第12話 作戦開始
生徒会と騎士団の魔物討伐作戦と救出作戦が開始した。
作戦が開始されたときには夕方となっており、空の色が茜色に染まり始めていた。
討伐隊は既に行動を開始し、俺たち捜索隊はまだ取り残された人がいないか捜索を開始するところだった。
捜索する場所はもちろん魔物が徘徊している倉庫街と商店街。
討伐隊が魔物を引き受けている隙に探すというものだ。
もし魔物の近くに人がいた場合は護衛を担当し、逃がす役割も担っている。
討伐隊の情報を逐一確認しつつ、俺たちは先ほどまで魔物がいた商店街へと足を踏み入れた。
商店街は凄惨な光景だった。
辺り一帯に血が飛び散っており、誰かと思わしき手や足も散らかっていた。
人の生気は感じられず、魔物と騎士団が戦っている音が遠くからこだましている。
あまりの光景に捜索隊の一人であるミネルヴァが道路脇で吐いていた。
シャーリーも具合が悪そうだ。
「手遅れになる前に早く探そう」
「そうですね。ですがシャーリー先輩。大丈夫ですか?具合が悪いのでしたら…」
「ううん、大丈夫。ケイン君ありがとね」
シャーリーは大丈夫だと言っているが、顔が少し青い。
そう思っているとファルマンとオーベールが近づいてきた。
「早く探そうぜ。ニコを探さねぇと」
「僕も同感です」
「うん、そうだね」
ファルマンとオーベールの言葉にシャーリーが同意する。
シャーリーは捜索隊の面々を見渡し、告げる。
「今から商店街を南下して倉庫街方面へ向かいながら探しましょう。魔物の動向は逐一騎士団からこの魔道具を通して連絡がくるそうですが、油断せずに行動しましょう」
そう言ってシャーリーは魔道具を取り出した。
その魔道具は折り畳みの手鏡のような形をしており、魔力を流すことで対となっている魔道具に繋がるそうだ。
これでもし魔物が捜索隊のほうに向かっても事前に逃げることができる。
そして捜索を開始した。
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捜索を開始して数十分。
隠れていた女の子を見つけた。
どうやら魔物が徘徊しているところを隠れてやり過ごしたらしい。
女の子は疲れ切った表情をしており、怯えた瞳をしている。
「大丈夫?」
「………うん」
シャーリーがそう聞くと女の子は力なき声でそう言った。
すぐに避難所や病院に連れていくべきだろう。
現在王立魔法学校の一部が避難所となっているためそこに連れていけば一安心だろう。
「ミネルヴァさん。この子をお願いしてもいい?」
「分かりました。避難所に送り届けてきます」
シャーリーがそう聞くと、ミネルヴァは当然という顔をして承諾した。
そうしてミネルヴァは女の子を連れて一旦捜索隊から離脱した。
俺たちは南下して探すがどこもかしこもひどい状況だ。
生存者が先ほど見つかったのも正直運がよかったのだと思えてしまうほどだ。
「なぁ、あんた」
声をかけられたのでケインが振り返ると近くに赤髪の男子生徒がいた。
ファルマンだ。
「シャーリーと随分仲がよさそうだったが、どういう関係なんだ」
「はい?」
彼は機嫌が少し悪そうだ。
この緊迫した状況下にいて機嫌がいいほうが怖いが。
「生徒会の先輩です。それがどうしましたか」
「ああ、そうかよ」
ケインは率直にそう答えた。
彼は面白くなさそうな顔でいる。
何なのだろうか。
「ってことは俺より歳は下ってことか?」
「いえ、先輩と呼ばせていただいていますが歳は同じです。先輩と呼んでいるのは僕が生徒会に入ったときにお世話になったのでその名残です」
「よく分かんねぇ奴だな。」
『俺としてはこいつのほうがよく分かんねぇな』
ファルマンの言葉に俺が難癖をつけると、ケインは俺の言葉に同意するかのような目をした。
いきなり話しかけられて聞かれたのがシャーリーとの関係性だ。
この状況下で聞くべき質問ではない気もするがまあいいだろう。
「二人とも。早く行くよー」
よく見るとシャーリーが遠くから呼んでいる。
俺たちは奇妙なわだかまりを感じながら捜索を改めて開始した。
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(生徒会長視点)
状況はあまり良くない。
理由は明白だ。
囮がうまく機能しておらず、魔物が好き勝手に動き回るからだ。
これでは罠がある場所まで誘い込めない。
捜索隊がいる地域から離れているのが幸いだが、このままでは被害が拡大する恐れがある。
魔物が今いる地域は警備隊の協力あって避難が済んでいるが、避難が済んでいない場所に向かってしまう可能性もある。
「炎槍!」
俺は炎の槍を魔物に叩きつける。
普通の魔物ならかすっただけで粉微塵になる威力だ。
しかし、有効打になっていない。
