第11話 作戦会議
(ケイン・リョウ視点)
俺たちは生徒会室にいた。
生徒会室の雰囲気は重々しいものであり、今すぐにこの部屋から出てしまいたいほどである。
周囲にいる生徒たちの表情も険しい表情をしている。
ケインの隣にいるシャーリーも心なしか落ち着きがなかった。
「皆に集まってもらったのは他でもない。今街で暴れている魔物のことについてだ」
生徒たちの中心にひときわ目立つ男子生徒が告げる。
彼はスティーヴ・スミス・マレーという名前であり、金髪金眼の生徒会長である。
生徒会長を中心に生徒たちの視線が徐々に集まる。
「現在あの魔物は街を南下し、倉庫街と商店街を中心に徘徊している。死傷者も多数出ており、近隣の住民には現在避難活動を行っている。これまでに街の警備隊が討伐隊を出動させたが、その討伐隊の行方が分からなくなっている状況だ」
生徒会長から淡々と語られる内容は非常に厳しいものだった。
これまでの魔物被害とは一線を画すほどの規模だ。
「生徒会長。質問よろしいでしょうか」
周りで聞いていた生徒の一人が声を上げた。
彼女の名前はリリアンだったか。
「なんだ」
「確認したいのですが、これまでに本校の生徒達には被害が出ているのでしょうか」
「現在確認中だ。だが、生徒たちが犠牲にならないためにも寮にいる学生たちには外出禁止令を出している」
王立魔法学校の生徒は8割ほどが寮で暮らしていたはずだが、自宅から通っている生徒も少なからずいる。
もし倉庫街か商店街に自宅がある場合、魔物の被害にあっている可能性はある。
「話を戻すぞ。今回の魔物に対して騎士団が動くことになった。が、それと同時にこれまで本校の魔物討伐を担ってきた生徒会の力も借りたいそうだ。ゆえに、生徒会からも討伐隊を編成する」
騎士団が動くのなら生徒会が動く必要はないと思われるかもしれない。
しかし、生徒会にいる人間はほとんどがスターズで構成されている。
そのため実力は非常に高い集団であり、普段から魔物討伐を行っている経験もあることから騎士団が頼るのも納得だった。
『しかし、生徒会の連中は確かに強いが学生たちを戦場に向かわせるとはね』
『リョウは学生に戦いを強いるのは反対ですか』
『そりゃ反対だよ。俺が日本にいたころの常識じゃあり得ないからな』
『そうなのですか。リョウの元いた世界はきっと危険が少なかったのでしょうね』
しかし、騎士団の実力を俺はあまり知らない。
それなりに強いらしいが、件の魔物が相当やっかいだと思われる。
そんなことを考えていると、ある一人の生徒が声を上げた。
またしてもリリアンという生徒だ。
「生徒会長。教師の方々は協力しないのでしょうか」
「教師陣は忙しいからな。来られない方々も多いのだろう。何人かの教師も協力してくださるそうだが、どうだろうな」
生徒会長の声から諦念のようなものを感じた。
教師一人一人がかなり強いため、協力してくれれば心強いのだが彼らにも立場がある。
恐らく動くと貴族からあれこれ言われたりするのだとなんとなく予想がつく。
「なんにせよ、これから行うことは今までの魔物退治とは一線を画す。命が惜しいものはこの場から去るといい。生徒会長の名においてその者の評価には影響しないことを保証する」
生徒会長はそう言った。
今までも構内で魔物が出現したことはあるが、どれもが正直雑魚だった。
だがこれまでの話を聞く限り、今回の魔物は相当手強い。
最悪死ぬ恐れがある。
『ケイン。逃げるか?』
『冗談言わないでください。僕は目の前で困っている人を見捨てるつもりはありません』
『そうか』
一応聞いてみたがケインは今回の魔物退治に参加するつもりらしい。
しかし、俺としても今回は正直賛成だ。
学園でよく見かける魔物には違和感がある。
今回の魔物からその違和感の正体が分かる可能性もあるため、できれば参加して魔物の死体を調べてみたい。
周りの生徒たちを確認してみると、皆緊張した面持ちであるが生徒会室から去るものはいなかった。
どうやら全員参加するつもりのようだ。
