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À tes yeux!

「うわぁーっ! 綺麗っ! それに高ーいっ!」


「本当! すごーいっ!!」


広々とした芝生広場から、エッフェル塔の全体が綺麗に見える。


「あの門から見た時よりもずっとずっと高く見えますね!」


「そうだな」


「これも上まで上れるんですか?」


「ああ、そうだよ。今、リュカがチケットを取りに行ってくれているから、ここで少し待っていよう」


「はーい」


「ねぇ、弓弦くん。写真撮ろうよ!」


「わぁ、いいね!!」


佳都さんに声をかけられて、理央くんや空良くんたちと交代で写真を撮る。


「ああ、いいな。僕も一緒に撮りたい!」


「うん、撮ろう、撮ろう!」


秀吾さんや、ミシェルさんも一緒に写真を撮っていると、


「ほら、みんな。こっち向いて集まって!」


と綾城さんが声をかけてくれる。


どうやらみんな一緒に撮ってくれるみたいだ。エッフェル塔を背にみんなで集まって写真を撮っていると、エヴァンさんや観月さんたちみんなも僕たちにカメラを向けている。


「なんだかモデルさんになったみたいだね。カメラがいっぱい」


「本当だ。どこ見ていいのかわからなくなっちゃうね」


「ああー、わかるーっ!!」


そんな話をしているだけでもう笑顔が止まらない。なんだか修学旅行気分ですっごく楽しい。


「お待たせしましたー」


リュカが走って戻ってくるのが見えて、


「リュカも一緒に写真撮ろうよ!」


と声をかけるとジョルジュさんと何か話して急いで僕たちの方に来てくれた。


「ねぇ、リュカはエッフェル塔に上ったことがある?」


「ええ、そうですね。祖母と上ったこともありますし、それにジョルジュとも上りましたよ」


「へぇー、どうだった?」


「祖母とは昼間に、そしてジョルジュとは夜でしたけど、どちらもそれぞれ素敵でしたよ。今度はまた皆さんで夜に来られたらいいですね」


「うん! そうだね! みんなでまた来たらいいんだよね」


こんな楽しい時間があと数日で終わっちゃうのかと思ったら寂しくなっていたけれど、みんなで集まれるのは今日が最後ってわけじゃないんだ。これからいっぱいいろんなところにみんなで行って、思い出を増やしたらいいんだよね。


リュカも入れて、写真をいっぱい撮り終わると


「じゃあ、そろそろ行こうか」


とエヴァンさんが声をかけてくれて僕をさっと抱きかかえる。


「エヴァンさん、僕、歩けるよ」


「わかっているよ。だが、ここは少し人通りが多いし、凱旋門からずっと歩いてきて疲れているだろう? リオも少しは休憩させたいとミヅキが言っているが、リオもみんなが歩いていると我慢してしまうんだ。ユヅルが私に抱きかかえられていれば、リオも安心してミヅキに抱っこされるだろう?」


そう言われて、理央くんを見れば確かに少し疲れた顔をしている。楽しそうだったけど、さすがにちょっと疲れたのかも。知らないところ歩くのは結構気疲れもするのかもね。


「わかった。でもエヴァンさんは大丈夫?」


「ユヅルは軽いから大丈夫だと言ったろう? 気にしないでいいよ。それよりもユヅルを抱きかかえていられる方が幸せだ」


「エヴァンさんったら」


僕が抱きかかえられると、次々にみんな抱っこされていく。これもホストとしての役目なのかもね。


エッフェル塔に着くと、エヴァンさんが展望エリアに進む道ではない方に進んでいく。


「エヴァンさん、どこにいくの?」


「ああ、そろそろ昼食にしようと思ってね」


「そっか。そういえばお腹空いたかも」


そう言った瞬間、きゅるるとお腹が鳴る音が聞こえた。


「可愛い音が聞こえたな。ユヅルは実に素直だ」


「恥ずかしいっ」


「恥ずかしがることはない。私はユヅルの全てを愛しているよ。お腹の音も全てね」


「エヴァンさん……」


「じゃあ、すぐにユヅルのお腹にご飯を食べさせてやろう。リュカ」


その声にリュカが先導するように、エッフェル塔の根元にある短い階段を上がっていく。


「足元にお気をつけください」


と声をかけながら、目の前にある扉を開いて中に案内してくれる。すると目の前にはエレベーター。エヴァンさんは僕を抱きかかえたままそのエレベーターに乗り込んだ。そして、みんなも一緒に乗り込んでエレベーターがぐんぐんと上がっていく。


ぽんと扉が開いた先には、なんだかものすごい緊張しそうなお店。どうやらフランス料理のお店みたい。すぐにお店から黒服の人がやってきて、僕たちを眺めのいい席に案内してくれた。大きな窓からはさっき写真を撮っていた広場も、さっき上っていた凱旋門もよく見える。


「すごーい、綺麗!」


「ここで景色を見ながら食事をするのもいいだろう」


「エヴァンさん、こんな素敵なお店に連れてきてくれてありがとう!」


「ユヅルが喜んでくれて嬉しいよ」


きっと僕たちの観光が楽しくなるように考えてくれたんだろうな。エヴァンさんって、本当に優しい。


「ユヅル、コートを」


「あっ、ありがとう」


外の寒さとは違って中はとっても暖かい。エヴァンさんに手伝ってもらいながらコートを脱ぐと、他の席にいる人たちから何か声が聞こえる。


声が小さいし、フランス語だし、僕には何を言っているのかはわからないけど、いちいち反応するのもおかしいかな?


