は何千人という生徒が通っているマンモス校だ。
幼少期である5歳~25歳までの長期間の間、魔法を学ぶことができるため幅広い年齢層が在学している。
この学校では庶民や貴族、王族など身分が一切関係なく一緒に勉学を学ぶことができる場所だ。
では色んな身分の生徒が在学するため身分差が発生してしまい、勉学に支障が出るのではと勘がいい人なら察するだろう。
しかし、この学校ではそのような身分差は発生しない。
なぜか。
それは身分なんかよりも魔法のほうが大事だからだ。
魔法至上主義であり、魔法ができる奴が偉いのだ。
そのため、貴族であっても仮に魔法が一切使えなければ威張ることはできなくなる。
魔法至上主義なためこの学校では魔法の成績に応じて生徒は3つのランクに分類される。
スターズ・ノーマル・グラスの3つだ。
具体的にはどういうことかというと…。
その時チャイムが学校中に響いた。
どうやら私は遅刻が確定したらしい。
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私は何食わぬ顔で教室にいた。
遅刻こそしたが、それが先生にバレなければいいのだ。
実際遅刻したことに先生は気づいておらず、朝のホームルームが始まった。
「ニコまた遅刻したのかよ。俺が時間稼ぎしたからどうにかなったんだから、今日の昼飯奢れよなー」
後ろから私にだけ聞こえるぐらいの小さな声で話しかけてくる奴がいる。
振り返ると赤髪のベリーショートながっしりとした体格の男子生徒がいた。
彼の名前はファルマンという生徒であり、私の数少ない男友達だ。
「いやだ。前そう言ってファルマンに奢ったばかりじゃん」
「毎回遅刻してくる奴が悪いだろ」
彼は笑いながらそう返してくる。
「ファルマンだって結構な頻度で遅刻する癖によく言うよ」
「お前に言われたくはねーよ」
「ちょっと君たち。うるさいよ。まだ授業は始まっていないとはいえ、真面目にホームルームを受けたらどうだい」
ファルマンの隣に座っていた男子生徒に叱られた。
彼は黄緑色のマッシュに近い髪型をしており、名前をオーベールという。
小柄な体格をしており、眼鏡をかけているからか常に知的な雰囲気を感じる友達だ。
「ファルマンのせいでオーベールに怒られたじゃん」
「は!? これって俺が悪くなるのかよ。だったら次ニコが遅れても時間稼ぎしないでおくかなー」
「やっぱりファルマンってすごい恰好いいよねー」
「うわ。絶対心にも思っていないやつだ」
そんな軽口をしていると、いつの間にかホームルームは終わっていたようで周りにいた生徒たちはいつの間にかぽつぽつといなくなっていた。
次の授業は移動教室だから他の生徒たちは移動を始めたのだろう。
私とファルマンとオーベールの3人も急いで移動を始めた。
一つ一つの校舎が広く、建物の数も多いため移動教室は地味に大変だ。
私たちは小走りで教室へと向かって移動する中、キャンパス内にある渡り廊下を通る。
そこは普段あまり生徒が通らない場所だが、次の教室への近道でもあるため私たちはそこを通ることにする。
なぜ普段生徒が通らない場所かというと、その場所は出るという噂があるからだ。
何が出るかというと、いわゆる幽霊の類だ。
誰もいない渡り廊下なのに誰かに話しかけられたとか、大きな獣の呻き声が聞こえるだとか。
そのため近道なのにほとんどの生徒はここを通らない。
しかし、私たちは少し遅れ気味なこともありその近道を通ることにした。
朝のホームルームを遅刻したのに次の授業も遅れたとあってはさすがにまずいだろう。
渡り廊下につくとそこは人一人いない静かな場所だった。
とても誰かに話しかけられるとは到底思えないほどしんと静まり返っていた。
少し不気味に感じるほどだ。
「ファルマン。早く先に行ったらどうだ」
「いや、俺よりも先にオーベールが行けよ」
「僕はこの中では最も非力だからね。何かあったときに僕では対処が難しいだろう。けどファルマン。君ならなんとかできるだろう。だから早く先に行くといい」
「俺の得意魔法じゃゴーストの類には決定打がないんだよ。だからつらいけどお前に譲るぜ」
「いや君が…」
「いやお前が…」
「何しているの。早くいくよ」
私は言い合う男二人を素通りして、渡り廊下を渡っていた。
この二人は幽霊が怖いのだろうか。
幽霊が出ても、魔法で何とかすればいいのにと思ってしまうのは私が幽霊に対抗できる神聖魔法を少し覚えているからだろうか。
ファルマンとオーベールも私が渡り廊下を歩いているのを見て、それ以上言い合うのを辞めて歩き出した。
ふと横を見てみると小さな兎のような生き物がいた。
手のひらにすっぽりと収まってしまいそうなサイズであり、真っ白な体毛に覆われている。
とてもかわいらしい。
私は兎を撫でようと近づいたのだが、その兎は急に目の前から消失した。
気づくと目の前には体長1mほどの全身が灰色に覆われた狼型の魔物がいた。
魔物の口には先ほど見た兎が咥えられており、今にも死にそうなほど衰弱している。
魔物は私たちに気づくと、先ほどまで咥えていた兎を放し、こちらをギロリと睨んでくる。
「エアショット!」
私は即座に風属性魔法の衝撃波を放ち、魔物を後ろへ吹き飛ばす。
ファルマン達も気づいたのかファルマンは炎弾、オーベールは土槍という魔法を使って加勢してくれる。
魔物は魔法を受けてピクリとも動かなくなった。
まさか学校内で魔物と対峙するとは。
気づくと狼型の魔物がもう一匹いた。
私たちは勝って油断したこともあり、その魔物に気づくのに数秒遅れてしまった。
その魔物はとてつもない速さで駆け出し、私へと襲い掛かってくる。
避けられない。
私は恐ろしくなり、咄嗟に目を瞑ってしまった。
いつまでたっても私は攻撃されておらず、恐る恐る目を開けると灰色の髪色をした男子生徒が魔物を倒していた。
彼は剣を持っており、どうやら魔物は一刀両断されたようだ。
「大丈夫ですか。お怪我はありませんか」
「ええ、大丈夫です。助けていただいてありがとうございます」
「お礼は大丈夫です。先ほど魔物が学校の庭で出現したため駆除していたのですが、まさかこんなところに逃げ込んでいるとは思いもよりませんでした。私たちが取り逃してしまったために危険な目に合わせてしまい申し訳ありません」
彼はとても申し訳なさそうな顔して謝ってきた。
彼は悪くないと思ったのだが、なんて伝えればいいのか分からず黙ってしまう。
「魔物はこちらで片づけておきます。あなた方は授業があるでしょうし早く移動したほうがいいでしょう」
「わ、分かりました。ありがとうございます。その、もしよろしければお名前を聞いても…?」
「僕の名前はケインと申します。以後お見知りおきを」
彼はそう名乗って、魔物を片付け始めた。
私たちは彼に感謝しつつ、その場を後にした。
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