格好良すぎる!
ジョルジュさんが公園の中に入って行くと、小さな建物の中から慌てたように男の人が出てきて、その人としばらく話をしてジュルジュさんが戻ってきた。
「ジョルジュ、どうだった?」
「ああ、三十分くらいなら大丈夫だと言っていた。ボールも貸し出してくれるようだ」
「そうか、なら入るとしよう。ユヅル、行こうか」
「わぁ、本当に見られるんですか! 嬉しいっ!!」
エヴァンさんがバスケをしている姿が見られるなんて! なんかワクワクする。
「ミヅキたちも少し付き合ってくれないか?」
「ええ、私たちでよければお付き合いしますよ」
「えっ、凌也さんもするんですか?」
観月さんも一緒にバスケをしてくれることになって理央くんも嬉しそうだ。やっぱりこういうのって見てみたいよね。
「ああ、少し理央にいいところを見せたいからな」
「凌也さんはいつだってかっこいいですよ」
二人の周りが幸せオーラに包まれてる。うん、やっぱり二人ラブラブだな。
エヴァンさんに肩を抱かれて公園に入る。コートは二面あって、さっきまでバスケをしていた彼らは奥のコートに移ってくれたみたいだ。こっちをチラチラとみてる気がする。まぁ急にこんな大人な人たちが入ってきたらびっくりしちゃうよね。
「せっかくだからスリーonスリーでもやろうか」
エヴァンさんが観月さんにいうと、
「ああ、いいですね。どう分かれましょうか?」
とすぐに賛成してくれる。いいなぁ、こういうの。
「スリー、オン、スリー?」
「三対三に分かれてシュートを入れ合って、二十一点先に取った方が勝ちだよ」
聞きなれない言葉に理央くんが戸惑っていると、すぐに秀吾さんが教えてあげていた。秀吾さんって理央くんのお兄ちゃんみたいだな。
「あ、じゃあロレーヌさん、セルジュさん、ジョルジュさんのフランスチームと、観月さん、綾城さん、悠木さんの日本チームに分かれましょうか。俺は審判しますよ」
「そうか、ならスオウに審判を頼むとしよう」
周防さんが率先して審判役を買って出てくれた。優しいなぁ。
「ユヅル、これを頼む」
さっとコートを脱いで僕に渡してくれる。
「座っていると寒いだろうから、羽織っているといい」
「はーい」
言われた通り、エヴァンさんのコートを羽織るとエヴァンさんの匂いに包まれてなんだかドキドキしてくる。ああ、これ……すっごくいいかも。
隣を見ると、理央くんも空良くんもみんなおっきなコートを羽織って嬉しそう。きっと僕と同じことを思ってるんだろうな。
コートに三人ずつ並んで立つと、若干エヴァンさんたちの方が身長が高く見える。でもみんなおっきいなと改めて感じてしまう。
周防さんがポケットから何かを取り出して、空に向かってピンと指で弾き、それを両手で挟んだ。
「秀吾さん……あれ、何やってるんですか?」
「ああ、あれはコイントスっていって、コインの表裏を当てるんだよ。当たった方が最初に攻撃するか守る方か選べるんだ。あ、フランスチームが当たったみたいだよ。セルジュさんがコートの外からボールを投げ入れたら試合が始まるよ」
秀吾さんの解説を聞きながら、僕と理央くんはうん、うんと頷く。
「二十一点って、そんなにいっぱい入れるんですか?」
「バスケはね、シュートを決めた場所で点数が変わるんだ。ゴール近くで入れたら一点。あそこのラインで入れたら二点。そして、一番遠いあのラインから入れたら三点入るんだよ」
「へぇー、じゃあ三点いっぱい入れたら勝てますね!」
「ああ、そうだね。でもフランスチームは強敵揃いだから、そう簡単に三点は入れさせてもらえないかもね。理央くんがいっぱい応援したら観月さんも頑張れるんじゃないかな」
「――っ、じゃあ僕いっぱい応援します!」
そんな無邪気な笑顔を見せる理央くんをみていると、自然と笑みが溢れる。こういうのってなんだか楽しい。
「凌也さぁーん! 頑張ってぇー!!」
理央くんの応援が聞こえたのか、さっと観月さんがシュートを決める。
「わぁー! すごい、すごい!!」
『セルジュもシュート入れてぇー! やったぁー!!』
「直己さん! 頑張ってぇー! わぁー、かっこいいーっ!!」
「寛人さん! がんばれー! わぁ、すごーい!!」
興奮しているみんなの応援が出るたびに次々とシュートを決めていく。すごい! かっこいいな!
ミシェルさんは興奮してフランス語になってる。でも興奮しちゃうのわかるなぁ。僕も応援しなきゃ!!
