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石化トレーニング

作者: 鍵の番人

 私はメデューサだ。

 頭には髪の代わりにヘビがうねうねと生えており、背中に翼を背負う異形の怪物。


 ――だから。


「貴女はなんて美しいんだ!」


 ――こんな言葉は、嘘でしかありえないのだ。




「ああ、どうか私と結婚して下さい! きっと幸せにしてみせます!」


 それなのにこの男は、私に向かって両腕を広げ、こんな世迷言を口にしてみせる。

 私は手元の瓶を投げつけては、男を追い払おうとする。


「私のどこが美しいって? そんな見え見えの嘘に引っかかる馬鹿がいるか」

「どこもかしこもです、美しい方。その透き通る青緑色の瞳も、なめらかな肌も、黄金の翼も、何もかも全て!」

「お前は人間の男だろう。まずこの異様な頭が醜いと思わないのか?」

「その蛇のことですか? つぶらな瞳がキュートですね!」

「お前は相当な馬鹿なんだな」


 再度、小瓶を投げつけてため息をつく。

 先程からずっとこのやり取りが続いている。早く目の前から追い払わねばと思うのに、聞き分けが悪すぎてうまくいかない。どうやら頭か目が悪いようなのだが、そろそろ予備の瓶も尽きる。


「どうしました、愛しい方。そんな憂え気な顔をして。まさか、私との恋の行方を心配しておられるのか? だとしたら心配いりません。私の愛は永久に不滅ですから!」

「心配しているのはお前の頭だよ。恋の行方どころかこのままじゃお前の未来はねえよ。さっきから、私を見るたびに石化しているのがわからないのか?」

「愛の力があれば、石化なんて!」

「愛は万能薬じゃねえよ」


 やはり悪いのは頭のようだ。石化するたびに薬をぶつけて呪いを解いてやっているのだが、どうも無駄のような気がしてきた。


「それに、私の未来はもう決まっています。気高く優しい貴女は、石化する私を放っておけない。人に見られるから外に出て私を置いてくることもできない。そして、私は決して貴女から目をそらさない!」


 いや、追い払う方法なら色々ある。

 だが、私はその言葉を飲み込んだ。

 決して真摯な目に興味を惹かれたわけではない。問答に疲れたからだ。


「城に囚われて石化し続けても、お前は構わないというのか?」

「ええ、貴女の美しさに慣れるよう傍で鍛錬していれば、いつか石化しなくなるでしょう」


 それも勘違いだ。人はこの醜さゆえに、石化するのだから。

 しかし、私はそれも言うことができなかった。

 



 その後、私は結局、毎日一時間と空かずに解毒薬を投げつけるはめになる。


 囚われたのは彼ではなく、私だったのだ。

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