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熟年夫夫の証

「ねぇ、理央くん。手袋編むのって難しい?」


「えっ?」


「僕もエヴァンさんに作ってあげたいんだ。難しいかな?」


「ユヅルっ! そんなことを思ってくれていたのか?」


「だって、手編みって本当にいいなって思ったんです。これ、理央くんの気持ちが詰まってて僕のために一生懸命作ってくれたんだってわかったから……。だから、僕もエヴァンさんにも気持ちをこめて作りたいなって……わっ!!」


僕がそういうと、エヴァンさんは僕をギュッと抱きしめてくれた。


「エ、ヴァンさん……理央くんたちが見てますよ」


「弓弦くん。気にしないでいいよ。愛しい[[rb:夫 > つま]]にそんなことを言われて喜ばない旦那はいないよ。私だって、理央にそんなことを言われたら、人前だって関係なく抱きしめると思うよ。もう夫夫なんだし気にしなくていいよ」


「さすがミヅキだな」


エヴァンさんは観月さんの言葉に嬉しそうに笑って、しばらく僕を抱きしめていた。


「手袋の編み方だけど、理央が編んでるのをビデオ通話で見せながら、弓弦くんも一緒に編んだらいいんじゃないか?」


「えっ、ビデオ通話で? でも誰の分を僕は編むんですか?」


「きっと母さんが理央からもらった手袋を自慢しているだろうから、綾城の母さんたちからも手袋頼まれると思うぞ。綾城の母さんたちにはプレゼントを貰ったからそのお礼を兼ねて編むだろう?」


「はい! 僕の手編みでよかったらぜひ編みたいです。クリスマスプレゼントとっても嬉しかったから」


「じゃあ、決まりだな。弓弦くん、それでいいかな?」


「はい。僕、とっても嬉しいです。理央くん、僕不器用だけどよろしくね」


「大丈夫だよ。慣れたらすっごく簡単だから」


「よろしくお願いします、先生」


「弓弦くんったらー」


理央くんたちが日本に帰っちゃったら、もうあんまり繋がっていられないのかもなんて思って寂しくなっていたけれど、帰ってからもビデオ通話で繋がれるんだ。本当にすっごく嬉しいな。


「少し冷えてきたからコンサバトリーに移動しよう」


エヴァンさんの言葉で僕たちは温かいコンサバトリーに移動した。すぐにパピーが紅茶を持ってきてくれる。


「あったかいね」


もこもこのコートと手袋があったから寒いとは感じなかったけれど、やっぱり中に入って温かい飲み物を飲むと、ホッとする。


「理央くんたちはあと数日いられるんだよね?」


「うん。みんなと過ごすのがとっても楽しいから、ずっとこっちにいたいくらいだよ」


「いつだって来てくれていいんだからね、ねぇエヴァンさん」


「ああ、ミヅキたちなら大歓迎だよ。一緒に結婚式まで挙げた仲だ。もう家族と同じだからな」


「わぁー、嬉しいです。凌也さん、僕たち家族だって!」


「ああ、嬉しいな。ロレーヌ総帥たちもぜひ日本に来てください。仕事ではなく、旅行で。歓待しますよ」


そんな観月さんの言葉に


「ミヅキ、ありがとう。ぜひ遊びに行かせてもらうよ。だが、いい加減ロレーヌ総帥ではなく普通に呼んでくれないか?」


喜びつつもそういうと、


「えっ? あ、失礼しました。ロレーヌ、楽しみにしてますよ」


と少し照れながら返していた。


「ああ、それでいい。私たちは家族同然なのだからな」


エヴァンさんの言葉に観月さんだけでなく、理央くんもとっても嬉しそうだった。



「あっ、弓弦くん! 理央くん! 早いね。もうお茶してたの?」


「あっ、秀吾さんと周防さん! やっぱり抱っこだ」


「えっ! あっ、恥ずかしいな。将臣、下ろしていいよ」


「ダメだって、今日はずっと俺がお世話するって言っただろう?」


チュッと秀吾さんの髪にキスをしている将臣さんが見える。きっとあの二人も幸せな夜を過ごしたんだろうな。エヴァンさんとの濃密で甘い時間を思い出して、少し顔が熱くなってくる。