炎の槍が魔物にあたりそうになると途端に消失するのだ。
「魔法耐性か魔法無効か。俺たち魔法士からすると相性最悪だな」
「生徒会長!」
「どうした」
「3名負傷しました。即座に後退させましたがこのままでは部隊を維持できません」
15人の囮部隊として立ち回っていたはずだが気づけば7人まで減少していた。
魔物の攻撃は苛烈であり、鋭い体毛で瞬く間に切り裂かれてしまう。
魔物の全身を覆う毛の一本一本がもはや鋭い刃だ。
こちらの攻撃は届かず、魔物の攻撃は一方的に届く。
生徒会や騎士団の面々も疲れ切った表情をしており、この場を凌ぐのも容易ではなかった。
舌打ちをしつつ騎士団の部隊長の顔を見る。
彼は若くして騎士団の部隊長として配属されたそうだが、このような現場は初めてらしい。
それもそうか。
騎士団とは国の一大事に動くとされるエリート集団というが、所詮は安定重視で入ったばかりのボンクラども。
国の一大事は実際にはほとんど起きず、いつも訓練しか行っていないのだろう。
そんな中いきなり前線に立たされたら、俺の前で泣きそうな顔をするのも納得か。
しかし皮肉なことにこんな騎士団でも生徒会の面々よりは個々の技術は高い。
部隊長が上手く指揮すればもっと柔軟に対応できるだろう。
まあそれができていないから即席で入った生徒会長である俺が指揮しなくてはいけないが。
「ちっ!魔物と距離を適度に離しつつ一度後退する。だが逃げながらでいいから魔法を放て」
「しょ、承知しました」
部隊長は俺の指示を聞くと慌てて騎士団の面々に伝える。
魔物を上手く誘導することができていないが、しかし俺たちの囮部隊にはくぎ付けになっているのか。
魔物はその場から動かないでいる。
こうなればもう一部隊に連絡を取り、罠はないがこの場で挟み撃ちをすべきか。
いや無理か。
有効打がない。
魔法は全て弾かれている。
挟み撃ちをしても何もできずに終わってしまう。
こうなれば一度本格的に撤退し、魔物に対する有効打を模索すべきか。
しかし、考えていると魔物が急に動き出した。
先ほどまで囮部隊をずっと攻撃していたのだが突如興味を失くしたのか。
俺たちから逃げ出した。
そして逃げ出した方角は捜索部隊がいる方角だった。
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(ケイン・リョウ視点)
俺たちは捜索を続けていたが、シャーリーの持つ魔道具が突如として光出す。
シャーリーが確認すると魔物が一直線に俺たちのいる場所に迫っているようだった。
現在生存者3人を発見することができたが、生存者の一人が足を怪我しており移動がままならないでいた。
「どうする!?このままじゃ魔物と鉢合わせるぞ!」
ファルマンは慌てて言う。
しかし、実際まずい。
なぜなら魔物の移動速度が想定よりも圧倒的に早いからだ。
本来なら魔物が捜索隊付近に近づいた場合は即座に撤退するのだが、これでは間に合わない。
鉢合わせた場合、生存者を護衛しながら逃げるのは至難の業だ。
さらに言えば討伐隊も魔物の進行速度に追いつけていないようであり、援護は期待できない。
「シャーリー先輩。僕に案があるのですがよろしいでしょうか」
「何、ケイン君?」
「一度隠れてやり過ごしましょう。このまま逃げて見つかるくらいなら近くの建物に一度隠れるべきだと思います」
シャーリーは少し悩んだ表情をしていた。
しかしすぐに結論が出たのか、
「分かった。あそこの建物に隠れよう」
そう言って近くにあった廃屋を指さした。
商店街の綺麗な街並みの中にポツンとある廃屋だ。
廃屋というが外観は綺麗であり、建物の中もがらんとしてはいたが汚くはない。
もしかしたらここに誰か引っ越すつもりだったのかもしれない。
俺たちは廃屋の奥の方へと向かい、息を潜めた。
ちょっとしてすぐに外から何かを引きずるような大きな音が聞こえてくる。
魔物だ。
そんな時だった。
捜索隊の一人であったリリアンが何か気づいたようだ。
それにファルマンとオーベールが気づき、彼らは驚愕の表情を浮かべる。
気になってケインも見てみるとそこには女子生徒がいた。
気絶しているのか寝ており、よく見ると体中が傷だらけだ。
前に一度会ったことがあるはずの生徒。
そこにはニコがいた。
「…ニコ」
誰かがぼそりとつぶやいた。
その程度の物音。
しかし、運が良いのか悪いのかその音を聞き取った存在がいた。
遠くで聞こえていたはずの引きずる音が明らかにこの建物に近づいていることが分かったときには遅かった。
魔物が廃屋の壁をぶち破り、俺たちのことをじっと見ていた。
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