少し気になったけど、そのままにしておいた。エヴァンさんもコートを脱ぎ、近くにいた黒服の人に僕のコートと一緒に手渡して、僕をエスコートしながら椅子に座らせてくれた。


そっか、流石にここではエヴァンさんと一緒に座るわけじゃないんだ。ここのところずっとエヴァンさんの膝に乗ってご飯食べてたからそれが当たり前だと思ってたな。


でも外の景色がよく見えるように横並びの席だから、ピッタリと寄り添って座ればエヴァンさんの温もりを感じられる。


隣を見れば理央くんたちもピッタリと寄り添って座っている。やっぱりくっついて座ると安心するよね。


「料理は注文しているから、それぞれ好きな飲み物を選んでくれ。ユヅル、何がいい?」


「えっと……ぼく、わからないからエヴァンさんが選んでください」


「なら同じものにしようか」


「えっ、でもエヴァンさんはいつも赤ワインを……」


「ああ、だが今日はまだ夜までいるからな。昼間はノンアルコールにしておこう。ミヅキたちも同じものにしないか?」


エヴァンさんはミヅキさんたちに視線を向けた。


「ええ、いいですね。私もノンアルコールにしようと思っていたんですよ」


「じゃあ、そうしようか」


近くにいた黒服の人にみんなの分の飲み物を注文した。すぐに僕たちの前に数人の男の人がやってきた。胸元に金色のブドウのバッジをつけているこの人たちのことをソムリエさんと呼ぶんだって前にエヴァンさんに教えてもらったことがある。その人たちが僕たちのグラスにトクトクとワインを注いでくれる。


ワイングラスに入れているからというのもあるかもしれないけれど、これがお酒じゃないなんて信じられないな。


「うわー、大人になったみたい!」


「本当だね!!」


理央くんと空良くんがワインを見て興奮しているのが聞こえる。

うん、うん。やっぱり楽しくなっちゃうよね。


みんなにワインが注がれたのを確認してエヴァンさんがグラスを掲げて声をかける。


『À notre amitié !』


観月さんたちは嬉しそうに同じ言葉を繰り返した。


意味はわからなかったけど、僕も聞き取れた言葉でなんとか


『ア ノトル あみてぃえ』


というと、エヴァンさんは嬉しそうに僕の顔を見ながら、


『À tes yeux!』


といいながら僕のグラスにそっと当てた。


「『あてずぃゆ?』どういう意味?」


「ユヅルからも言ってもらえるなんて嬉しいよ。今のは愛しい相手と乾杯する時の言葉だよ」


「そうなんだ、じゃあエヴァンさんと乾杯する時だけだね」


「ああ、そうだ」


「最初のはなんて言ったの?」


「私たちの友情に乾杯って言ったんだ」


「へぇー、そうなんだ。じゃあ……」


僕はすぐ隣に座っている理央くんに


『ア ノトル アミティエ』


というと、理央くんも観月さんに教えてもらったのか、拙いなりにも


『あ のとる あみてぃえ』


と自信たっぷりに返してくれた。


「「ふふっ」」


「僕たち、フランス人になったみたいだね」


「うん、僕フランス語喋ってる!!」


大喜びする理央くんを見つめる観月さんの視線がとても優しく見えた。


次々と食事が運ばれてくる。見た目にも綺麗な料理ばかりで、料理が運ばれるたびに理央くんや空良くんの方から感嘆の声が漏れてくる。


観月さんはその料理をさっと綺麗に切り分けて理央くんの前に置く。その素早い動きに驚いてしまうほどだ。


理央くんはそれを嬉しそうに口に運び、


「んんっ、すっごく美味しい!!」


と幸せそうな声をあげる。


それを聞いているだけで僕も幸せを感じながら料理を食べた。


「ユヅル、どうだ?」


「すっごく美味しいです! このお肉、すっごく柔らかいですね」


「ああ、これは仔羊だよ。クセもないし、柔らかくて私も好きだよ。ユヅルと好みが一緒で嬉しいよ」


「エヴァンさんったら」


あっという間に食事を食べ終わり、デザートのケーキとミルクと砂糖たっぷりのカフェオレを飲んで大満足。


「お腹いっぱいになっちゃったね」


「うん。美味しかった」


そう話す理央くんはなんだか眠たそう。


「あれ? 観月さん、理央くん大丈夫ですか?」


「ああ、いつも昼食を食べたら眠くなるんだ。少し寝たらすぐに起きるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


観月さんはさっと理央くんを椅子から抱き上げて自分の膝に乗せた。安心しきったように眠る理央くんとそれを眺める観月さんがすごく素敵だ。しばらくおしゃべりをしながら理央くんが起きるのを待っていたけれどまだ少し眠いみたい。


「ミヅキ、そろそろ行けるか?」


「ええ、大丈夫です」


観月さんは手際良く寝ている理央くんにコートを着せて立ち上がった。そして、そのまま店の外に出た。


「動いているうちに起きると思いますから、エッフェル塔に上りましょう」


観月さんがそう言ってくれたので、みんなでそのままエッフェル塔に上る。時間的にタイミングが良かったのか、さっきまでの行列が嘘のように少なくなっていた。


そうして僕たちはエッフェル塔に上ったんだ。

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