ふと理央くんに視線を向けたら、理央くんのほっぺたも赤かったから、きっと同じことを思い出しているんだろう。まぁ、みんな幸せってことでいいよね。


「秀吾さんたちもこっちに来ておしゃべりしましょう」


イチャイチャしている二人に声をかけると、二人はさっとこっちにやってきてくれた。


観月さんの隣に、秀吾さんを抱っこしたままの将臣さんが腰を下ろす。


「意外と早く起きてたんですね。てっきり僕たちが一番乗りだと思ってました」


「ああ、ユヅルが散歩に行きたいと言ったのでな。ミヅキもそうだろう?」


「はい。理央が庭に行ってみたいというので来てみたんですが、雪があるとやっぱり楽しくなりますね」


エヴァンさん、将臣さん、観月さんの会話を聞くのは初めてかもしれない。なんか新鮮だなって思ってしまうのは僕だけじゃないのかも。


「あ、そうだ。弓弦くん。どこかでお買い物できるところないかな?」


「お買い物? 秀吾さんのものを買うんですか?」


僕はまだフランスには詳しくないけど、欲しいものが何かを言えばきっとエヴァンさんがいいところに連れて行ってくれるはずだ。


「母たちにお土産と、それからクリスマスプレゼントをくださった方たちにお返しを買いたいなと思って……」


「あ、そうですよね。いっぱい貰いましたもんね。お返しなら僕も選びに行きたいな。ねぇ、理央くん」


「うん。僕もお返し選びたい!」


「どこか、いいところあるかなぁ。あっ、あのクリスマスマーケットならいろいろ選べるかも。エヴァンさんどうですか?」


エヴァンさんを見つめると、少し間を置いた後で、


「そうだな、ジョルジュと話してみよう」


と言ってくれた。


あの幻想的なクリスマスマーケット、すごく楽しかったからみんなで行けたらいいな。


しばらくして、ジョルジュさんとリュカがやってきた。


「あっ、リュカ! やっぱり抱っこだ」


「あ、いえ。私は嫌だと言ったんですけど、ジョルジュが聞かなくて……」


「みんなお揃いだから大丈夫だよ」


そう声をかけると、リュカは少し頬を赤らめながら、ジョルジュさんを見上げた。


秀吾さんたちと同じくもうとっくに夫夫な二人なのに、いつまでもラブラブなんて羨ましい。僕もエヴァンさんとこんなふうに年を重ねて行けたらいいな。


「お前たちも散歩に来たのか?」


「いや、みんなここに集まってるって聞いたから連れてきたんだが、まだ少ないな」


「まぁ、ゆっくりと愛を育んでいるんだろう。二人っきりで過ごしていると時間を忘れてしまうからな」


「ははっ。確かに」


エヴァンさんとジョルジュさんは本当に仲がいい。いつかこんなふうに砕けて観月さんもお話したりするのかな。意外とエヴァンさんはそれを望んでそう。だって、話しやすい友人ができるって幸せなことだもんね。


僕もこのクリスマスで初めてみんなに出会ったけれど、最初の緊張はもうどこかに行ってしまった気がする。それくらいみんなと過ごす空間が心地良いんだ。それはエヴァンさんがずっとそばにいてくれる安心感もあるのだろうけど。


「ジョルジュ。ユヅルたちがクリスマスマーケットに行きたいと話をしているから、それについて少し話したいんだがいいか? ミヅキとスオウも一緒に話を聞いてくれると助かる」


「ああ、わかった」


ジョルジュさんの返事に頷くと、


「ユヅル、聞いていた通り今からちょっと話をするからここで四人で待っていてもらえるか? 私たちはユヅルたちの話の邪魔にならないようにあっちに移るよ」


と言われた。


「エヴァンさん、ありがとう。僕たちがクリスマスマーケットに行きたいって言ったから大変になっちゃいましたか?」


「いや、私もユヅルとみんなと出かけたいだけだ。気にしないでいい。ここで良い子に待っていてくれ」


「はーい」


「良い子だ」


チュッと髪にキスされて嬉しくなる。そういうスキンシップを欠かさないところが愛されてるって実感するんだよね。エヴァンさんに倣うように、観月さんと周防さんも大事な伴侶にヒソヒソと耳元で囁いて髪にキスをして少し離れた席に移動していった。


ほんのり頬を染めている秀吾さんと、真っ赤な顔で離れていった観月さんを見つめている理央くん。きっと甘い言葉をかけられたんだろうな。


四人で囲むように座っていると、


『紅茶のお代わりをお持ちしました』


とパピーが空っぽのカップに新しい紅茶を淹れてくれる。


リュカと秀吾さん、そして僕が[[rb:Merci > ありがとう]]と伝えると、それに倣うように理央くんも


『メルしぃ、ぱぴー』


と続く。


初めは恥ずかしそうにしていたけれど、理央くんも普通にフランス語が出てくるようになったな。少しずつ発音も良くなってきているし、僕がフランス語を習い始めた時よりも上達してるかも。僕も頑張らないとな。


パピーが紅茶と一緒に出してくれたマカロンを頬張っていると、


「あ、あの……皆さん。ベビードール、着ましたか?」


と理央くんが突然尋ねてきた。


あまりにもびっくりして咳き込みそうになったけれど、紅茶のおかげで助かった。


「理央くん、いきなりどうしたの?」


理央くんは意を決した表情で、


「僕……実は、それ着るの忘れそうになってて……約束守れなくてどうしようって思ってたら、凌也さんがまだ初夜だから大丈夫だよって言ってくれて……それでなんとか着られたんです。でも、みんな忘れずにちゃんと着てたのかなって思ったら、忘れそうになったのが申し訳なくて……」


と言い出した。


「大丈夫だよ」


「えっ? 大丈夫って?」


「僕も一緒なんだ。忘れててて約束破っちゃった……って思ってたら、エヴァンさんが大丈夫だよって言ってくれてちゃんと着られたんだ」 


さっきまで少し落ち込んでいた理央くんの顔がぱあっと明るくなってきた。

するとそれに続くように、


「僕も同じですよ。でもね、佳都くんもそれを絶対に着ないとだめだって言って渡したんじゃなくて、あれが初夜のいい思い出になればと思って贈ってくれたんだと思うんです。だから、もし初夜に着られなかったとしても、気にすることはないんですよ。幸せな夜を過ごせばいいんです」


と秀吾さんが優しく言ってくれる。


確かにそうだ。初夜のいい思い出……うん、幸せだと感じられたもんね。


「リュカさんはどうでした?」


秀吾さんの言葉にみんなでリュカを見つめると、リュカは恥ずかしそうにしながら、


「私は……あの、結婚式で着たドレスの下に、ベビードールを着ていたので忘れずにすみましたよ」


と教えてくれた。


「ああー、なるほど! そっか、そういう手があったんだ!! さすがリュカさん!!」


「いや、そんな恥ずかしい」


「リュカさん、すごいです……」


理央くんの目が尊敬モードになっている。でも本当にすごいな。やっぱりこういうところが夫夫になって長い証なんだろうな。

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