「エヴァンさーん! 頑張ってぇー!!」
そう声をかけた瞬間、エヴァンさんがスリーポイントシュートをずばっと決めた。と同時にフランスチームの勝ちが決まったみたいだ。
「わぁー! すごーい! エヴァンさん、大好き!!!」
嬉しすぎて、エヴァンさんに駆け寄るとエヴァンさんが抱き上げてキスしてくれる。
「ユヅルの応援のおかげだよ」
抱きしめてくれるエヴァンさんからほんのり汗の匂いがする。運動していたんだから当然なんだけど、なんか違うことを思い出しちゃうのは気のせいかな。
「ねぇ、凌也さん。僕もシュートやってみたいな」
エヴァンさんのコートを着る手伝いをしていると、そんな声が隣から聞こえてくる。
「ロレーヌ、まだ少し時間はありますか?」
「ああ、まだ使えるよ。リオにさせるのか?」
「ええ。少しシュートでもやらせてみようかと」
「ははっ。それはいい。リオ、ミヅキが教えてくれるからきっとシュートできるようになるぞ」
「はい。頑張ります!」
エヴァンさんの優しい声かけに、理央くんは嬉しそうに笑って観月さんと一緒にバスケットコートの中央に歩いて行った。
「ねぇ、理央くん。できるかな? 前に体育はお休みばかりしてたからあまり運動はしたことがないって言ってたけど…
」
「大丈夫だよ。観月さん、教え方上手そうだし」
心配そうな空良くんに言葉を返すと、
「それもそうだね」
と嬉しそうに笑っていた。
ビデオ通話で話していた時も、運動はやったことがなくて苦手だって言ってたもんね。あの時は単純にそうなんだと思っていたけど、体育をお休みしてたんならやる機会すらなかったってことなのかな。何も経験もない理央くんから想像すると、きっと体操服とか用意してもらえなくて体育はお休みさせられていたのかも……。
僕も裕福な生活をしていたわけではなかったけれど、理央くんの話を聞くたびに自分は幸せだったんだと思い知らされる。だからこそ、今理央くんが観月さんと出会って幸せになっていることが嬉しくてたまらないんだ。
「ユヅルもやってみるか?」
「僕、意外とバスケットは上手だったんですよ。エヴァンさんほどじゃないですけど……」
「そうなのか? ニコラも運動は得意だったから、似たのかもしれないな」
「そうなんですか? お父さんも……なんか嬉しいな」
「ニコラはヴァイオリニストだったから、手を怪我するような競技は避けていたが、足も速かったし子どもの頃はサッカーが好きだったと言っていたな」
「サッカー、エヴァンさんと一緒ですね」
「そうだな。フランスはサッカーも人気だから子どもの頃はよくしたものだ。セルジュと庭で遊んだこともあるぞ」
そんなエヴァンさんの思い出話を聞くだけで楽しい。
「わっ、バスケットボールって結構重いんですね」
理央くんはバスケットボールの感触を楽しんでいるみたいだ。ぽんぽんと上手にドリブルしている姿が様になっている。
「ほら、理央。あの角を目掛けてボールを投げてごらん」
理央くんは言われた通りにボールを投げてみるけれど、力が足りなくてそこまで行き当たらない。後ろから観月さんが支えて一緒にボールを投げると、ボールは吸い込まれるようにゴールにスポッと入った。
「わぁー! 入った!」
「理央くん、すごいすごい!!」
「本当! 上手だったよ!!」
僕たちだけでなく、公園の外から見ている人たちからも声がかけられたり、拍手されたりして理央くんは恥ずかしそうにしながらもとっても嬉しそうだ。
「ありがとう!」
僕たちにお礼を言った後で、理央くんは観月さんに何か耳打ちされている。理央くんは嬉しそうに笑いながら、公園の外にいる人たちに向かって、
『めるしぃー!』
と言いながら手を振ると、キャーキャーとものすごい声が返ってきた。あまりにも多すぎて何を言っているのか僕には全くわからない。
「ねぇ、エヴァンさん。あの人たち、何て言ってるの?」
「んっ? そうだな。声が入り混じっていて私にもよく聞き取れないが、リオが可愛いと言っているようだよ。理央は小さいから、小さな子がシュートを決めていたら思わず声をかけたくなるだろう?」
「確かに。理央くん、とっても可愛いもんね」
「私にはユヅルしか見えないがな」
「エヴァンさんったら……」
「さっきバスケットで勝ったご褒美はもらえないか?」
そう言って僕を抱きしめる。僕はちゅっとエヴァンさんにキスをして、朝のことを思い出しながら
「続きは夜にね」
と笑顔でいうと、エヴァンさんは嬉しそうに頬を緩めて
「ああ、楽しみにしているよ」
と言ってキスを返してくれた。
ああ、なんか夜のことを考えたらドキドキしちゃうな。
「エヴァン、そろそろ……」
ジョルジュさんに声をかけられて、僕たちは公園をあとにする。
「バスケットかっこよかったね」
「うん! ロレーヌさんチームに負けちゃったけどね」
「でも接戦だったよ」
「だね。あの、奥でバスケットしてた人たち驚いてたよ」
「本当?」
「うん。でもびっくりしちゃうよね。急に大人の人が真剣にバスケット対決やり始めたら」
「そうだね。でも本当かっこよかったなぁ……」
もうこの一言に尽きる。こんな人たちが僕たちの旦那さまなんて……嬉しくなっちゃうよね。
「あ、でも周防さんは審判だったから……秀吾さんも周防さんがシュート打つところ見たかったんじゃないですか?」
「うーん、まぁ、見たくないと言えば嘘になるけど、審判してる将臣もかっこよかったからいいかな」
「そうですね」
そんな話をしながら理央くんや秀吾さんたちと集まって歩いていると、
「ほら、もう公園から出るから私から離れて歩いてはダメだぞ」
とエヴァンさんに抱き寄せられる。見れば、みんなそれぞれの旦那さまに抱き寄せられていた。
「エッフェル塔までこのままだからな」
少し風が出てきて寒さを感じた僕は、エヴァンさんのコートの中に入って、エッフェル塔を目指し歩き始めた。