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両親と一緒に

抱きかかえられたまま、庭から室内に戻る。人ひとり抱っこしているとは思えないような軽い足取りでスタスタと歩いて行く。こんなに広いお城なのに、全ての部屋を把握しているのがすごい。


「ここって、全部でどれくらいのお部屋があるんですか?」


「ホテル棟になっているところを除けば、百くらいか。小さな部屋も入れればもっとあるかもしれないな」


「ええっ! じゃあ、全部見て回るなんて無理ですね」


「そうだな。だが、ユヅルはこれからいつでも来られるんだから好きな時に全部見てまわればいい。今日の撮影場所以外にもユヅルに見せたいところはたくさんあるからな」


「わぁー、ここに遊びに来る楽しみが増えましたね」


「ああ、そうだな」


嬉しそうなエヴァンさんの足取りがさらに軽くなった気がする。エヴァンさん、かわいいな。



「えっ……こ、こが……ギャラリー?」


高さのある大きなトンネルのような、ゆったりとしたアーチ状の天井をしている部屋の壁には所狭しと美しい絵画や装飾品が飾られていて、ここだけ何だか別世界みたいだ。太陽の光が入っているようには思えないのに、部屋全体がキラキラと輝いているのはどうしてだろう?


「ここはいつ来ても輝いているな。ユヅルもそう思うだろう?」


「はい。なんでこんなに?」


「部屋全体に金が張ってあるんだ。日本にもあるんだろう? 金が張られた茶室が」


「そういえば教科書に……」


でも、このギャラリーはとんでもない広さだ。その全てに金が覆われているなんて……凄すぎる。


「ああ、ユヅルのクラウンティアラも一緒に輝いているな」


「えっ? 本当? 見えないーっ」


頭上にあるから見えなくても仕方ないんだけど……。そう思っていると、さっとクララさんが僕の目の前に大きな鏡を持ってきてくれる。


「ありがとう、クララさん」


すごいっ、さすがだな。


「わっ! 綺麗っ!」


鏡の中には黄金の輝きを受けて、キラキラと輝きを増したクラウンティアラが映っていた。


「ああ、本当に綺麗だよ。ユヅル」


「えっ、僕じゃなくてティアラが……」


「何言っているんだ。この部屋の輝きも、クラウンティアラの輝きも、ユヅルの美しさとは比べ物にならないよ。それくらいユヅルは輝きを放っているんだ。ああ、私の美しい姫……ここでもう一度、私とダンスをしてくれないか?」


