第13話 苦戦
魔物は俺たちのことを見るや襲い掛かってきた。
魔物の鋭い体毛による攻撃は苛烈であり、咄嗟にシャーリーが水壁を出して守るが長くはもたなそうだ。
見ると攻撃の余波により建物にはどんどんと亀裂が増していき、もう少しで倒壊してしまうのが予想できてしまう。
「私が食い止めるから裏口から逃げて!」
「シャーリー!俺も…」
「ファルマン君はニコたちの護衛をお願い!早く!」
「………分かった!」
シャーリーとファルマンはそんなやり取りをして、俺たちは即座に廃屋の裏口へと向かった。
ファルマンは即座にニコを担ぎ、俺たちが足を怪我した生存者を護衛する形だ。
裏口の扉は錆びついていたが叩き壊し、なんとか裏通りに逃げ出す。
とにかく俺たちは魔物がいる方向とは正反対の向きへ走り出す。
裏通りから表通りに抜けると遠くで大きな爆発音が聞こえた。
先ほど魔物がいた方向からだ。
シャーリーは無事なのだろうか。
そんなことを考え逃げている途中に騎士団や生徒会の面々に会った。
魔物が俺たちのいた方面に移動したため討伐隊の囮部隊が追ってきたのだろう。
見ると生徒会長もいる。
「お前たち、無事か?」
「生徒会長!私たちは大丈夫ですがシャーリーさんが!」
「!?」
生徒会長の問いかけにリリアンが対応するが、シャーリーのことを知ると強張った表情をした。
「まずいな。すぐに魔物を追う!」
生徒会長はそう言い残し、討伐隊の面々は急いで魔物のいる方角へ急行した。
俺たちはそれを見届けて即座に避難所へ向かった。
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王立魔法学校の避難所となっているスペースへ向かうとそこは怪我人だらけだった。
一刻を争うような人もおり、逃げ込んだ住民の表情からは不安が感じ取れる。
俺たちはニコを含めた生存者を預け、この先の方針について迷っていた。
「シャーリーを助けに行きましょう」
ケインは開口一番そう切り出した。
「ああ。このままじゃシャーリーが危ない。今すぐ向かうべきだ!」
ファルマンも同意のようで、今すぐ助けに行きたそうだった。
しかし、ケインとファルマンを除く面々は暗い表情をしていた。
「僕としては行くべきではないかと。行っても足手まといだ」
「オーベール!シャーリーを見殺しにするつもりか!」
「僕だって行きたいですよ!でも見ただろ。あの魔物を!僕たちでは行っても何もできない。例え戦いに参加せずにシャーリーを助けに行っても、もし魔物に見つかったら逃げ切れない!そうなったら、さらに被害が増えるだけだろ!」
オーベールはそう反対した。
リリアンと先ほど合流したミネルヴァも状況を聞いてかオーベールの意見に同意のようだった。
正直、魂の世界越しに見ている俺ですら先ほどの魔物はやばいと直感した。
行っても危険性が正直高い。
『ケイン。俺としても今回は騎士団に任せた方がいい』
『リョウまで何を言っているのですか。見殺しにする気ですか』
『騎士団や他の生徒会が向かったんだ。彼らに任せるべきだ』
『確かに彼らは強いでしょうが、魔物には目立った傷が見受けられませんでした。彼らに任せても厳しいでしょう』
『なら教師陣に任せるべきだ。あの人たちは正直元勇者である俺より強い可能性がある。この状況下ならさすがに動くだろう』
『それでは遅すぎます』
『そうは言っても、いざという時に俺の力じゃこいつらを守れるかは怪しいんだ。最悪目の前にいる奴らも守れずに死ぬぞ』
ケインが恐ろしい表情をしている。
周りにいたオーベール達もケインの気迫にたじろいでいた。
「もういい。ケイン、俺たちでシャーリーを助けに行こうぜ」
ファルマンはそう言っていた。
まずいな。
俺としてはケインには行ってほしくない。
ケインは確かに強くなったが、あの魔物相手にはさすがに厳しい。
ケインが死ねば俺も死ぬ可能性がある。
どうやって説得すべきか…
「いえ、ファルマンさん。今回は騎士団に任せましょう」
「ケインまでどうしたんだ。このままじゃ…」
「僕も助けには行きたいです。ですが、行けば足手纏いになりいたずらに被害が増える可能性があります。彼らを信じましょう」
ファルマンは悔しそうな表情をしていた。
ファルマン自身も分かっているのだろう。
行っても力にはなれないと。
例えシャーリーを見つけたとしても自分が重荷になる可能性があると。
しかし、なぜケインは急に心変わりしたのだろうか?
