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初夜の涙

「ここが、今日のお部屋?」


「ああ。気に入ったか?」


「はい。だって、お姫さまの部屋みたいですよ」


「ああ。そうだな。ユヅルは私の姫だから間違いないだろう?」


にこりと微笑むエヴァンさんにドキッとする。


「食事をさせてやりたいが、もう我慢できそうにないんだ。先にユヅルを食べさせてもらっていいかな?」


「ひゃぁっ!」


耳元で甘く囁かれるだけで身体の奥が疼いてしまう。確かにお腹は空いているけれど、このままこの疼きを我慢しながら食事なんて到底できそうにない。


「いいですよ……僕にも、エヴァンさんを食べさせて……」


「くっ――!!」


僕の言葉に我慢できなくなったらしいエヴァンさんが僕を寝室に連れていく。いつもは冷静で落ち着いているのに、僕の言葉でこんなに焦るなんて……これも僕しか知らないエヴァンさんなのかと思うと嬉しくなる。


ドレスを着たままベッドに下ろされて、サッとトレーンを外され、靴を脱がされる。


「あ、あの……っ、ドレスが……」


「いいんだ。このドレスを着たままのユヅルと愛し合いたいんだ。ドレスを作っている時から、この日が来るのを待っていたんだ」


「――っ!!」


エヴァンさんの目の奥にギラギラとした欲情の色が見える。全身で僕を欲しいと言っている目だ。


せっかくのドレスが汚れてしまうのが勿体無い気がするけれど、作ってくれたエヴァンさんの夢だというのなら、それを叶えてあげたい。だって、僕はずっとエヴァさんに夢を叶えてもらってきたのだから。


「エヴァン、さん……きてぇ…‥」


「――っ!!! ユヅルっ!!」


「んんっ!!」


エヴァンさんは僕の唇に噛み付くように重ね合わせると、そのまま僕を押し倒した。


  *   *   *


「う……んっ」


「ユヅル」


エヴァンさんの優しい声が聞こえる。でも身体が疲れすぎていて動くこともできない。それでも重い瞼を必死に開けると、心配そうに僕を見つめるエヴァンさんの顔が見えた。


「え、ゔぁ……こほっ、こほっ」


「ああ、ユヅル。無理しないでいい。ほら」


エヴァンさんはどこからともなく水の入ったグラスを手にして、自分の口にその水を含みそのまま僕の唇に重ね合わせてくる。ゆっくりゆっくり注ぎ込まれる水をゆっくり飲み干すと、身体中にじわじわと広がっていくのがわかる。何度か飲ませてもらってようやく喉に潤いを感じた。


「エヴァンさん、ありがとう」


「いや、私が無理させたからだ。あんまり可愛いからつい手加減できなかった」


その言葉が嬉しくてエヴァンさんに抱きつきたかったけれど、自分からは全然動けない。


「ユヅル、どうかしたか?」


「エヴァンさん、ぎゅーして」


僕の言葉の意味がわからなかったのか、一瞬戸惑っているようだったけれどもう一度


「ぎゅってして……」


とお願いすると、すぐにエヴァンさんの腕の中に深く包み込まれた。


「エヴァンさんの匂いがする……香水をつけてるエヴァンさんも好きだけど、僕しか知らないこの匂いが好き」


「そうか、それは嬉しいな。ユヅルの甘い香りも私しか知らないだろう?」


「えっ……僕って、甘いの?」


「ああ、隣にいるだけでいつでも食べたくなるよ」


「エヴァンさんったら……」


エヴァンさんの胸元に顔をすり寄せるとさらに濃いエヴァンさんの匂いに包まれる。


「あれっ?」


そういえば、僕……いつの間に?


「どうした?」


「僕、いつの間にあのドレスを脱いだんだろうって……」


――このドレスを着たままのユヅルと愛し合いたいんだ


そう言われてそのまま愛し合ったはずなのに、今は僕もエヴァンさんも何も着ていない。それで抱き合っているから、エヴァンさんのあの大好きな匂いを感じられるんだ。


「ああ、私が風呂に入れるときに脱がしたんだよ」


「そう、だったんだ……。全然知らなかった」


「それくらい私が無理をさせてしまったということだよ」


「そんなことないです。僕……嬉しかったですよ。初めてエヴァンさんとあのお屋敷で愛し合った日みたいで……」


緊張していた僕を優しく受け止めてくれて、初めて身も心も繋がったあの日。意識を失った僕が目を覚まして一番最初に見たのは、今日と同じエヴァンさんの優しい瞳だった。


『ユヅル……Je t’aime pl(何よりもユヅ)us que to(ルを愛してる)ut.』


「エヴァンさんのその言葉……大好き。僕が昨日エヴァンさんに言った言葉……ちゃんと聞き取れましたか?」


「ああ。もちろんだとも。少し辿々しくてユヅルが初めて言ってくれた日のことを思い出した。ユヅル……もう一度言ってくれるか?」


「はい」


そういうと、僕はエヴァンさんを見つめながら、


Tu es ] l’(僕の人生)amour d(で何よりも)e ma vi(大切な人)e .』


と一言一言感情を込めて伝えると、エヴァンさんは嬉しそうに僕を抱きしめた。


そんな僕の頭の中にふとあの日のことが甦ってきた。あのクリスマスパーティーの日の佳都さんからもらったクリスマスプレゼント。


――結婚式を迎えた夜は初夜って言って、大事な夜なんだって。だから、その日はこれだけ着てベッドに入るんだよ。


そう言ってた。

しかも、


――結婚式が終わって、ホテルの部屋に入ってから着替えて見せるんだよ。それが初夜の醍醐味なんだって!


そう言われてたのに……。


僕、すっかり忘れて……初夜が終わっちゃった……。ああ、どうしよう……。エヴァンさんがすごく喜んでくれるはずだったのに。せっかく佳都さんからもらって、みんなで約束していたのに……。僕だけ忘れちゃうなんて……。僕……何やってるんだろう……。そう考えたら急に悲しくなってきた。


「うぅ……っ、ぐすっ……」


「ど、どうしたんだ? なぜ泣いているんだ? 私のことは気にしなくていいんだぞ」


エヴァンさんが焦ったように僕を抱きしめてくれる。だから、僕は必死に涙を抑えながら言ったんだ。


「ぼ、く……けいと、さんたちとの……や、くそく……わ、すれてて……」


「ケイトたちとの約束?」


「しょ、やに……だい、じなこと……わ、すれてて……ぐすっ……でも、もぅ……しょ、や、おわ、っちゃった……」


エヴァンさんは一瞬驚いた様子だったけれど、さらに僕を抱きしめた。


「大丈夫だよ。ユヅル。まだ初夜は終わってない。今はまだ夜なんだから……」


「えっ?」


驚いた僕が顔を上げると、エヴァンさんは時計を見せてくれた。


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