「ここで踊ってもいいの?」


「ああ、もちろん。なんの問題もないよ」


さっきの舞踏の間ほどの広さはないけれど、普通にクルクル回れるくらいのゆとりはある。エヴァンさんは嬉しそうに僕を腕からおろし、トレーンを外した。


「この短いドレスも気に入っているんだ。庭ではトレーンをつけていたからな。今度はまた外して撮ってみたい」


エヴァンさんがそういうと、どこからともなくゆったりとした音楽が流れてきた。これ、なんの曲だろう……。


「ユヅル。大丈夫。私にくっついていればいい」


戸惑う僕をエヴァンさんは、僕の腰に手を回しギュッと抱きしめた。


そしてそのままゆったりとした曲に合わせて身体を揺れ動かす。わぁ、何だかドキドキする。


「緊張しているのか? 鼓動がずいぶん早いな」


ピッタリと寄り添っているから、僕の心臓の音が聞こえてしまったみたいだ。


「だって、エヴァンさんがかっこいいから……」


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


「エヴァンさんもドキドキしてる?」


「ああ、もちろんだとも。このままキスしても?」


「聞かないで……」


「そうだな」


エヴァンさんの優しくて柔らかな唇が近づいて、ゆっくりと重ねられた。美しい輝きの中でゆらゆらと揺れ動きながら、僕たちはしばらくキスを続けていた。


ゆっくりと唇が離されてから、ここに自分たち二人だけじゃなかったことに気づいたけれど、恥ずかしさよりも幸せが勝ちすぎて嬉しさしかなかった。


「そろそろ支度部屋に戻ろうか。少し休憩したら次は教会で結婚式だぞ」


ああ、そうだ。まだ結婚式があるんだった。撮影だけで幸せになりすぎてしまっていた。


「理央くんや空良くんももう撮影終わったんですか?」


「ああ、ちょうど同じくらいに終わったみたいだ。あとでゆっくり話をしてみるといい」


「はい。ああ、二人のドレスも楽しみだな」


僕はウキウキとした気持ちでエヴァンさんと共に支度部屋に戻った。


『ユヅルさま。お疲れになったでしょう。紅茶をどうぞ。お菓子もお召し上がりください』


『パピー。ありがとう』


部屋の前で待っていてくれたパピーと一緒に中に入ると、すぐにいつもの紅茶を淹れてくれた。やっぱりパピーの紅茶は香りを嗅ぐだけでホッとする。


テーブルに置かれた可愛いマカロンも気になる。けど、汚しそうで怖い。


「ユヅル、私が食べさせてあげよう」


すぐにエヴァンさんがマカロンのをとって口の中に入れてくれる。欠片が落ちたら嫌だなと思って、僕の口には少し大きなマカロンをパクリと入れると、


「ユヅルの口には大きすぎたな」


と笑いながら、紅茶を飲ませてくれる。


程よく冷ましてくれた紅茶は飲みやすくていい。


「紅茶もマカロンも美味しい!」


「それはよかった」


パピーはそんな僕たちの様子を笑顔で見つめてくれている。そういえば、僕のドレス姿はどうだろう?


『パピー、僕……可愛い?』


『ええ。お美しいですよ。アマネさまにそっくりでいらっしゃって……ニコラさまにそっくりな旦那さまを拝見しておりますと、まるでお二人の結婚式を拝見できたようで嬉しく思います』


「ユヅル、ジュールは私たちがニコラとアマネにそっくりだから二人の結婚式を見たようだと言っているぞ」


そうか。もし、お父さんが無事に母さんを迎えにいけていたら……きっと、ここで結婚式を挙げていたのかも。ここにきてずっと感じていた不思議な感覚は、もしかしたらお父さんと母さんだったのかも知れないな。


今日は僕たちの結婚式でもあり、お父さんと母さんの結婚式なんだ。そう思った方がなんだか幸せも二倍に感じられるな。


『パピー、僕も嬉しいよ』


『ユヅルさま……』


パピーの目が少し潤んでいる気がする。そんな姿見てると僕も泣きそうになっちゃうな。でももうすぐ結婚式だし、我慢しなくちゃ!


「エヴァンさん、パピーは理央くんや空良くんの部屋にもいったのかな?」


僕が尋ねるとすぐにエヴァンさんが滑らかなフランス語で聞いてくれる。やっぱりエヴァンさんのフランス語、好きだなぁ。


パピーとしばらく話をしてから僕の方を向いてくれた。


「今は部屋で休んでいるそうだ。ユヅルと同じように紅茶とマカロンを食べて喜んでいたみたいだぞ」


「わぁ、そっか。パピーはもうみんなのドレスを見たんだね! いいなぁ。『パピー、理央くんと空良くんのドレスはどうだった?』」


『お二方とも、それぞれにお似合いでしたよ』


にこやかなパピーの表情に二人がすごく可愛かったんだろうなとわかる。僕も早く会いたいな。



部屋の扉が叩かれ、パピーがさっと部屋から出ていき外の人と何やら話をしている。そして、戻ってくると今度はエヴァンさんと話を始めた。


「ユヅル、ケイトたちの準備が整ったようだ。そろそろ礼拝堂に行こうか」


「わぁ! ドキドキする!」


「ああ、私もだよ」


エヴァンさんが緊張するなんて……それくらい僕との結婚式を楽しみにしてくれていると思っていいのかな。

ああ、僕……幸せだ。



エヴァンさんに抱き上げられて、礼拝堂へ向かう。


僕たちのいた棟の一番奥まで進んでいくと、ものすごく神聖な雰囲気を纏った空間が現れた。ここが礼拝堂……。教会とはまた違う場所なのかな。


そう思って、エヴァンさんに尋ねると、どちらも祈りを捧げる場所だから基本的にはあまり変わりはないんだって。でもここみたいにお城の中にあるこういうスペースは礼拝堂っていうんだって教えてもらってなるほどなって思った。確かに教会はそれだけで建ってるもんね。その礼拝堂に着くと、理央くんと空良くんも僕と同じく抱っこされているのが見えた。


「わぁ! 理央くん! 空良くん! 可愛いっ!!」


「あっ! 弓弦くん! 弓弦くんも可愛い!」


「うん、ほんと可愛い!!」


なんか、僕たち『可愛い』しか言葉を知らないみたい。でも、それしか出てこないくらいとっても可愛いんだから仕方ない。


「あれ? 理央くんの履いてる靴……とってもキラキラして素敵! まるでガラスの靴みたい!」


「そうなんだ! 凌也さんが僕をシンデレラにしてくれたんだよ」


「本当だ! ドレスも、それにティアラもシンデレラと同じだ!!! すごーいっ!!」


理央くんが子どもの時からずっと大好きで読んでいたという絵本の話を聞いたことがある。観月さんはそれを知っていたから、そのお姫さまと同じにしてあげたんだろうな……。やっぱり観月さんは理央くんの王子さまなんだね。

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