「…お前たち。どうやらここにいる奴らは命知らずの馬鹿しかいないようだ。だが気に入った。ではこれより騎士団を交えての作戦会議を行う!」
そうして別室から騎士団と思わしき面々が入ってくる。
どうやらずっと別室で待機していたようだ。
そして作戦会議が始まった。
---
作戦はこうだ。
騎士団を2部隊に分け、一方を囮としてもう一方の部隊が罠を用意した場所まで誘導する。
誘導したら挟み撃ちをして倒す。
非常にシンプルな作戦だ。
そして生徒会は現地で騎士団のサポートだ。
2部隊のどちらかに参加するか、現地で逃げ遅れた人の救助活動を行う。
騎士団は今回20人で参戦するようで、1部隊10人である。
生徒会の面々も参加すると1部隊15人ほどになるだろうか。
現在は人員の割り振りを行っているところだ。
非常事態であるというのに全員が落ち着いて会議に参加したこともあり、迅速にどんどんと決まっていく。
そんな中生徒会室の扉がドンドンと大きな音でノックされた。
「入れ」
生徒会長が許可し、扉の傍にいた生徒が扉を開けると赤髪と黄緑色の髪色をした男子生徒がなだれ込んできた。
彼らの顔は切羽詰まった表情をしており、何か大きなことが起きたのだという予感がした。
「ファルマン君とオーベール君?どうしてここに?」
隣にいたシャーリーがそう呟いた。
どうやら彼女の知り合いだと察する。
「おいお前たち。一般生徒は現在外出禁止令が出されている。それなのになぜここにいる?」
「すみません、生徒会長。だけど、どうしても聞きたいことがあるんです!」
生徒会長の問いかけに対して赤髪の生徒が大きな声でそう答える。
「ニコが外出してからまだ寮に帰ってきていないんです。何か知りませんか?」
どうやら生徒が行方不明になっているようだった。
というかニコっていう生徒と最近あった気がする。
シャーリーと一緒にいたあの生徒か。
聞くところによると本日朝から商店街に外出したそうだ。
未だ寮に帰ってこず、魔物に生徒が襲われたという噂が流れたため心配になったのだろう。
隣にいるシャーリーも急な展開に面食らっているようだ。
「ファルマン君?その話って本当?」
「ああ。他の生徒に聞いても未だ帰っていないそうだ」
「だとしたら探しに行かなきゃ!」
「待て」
「生徒会長、止めないでください。こうしている間にもニコがどうなるか…」
「お前たちだけでこの広大な街から探すつもりか?」
生徒会長は周りを見渡し、改めてシャーリーとファルマン、オーベールの3人を見る。
覚悟が決まっている顔だ。
「どのみち他にも逃げ遅れた人を探す必要はある。魔物の討伐を行ってから救助だと間に合わない可能性があるしな。捜索隊のリーダーをシャーリーが担当、ミネルヴァ、リリアン、ケインを連れて行け」
「…いいのですか?」
「構わん。俺としても犠牲者は出したくないからな。だが魔物が近づいてきた場合は即座に撤退しろ。ミネルヴァ、リリアン、ケインもそれでいいな?」
いつの間にか俺たちは急遽決まった捜索隊に配属させられていた。
俺としては魔物を調べたいがまあいいだろう。
ケインも困っている人を見捨てるつもりはないらしく、参加の意思を示した。
「それと、そこにいる生徒2人」
「俺たちのことですか?」
「そうだ。ファルマンとオーベールといったか。お前たちも折角だ、捜索隊に入れ。捜索隊に入らなかったら俺たちの指示を無視して探しに行くだろうしな」
「…!? ありがとうございます!」
ファルマンとオーベールは生徒会長に深々と礼をした。
たしかに俺目線でもこの2人は勝手に探しに行く気がする。
それだったら手綱を握っていたほうがいいのもうなずけた。
こうして捜索隊はケイン、シャーリー、ミネルヴァ、リリアン、ファルマン、オーベールの6人で行動することとなった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマーク登録と、評価(【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に)していただけると泣いて喜びます。
今後とも、宜しくお願いします!