先生、教えて!
ベビードールをドレスの中に着ておくなんて……すごく高等な技だな。さすがリュカ。きっと佳都さんもそうに違いない。こうやっていろんな話を聞けたら、これからのために勉強になるなぁ。他にも教えてもらってエヴァンさんにも喜んでもらえたらいいな。
「あの、リュカさんも秀吾さんも……その、他にこうしておいたらいいよとかってこと、あったりしますか?」
僕も聞いてみようかなと思っていたのを理央くんが先に尋ねてくれた。
やっぱり僕も理央くんも初心者同士だし、[[rb:夫 > つま]]として大事なこととか教えてもらいたいもんね。
こういう時、夫としての先輩がいるというのは心強い。
「こうしておいたらいいって、たとえばどんなことを聞きたいの?」
秀吾さんの言葉に、理央くんは少し頬を染めながら
「あの、僕……いつも、凌也さんにしてもらうばっかりで、気づいたら意識無くなってて……目が覚めた時には、お風呂にも入れてもらって寝てるだけで……なんか、もっと僕も頑張れたらいいなって思ってるんですけど…だからせめて喜んでもらえたらなって……なのに、ベビードールも忘れちゃって……泣いちゃって、凌也さんに心配かけちゃったし……」
と教えてくれた。理央くんの話全てに共感できる。
「わかる! 僕も同じだよ。いつもエヴァンさんにしてもらうだけで自分から動けないし、エヴァンさんみたいに何かしようと思っても断られちゃうし、気づいたらお風呂も入れてもらっててベッドに寝ちゃってるし……」
「そう! 僕とおんなじ! なんかいつもしてもらうばっかりで申し訳なくっちゃうよね……」
「うんうん、そう! そっか、やっぱり理央くんも同じなんだ! やっぱり僕たちは初心者だから同じだよね」
共感しあえるってすごく嬉しい。
「リュカさんと秀吾さんはもうベテランだから違うんでしょう? どうしたら意識失わずにいられるのか教えて欲しいです」
理央くんが目をキラキラと輝かせながら、リュカと秀吾さんを見つめると、二人は顔を見合わせて笑った。
「そんなの、僕たちも同じだよ。ねぇリュカさん」
「ええ、一緒ですよ」
「えっ? 同じ?」
「僕もほとんど意識なくして、気づいたらお風呂も着替えも終わって寝ていることも多いよ」
「そうなんですか?」
思いもよらない返事に今度は僕と理央くんが顔を見合わせて驚いた。
「理央くんたちは申し訳ないと思っているかもしれないけど、観月さんもロレーヌさんも二人のお世話ができて嬉しいんじゃないかな? 僕も最初は後片付けも全部させちゃって申し訳ないなって思ってたけど、将臣に言われたんだ。意識のない僕をお風呂に入れるのも全部含めて愛し合うってことなんだって。だから、いつも嬉しそうだよ。観月さんとロレーヌさんもそうじゃない?」
「あっ、確かに……嬉しそうかも……。ゆっくり寝てていいよって優しい声で言ってくれる」
「でしょう? だから、まだ何もできなくても気にしなくていいんじゃないかな? 特に二人とも体力無さそうだし、観月さんととロレーヌさんの体力と比べたらそりゃあ動けなくなると思うし、ねぇリュカさん」
「ええ。お二方よりも随分と体格の良い私ですら、意識失うこともあるのですよ。だから、気にする必要なんてないですよ。まだまだこれからです。そんなに焦らなくても良いと思いますよ。今はただ、感じるままに愛し合えばお互い幸せですよ」
秀吾さんとリュカの言葉が胸に響く。申し訳ないと思っているのは僕たちだけなのかも。確かにいつだって、エヴァンさんは幸せそうだ。
「観月さん、幸せそう?」
「うん。僕が好きっていうと、すごく嬉しそうに笑うよ」
「同じだ」
「これからだね」
「うん、そうだね。これからだね」
「でも……ひとつくらい、喜ばせる方法知りたいよね?」
「ああ、確かに。リュカ、秀吾さん……これしたら絶対に喜んでくれるのとかってありますか?」
そういうと秀吾さんは少し恥ずかしそうにしながらも
「やっぱり……上に乗ってあげると喜びますよね?」
と言ってリュカに同意を求める。
「え、ああ。そうですね。すごく興奮してくれますね」
「上に乗る?」
意味がわからなくて、聞き返すと、リュカと秀吾さんは小声で丁寧に教えてくれた。
「できるかなぁ……」
「大丈夫、いつかはできるようになりますから」
優しく言ってもらえて、ほんの少しホッとする。
「じゃあ、頑張ってみる!」
「うん、僕も!」
僕と理央くんはなんだか戦友のような気持ちで笑い合った。
「理央くんがいてくれてよかった」
「うん、僕も弓弦くんがいてくれてよかった」
「ねぇ、エヴァンさんが観月さんにフランスに来ないか? って誘ってたでしょう?」
「うん。凌也さん、なんか考えてるみたいだった」
「僕は理央くんがこっちに来てくれたら嬉しいよ」
「僕も、フランス気に入っちゃった。だって、絵本の世界に入ったみたいなんだもん」
「僕も初めてこっちの風景見た時そう思ったよ!」
