第14話 魔物退治とは英雄がすることである
(生徒会長視点)
非常に良くない状況だ。
負傷者が多い。
討伐隊が負傷しても治癒魔法をかけることで何とか戦線復帰させることが可能ではあるが、負傷者に対して治癒魔法が間に合っていない。
討伐隊の面々にも疲弊が如実に表れている。
対して魔物は疲弊など感じさせないような苛烈な攻撃を永遠と繰り返している。
なんとか倉庫街に留めているが、恐らく魔物の興味が他に移れば別の場所へ移動されてしまう。
そして俺たちはその歩みを止めることができない。
そうなれば生存者の救助活動もままならない。
もはや教師陣に参戦してもらうしかこの現状を変える手段がない。
教師たちが参戦するまで時間稼ぎをするしかない。
そんな中、商店街がある方角から一人の影が見えた。
それは王立魔法学園の制服を着ており、灰色の髪色をした男子生徒だった。
「あれはケインか…?」
思わずそう呟く。
正直この状況下では援軍は欲しいが、生徒会の面々では力不足だろう。
そのため助けてほしい気持ちと逃げてほしい気持ちがせめぎあってしまい、判断が遅れた。
魔物もケインに気が付いたのか討伐隊を無視し、ケインの方角へ一直線に向かう。
「まずい!ケイン、逃げろ!」
思わずそう叫ぶ。
まずいと判断し、魔物に魔法を放つが全く足止めできない。
このままでは…
「大丈夫ですよ、生徒会長。僕が思う一番強い人を呼んでいますから」
そして魔物の攻撃が彼に届いてしまった。
普通なら刃のような鋭い体毛によって串刺しになっていることだろう。
しかし、よく見ると魔物の攻撃は剣で防がれていた。
「ケインもそう言っているし、俺も本気を出させてもらうぜ」
ケインの口調だけでなく雰囲気まで変わっていた。
まるで先ほどのケインとは別物だと思うほどの変わり様だった。
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(ケイン・リョウ視点)
魔物の攻撃を受け止めて分かる。
これは強敵だ。
全身が毛に覆われている魔物と聞くとそんなに強くないイメージをしてしまうが、実物と相対すればその考えは一瞬で覆るだろう。
一本一本の毛が針のように鋭く強固であり、刃のような切れ味を持っている。
加えてその一本一本の毛がまるで生きているかのように柔軟に動く。
さらに魔法耐性持ちとくると眩暈がする。
そんな化け物が数万本という鋭い毛をまるで触手のようにうねらせて俺に襲い掛かってきた。
俺は剣で弾きながら魔物へと直進する。
俺の肉体の主導権は3分ということもあり、時間をかけることはできない。
短期決戦だ。
しかし物量が多く、圧倒されてしまう。
これでは近づけない。
「炎付与」
俺は剣に炎を纏わせる。
「瞬発力付与」
「筋力付与」
「保護防壁」
俺はさらに魔物の攻撃を弾きながら自身に支援魔法をかける。
魔物の獰猛な攻撃を俺は炎を纏わせた剣でどんどん焼き斬っていく。
どうやら有効のようで、魔法耐性が機能していないようだ。
だが魔物も自身が不利だと気づいたのだろう。
先ほどまでの苛烈な攻撃がピタリと止んだ。
代わりに魔物は自身の体毛を細かく凝縮していった。
数万本の鋭い体毛がまるで一本の槍の如く圧縮されていく。
それがとてつもない硬度だと判断し、即座に身の危険を感じ取る。
気が付いた時にはその一本の槍は俺に向けて発射された。
「回避。いや避けられねぇ。なら」
俺は剣を中段に構え、剣先を槍に合わせる。
高速で迫りくる一本の槍に向き合い、心を落ち着かせる。
忘れてしまったが、勇者だった際に何度か使っただろう技を。
記憶になくても魂が覚えている技を使う。
「桃源流 其の壱 流」
魔物の攻撃が俺に直撃するタイミングに合わせて剣を反らす。
攻撃は弾かれ、俺の後ろにあった建物に直撃する。
後ろでは大きな音を立てており、一撃で建物が倒壊したことが分かる。
俺は即座に走り出し、魔物に肉薄する。
魔物は自身の攻撃が弾かれると思っていなかったのであろう。
俺の動きに対して魔物は反応が遅れており、先ほどまで触手のように動いていた鋭い体毛が驚いて緩慢な動きになっている。
近くに行って初めて魔物の中心部と思わしき場所が見えた。
それは黒い球状であり、その中心から先ほどまでの鋭い体毛が生えている。
「いけぇ!」
俺は核と思わしき魔物の中心部に向かって走っていた勢いを利用して剣を投げた。
剣は直線状に素早く飛び、魔物の中心部に深く突き刺さる。
「キィイイイイイイイイイン!!」
途端に悲鳴と思わしき高い声が響き渡る。
あと少しだ。
俺はさらに近づき、魔物の中心部に駆け出す。
「これで終わりだ!」
剣の柄に向かって俺は掌底を強く叩き込み、剣をより深く突き刺した。
魔物は途端に大暴れをし始め、俺は即座に離れる。
魔物は苦しそうに暴れはじめ、鋭かった体毛がみるみるうちに抜け落ちていく。
数秒もがき、最後は魔物の中心部のみとなって砕け散った。
判断を少し間違えていたら死んでいたのは俺だっただろう。
俺は何とか魔物に勝利することができたようだ。
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その後俺たちは即座に生存者の救助活動を行い始めた。
俺の肉体の主導権は終わってしまったため、今の肉体の主導権は再びケインが握っている。
ケインは俺が全力を出したこともあり全身が痛いようだが俺に感謝していた。
普段から俺のことをもっと感謝してほしいものだね。
ファルマンはケインが急にいなくなったため途轍もない不安に襲われたそうだった。
だが許してほしい。
ファルマンに伝えれば彼はきっと俺たちの行動を止めたはずだ。
それをされたら俺はファルマンを気絶させなければならなかったから危ないものである。
ファルマンはケインが魔物を倒したことにとても驚愕していた。
ケインが何となく強いことは察してはいたらしいがそこまで強いとは思っていなかったそうだ。
まあ倒したのはケインではあるけど実際は俺の力なのだからもっと俺のことを褒めてほしいと思ってしまう。
討伐隊の面々はケインに向けて感謝と賛美の嵐だったが、生徒会長は少し怒っていたようだった。
本来ならあの場に来るべきではなかったことは分かっているが、生徒会長も俺たちが魔物を討伐したこともあってか小言を言われる程度にとどまった。
もしこれで俺が魔物に負けていたらどうなっていたか末恐ろしい。
生存者の救助活動はかなりスムーズに進んだ。
魔物がいなくなったことで周りを警戒しながら捜索する必要がないからだ。
おかげで逃げ遅れた人々を見つけ、助けることができた。
しかし、亡くなった人たちに対して生存者の数は少ないものだった。
もう少し早ければ助かったかもしれない命が多く、とても無念だ。
たった一匹の魔物にここまでの被害。
倉庫街はともかく商店街の被害は壊滅的であり、復興には時間がかかるだろう。
そして俺たちはある少女を探し続けた。
木材の山から裏路地、ありとあらゆる場所を調べた。
色んな生存者から聞き込みをして、見かけた人がいないか尋ねて探し回った。
しかしどんなに探してもシャーリーを見つけることはできなかった。
生きている姿はおろか、死体さえ見つからなかった。
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