初夜の約束と幸せのアイテム
「日付は少し超えているが、まだ夜に変わりはないだろう? 初夜に日付は関係ないのだからな」
「そう、なんですか……?」
「ああ、だから、今からでも十分間に合うよ。さぁ、涙を拭いて、その大事なこととやらを私に教えてくれないか?」
エヴァンさんの親指がスッと僕の涙を拭う。涙でエヴァンさんの表情がぼんやりとしていたけれど、涙がなくなって今はクリアに見える。いきなり泣き出したりして、てっきり呆れられているかと思ったけれど、エヴァンさんの表情は優しいままだ。
「今日の夜は最高だな。ユヅルの嬉しそうな顔も、気持ちよさそうな顔も、そして泣き顔まで……いろんなユヅルを一度に見られた」
「――っ、エヴァンさん……すきっ!!」
僕の全てを包み込んでくれるようなエヴァンさんの言葉に嬉しくなって抱きつきたかったけれど、手を伸ばすのがやっとだ。
「ユヅル! ああ、私もユヅルの全てを愛しているよ」
僕の優しく労わりながらもギュッと抱きしめてくれる。その力が心地いい。
「ユヅル、涙は止まったか?」
「はい。僕、約束守りたいです。あの……僕を起こして、佳都さんからもらった箱を持ってきてもらえますか?」
「ああ。わかった」
エヴァンさんは僕の背中とヘッドボードの間にふかふかの枕やクッションを挟み、起き上がらせてくれた。裸のままの上半身が見えそうになって、慌てて布団を被っておいた。だって、今、裸見せちゃってたらあれのインパクトがなくなっちゃうもんね。
エヴァンさんは僕を起き上がらせると、寝室を一瞬見回した。そして、ベッドの横の棚に置かれていた箱を見つけ、立ち上がった。すぐ近くに用意されていたガウンを羽織りながらその箱に近づいていく。後ろ姿しか見えなかったけれど、相変わらずかっこいいお尻だな。お風呂の時も、愛し合っている最中もなかなかエヴァンさんのお尻を見る機会なんてないから、すごく新鮮だ。僕の柔らかいお尻とは全然違って、ほんとかっこいい。
「これだったかな?」
ガウンを羽織っても尚わかるエヴァンさんのかっこいい後ろ姿に見惚れていると、声をかけられてドキッとした。
「えっ、あっ、それです! ちゃんとパピーが寝室に運んでおいてくれたんですね」
「そうだな。ケイトに頼まれていたのかもしれないな」
エヴァンさんは僕に箱を手渡すと、僕のすぐ隣に座り
「中身はなんだろうな」
となぜか僕以上にウキウキした様子で、僕が箱を開けるのを楽しみにしているみたいだ。でも、ここでみせちゃ意味なしだよね。
「エヴァンさん、ちょっと後ろを向いててもらえますか? ちゃんと用意ができるまで内緒にしたいんです」
「そ、そうか……わかった」
エヴァンさんはさっと後ろに身体を動かして僕に背中を向けて座った。
「僕が良いって言うまでこっち見ちゃダメですよ」
「わ、わかった」
なぜかドキドキしている様子のエヴァンさんを可愛いなぁなんて思いながら、僕は箱を開けた。
「わぁ……っ」
あの時も思ったけど、やっぱりこれ可愛いな。
「ユヅル、大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そうか……」
僕に隠し事されて落ち着かないのかな。ほんと可愛い。
箱から取り出したベビードールをじっくりと見てみたけれど、ファスナーはなさそう。ということは上から被って着るのかな。裾から頭を入れて、繊細な素材を破らないようにゆっくりと腕を入れた。そして裾を下ろすと、サイズはぴったり! なんだかミニ丈の可愛いドレスって感じだな。
あれ? そういえば下着はないけど、これはこのままなのかな?
箱の中を探したけれどベビードール以外には見当たらない。一応裾で僕の小さなのは隠れて入るけれど、なんせ生地が薄いから心許ない感じはする。まぁ、でも部屋は薄暗いから、そんなにじっくり見えないかな。佳都さんも着ただけで綾城さんが喜んでたって言ってたし。うん、大丈夫だろう。
僕の身体を隠していた布団を全部剥ぎ取って、ベビードールだけ着た状態でもう準備万端だ。
「エヴァンさん、こっちみて良いですよ」
僕の声にさっとエヴァンさんが振り向き、僕の姿を見つめた瞬間、エヴァンさんの目が見開いた。
『*****!!! ************************!!!!』
「えっ? あの、今なんて――わぁっ!!!!」
『****!!! *************!!!』
エヴァンさんがとんでもなく興奮して、ものすごいフランス語喋ってる!! 何言っているかわからないけど、僕をギュッとだきしめながらもずっと僕のベビードールを見つめたり嬉しそうに撫でたりしている。よくわからないけど、喜んでくれているってことで良いんだよね?
――直己さんがすっごく盛り上がってくれたから……
佳都さんもそう言っていたし、多分この反応が正しいんだろう。
なんだかいつもと違いすぎるエヴァンさんに驚いちゃうけれど、興奮してくれるのは楽しくていいな。いつもは僕のほうが余裕がなさすぎて、エヴァンさんの表情をじっくりと見る暇がないから、こうやってエヴァンさんが興奮しているのを見られるのはとても新鮮だし嬉しい。
――なんかね、このベビードールからチラリと中が見えるのに興奮するんだって!
佳都さんがそう言っていたのを思い出す。みんなの前で箱から出して見てみた時は、あんなにクールそうな綾城さんがこのベビードールで興奮するなんて……と思っていたけれど、実際着て見せただけでエヴァンさんもあんなに興奮してくれたんだから、きっとこれにはすごい力があるに違いない。
『ぐぅ――っ!!! ユヅルっ!! **********!!!!』
僕の想像をはるかに超えるほど興奮してくれたエヴァンさんは、
『ユヅルっ、もう限界だ!』
苦しげにそう叫んだ。
* * *
「ああ、ユヅル! 私は幸せだよ」
「はい。僕もです……」
「身体は辛くないか?」
「大丈夫ですよ。エヴァンさんは興奮できました?」
「わかるだろう? 妖艶な衣装に身を包んだユヅルに見られながらするのは興奮しかなかったよ。またこれを着てくれるか? 次はこれを着たユヅルと愛し合いたい」
「はい。僕もそう思ってました」
「ユヅル……愛してるよ」
甘いキスをしてまた強く抱きしめられる。こんなにも興奮してくれるなんてすごくびっくりしたけれど、このベビードールは僕達にとって幸せのアイテムになりそう。後で佳都さんにお礼を言わなきゃだね。