そうして一旦捜索隊の面々は避難所で待機することにし、何かあればすぐに動けるように準備しておくことにした。
そんな中ケインがそそくさと隠れてファルマンと話し始める。
「ではファルマンさん。今からシャーリー先輩を助けにいきましょうか」
「どういうことだ?」
ファルマンは困惑の表情だ。
俺も困惑の表情をしている気がする。
「ああでも言わないと僕たちだけで行動はできないでしょう。そのため一芝居打たせていただきました」
「ケイン。さっき行けば足手纏いになるって言ったんだぞ…。だから俺は仕方なく諦めたのに、何か策でもあるのか?」
「あります。ここで明かすことはできませんが」
何となく察した。
策とは俺の存在だろう。
『先に言っておくが、俺でも勝てるか分からねぇよ?』
『最悪勝てなくてもいいです。ただ時間稼ぎさえしていただければファルマンさんとシャーリー先輩を逃がすことはできるでしょう?』
『確かにさっきの人数を逃がすよりはマシだろうな。だが、逃がせるとは限らないし俺たちだって死ぬかもしれないぞ』
『覚悟はできています』
『俺はできていないんだけどな。それと人に頼ることを策というのかね』
『リョウが助けてくれなくても僕が何とかしてみせます』
ケインの覚悟は素晴らしいものだとは思うのだが、正直俺はあの魔物とは相対したくない。
だが、どうやら俺に拒否権はないようだ。
体の主な主導権はケインが握っているため仕方がない。
「ケイン…。よし、今すぐ行こうぜ!シャーリーを助けるぞ!」
「ええ、行きましょう」
ファルマンも行く気になってしまった。
ファルマンが重荷になる可能性はあるが、それはそれとして感情的には助けに行きたいのだろう。
こうしてケインとファルマンは捜索隊の面々にバレないように隠れながら先ほどの廃屋へと向かうのだった。
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廃屋があった場所に辿りついたが、そこには廃屋はなかった。
あるのは木材の山だけであり、とてもそこに廃屋があったとは思えるような光景ではなかった。
逃げる途中で見た爆発の影響でこうなったのだろうか。
「シャーリー!いるか!返事をしろ!」
ファルマンは声を上げて探すがシャーリーは見つからない。
俺も探したいところであるが、周囲の警戒をする必要がありあまり注意深く探すことができない。
ちなみに魔物は遠くの倉庫街の方に移動しており、そこで討伐隊と戦っていた。
状況を見る限り拮抗しているようだが、あまりいい状況ではない気がする。
どうしようか。
再び前線に来てしまい、また何かあれば魔物がこちらに来るかもしれない。
シャーリーは想定以上に見つからず、探し出すのにも時間がかかっているこの現状。
シャーリーはもしかしたら廃屋から逃げて遠くの裏路地にでもいるかもしれない。
もしくは木材の山で下敷きになっているかもしれない。
2人で探すのは厳しく、いつ魔物がこちらに来るか分からない。
こんな状況でシャーリーを見つけるのは困難だ。
魔物をどうにかしなければ、状況はさらに悪くなるのはすぐ分かった。
俺は先ほど廃屋で魔物に襲われたときに肉体の主導権を切り替えなかった
前に黒い獣に負けたとき以降、俺は基本的には肉体の主導権を即座に切り替えないようにしている。
理由は時間切れになってしまった後に、再び俺に肉体の主導権を切り替えるには時間がかかるからだ。
そのため切り札として温存するという方針である。
加えてあの時は護衛すべき人間が多く、切り替えても守りに徹する必要があるため無駄になると判断していた。
だが、最初に魔物に襲われた時とは状況が違う。
今なら護衛する必要がなく、自由に動ける。
ファルマンは護衛する必要があるかもしれないが、彼なら何となく大丈夫な気がする。
俺もどうやら覚悟を決めるべきか。
『ケイン、俺も今更だが覚悟を決めたよ』
『どうしました?』
『こんな状況下でシャーリーを探すのは困難だ。シャーリーだけじゃない。他にもまだ生存者はいるかもしれない。早く救出に人手を割くべきだ』
『そうですね。ですが魔物が…』
『だから、もう、終わらせよう』
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