結婚式のドレスも大好きな絵本のお姫さまと同じだったって言ってたし、本当にあの絵本が好きなんだな。きっとひとりぼっちだったっていう理央くんの大切な友達だったのかもしれない。
「ユヅル、昼食の支度ができたようだ。ダイニングルームに移動しようか。それとも、ここに料理を運んでもらおうか?」
理央くんたちと話をしている間にもうそんな時間になっていたみたい。全然わからなかったけど、そういえばお腹が空いている気がする。お腹は正直だな。
ダイニングルームでのお食事も楽しいけれど、このコンサバトリーはお花がいっぱいで良い香りだし、あったかいし、みんなとの距離がすごく近く感じる。僕がここで食べたい! という前にエヴァンさんはもう僕の答えがわかっていたみたいだ。優しい笑顔で了承してくれると、そのままパピーに伝えてくれた。
「それで……随分と話が盛り上がっていたようだったな。何を話していたんだ?」
「内緒です」
「なんだ? 気になるな」
「あの、それよりもクリスマスマーケット、行けそうですか?」
せっかくリュカと秀吾さんからエヴァンさんを喜ばせる方法を聞いたのにここでポロッと喋っちゃったら意味がないからなと思い、なんとか話題を変えてみた。
でも上に乗るって結構難しそう。いつか上に乗って、エヴァンさんに喜んでもらえたら良いんだけど……。
あれ? でもちょっと思ったんだけど……それって、自分から乗りますって宣言して乗るのかな? それってかなり恥ずかしいんだけど……。後でもう一度リュカと秀吾さんにどうやってスムーズに上に乗れるのか、教えてもらおうっと。きっと理央くんだってそこのところは知りたいよね。
「ああ、ジョルジュにも話したから問題ない。せっかくだから夜に出かけようか」
「わぁ! 夜に行けるんですか? 嬉しい!」
「以前行った時、ユヅルがイルミネーションを喜んでいたからな、きっとリオたちも喜ぶだろうと思ったんだ」
「エヴァンさん! 嬉しい! 覚えててくれたんですね」
「当たり前だろう。ユヅルと出かけた時のことは忘れるわけがないさ」
当然のように言ってくれるエヴァンさんの優しい言葉に僕は舞い上がりそうなくらい嬉しかった。あのクリスマスマーケットに行った日のことは、今でも思い出すくらい僕には楽しい時間だったから、エヴァンさんが同じ気持ちでいてくれていることが嬉しかったんだ。
そんな話をしている間に僕たちがいたテーブルの上に次々と料理が運ばれる。スープにサンドイッチ、果物にサラダ。どれも美味しそうだ。
特に、僕が大好きなローストビーフのサンドイッチ! みているだけで涎が出てきちゃうな。このサンドイッチ、一口でかぶりつけないほどボリュームたっぷりだけど、不思議とペロッと食べられちゃうんだよね。
「わぁ、美味しそう!」
目を輝かせて料理を見ている理央くんはやっぱり可愛い。僕が初めてこのローストビーフのサンドイッチを見た時も同じような感じだったのかななんて思うと、なんだかとても懐かしく感じる。
先輩ぶって、これすごく美味しいからたくさん食べられるよと教えると、すごい! と尊敬の眼差しで見てくれる。なんか本当に一緒にいると楽しいな。
「さぁ、料理も揃ったことだし食べようか」
エヴァンさんの声にふと周りを見ると、理央くんも秀吾さんも、それにリュカもみんな膝の上に抱っこされて座っている。リュカだけは少し照れているように見えるけど、全然嫌がっている様子もない。やっぱりこれが普通なんだなと改めて思う。
最初はエヴァンさんに抱っこされてご飯を食べるなんて良いのかな……なんて思っていたけど、ミシェルさんも普通にやってたしなんだか気にならなくなってきたんだよね。理央くんたちも普通にやっているし、恋人なら……あ、もう夫夫だけど……これが当然なんだろうな。
「理央、どれから食べたい?」
「あのね、このサンドイッチが美味しいって教えてもらったの。でもおっきいから全部食べられるかわからないんですけど……」
「そうか。じゃあ、これを食べてみよう。半分こして食べたら残す心配はしなくて良いだろう?」
「わぁーっ、凌也さん。大好き!」
無邪気な理央くんの声が響く。ああ、なんだか微笑ましいな。ずっと見ていたくなる。
そっと秀吾さんに視線を受けると秀吾さんたちも嬉しそうに理央くんたちを見ているのがわかった。やっぱりみんな同じなんだな。
「んーっ! おいひぃっ!」
「理央、ソースが垂れてる」
「ありがとう」
あまりにも自然に理央くんのソースを舐めとる観月さんの姿に驚きつつも、そういえばエヴァンさんもいつも舐めとってくれるよねと思い出して納得する。これが夫夫なんだよね。
「エヴァンさん。僕もサンドイッチ食べたいです」
「ああ、半分こしようか」
「はい」
どうやら理央くんたちと同じことをしたいと思った僕の気持ちをわかってくれたみたいだ。
パクッと大きな口を開けてかぶりついたら、すぐにエヴァンさんが唇の端を舐めてくれる。うん、何だかいつも以上に美味しい気がする。夫夫になったら味も変わるのかな。これは発見だな。