涙の贈り物
この後ミシェルさんと空良くんからも可愛くて素敵なプレゼントが続き、残るは理央くんと佳都さんだけとなった。
「僕、最後に渡すから理央くん、先に渡していいよ」
佳都さんが笑顔でそういうと、さっきまでニコニコだった理央くんがちょっと不安げな顔になった。
「んっ? どうしたの、理央くん」
「あ、あの……っ、喜んでもらえるか心配で……」
「何言ってるの! 理央くんが僕たちのことを思って選んでくれたものでしょう? 喜ばないわけがないよ」
「あの、でも……」
僕もわかる。一生懸命選びながらも、プレゼントを渡してみんなの笑顔を見るまでは不安でたまらなかったもん、理央くんは今まで誰にも贈り物をあげるということすらしたことがなかったんだから、不安でたまらないよね。
理央くんはみんなからの贈り物をもらってるからさらに心配になっちゃったんだろうけど、僕は理央くんが選んでくれたものならなんでも嬉しいけどな。もう一度、大丈夫だよと安心させようと声をかけようとしたら、スッと観月さんが理央くんのそばに来た。
「凌也さん……僕……」
「理央、大丈夫だって言ったろう? 俺は理央からアレをもらえて嬉しかったぞ、忘れたか?」
「あ――っ!」
「心配しないで渡してごらん」
凌也さんの言葉にようやく安心したらしい。やっぱり恋人の力って偉大だな。僕もエヴァンさんが大丈夫だって言ってくれるだけで安心するもんな。
それでも理央くんは少し震える手で箱からプレゼントを取り出し、僕たちに手渡してくれた。その包み紙はどれも同じ大きさで同じように包まれていたから、きっと同じところで買ったんだろうなと思っていた。
みんなでお揃いってことかな? 楽しそう!
「わぁー、なんだろう?」
「楽しみだね」
「プレゼント開けるのって毎回ドキドキする!」
隣にいた空良くんや佳都さんとおしゃべりしながら包みを開けていくと
「わぁっ!! 素敵っ!!」
柔らかくて暖かそうな綺麗なグリーンの手袋が出てきた。
隣を見ると、空良くんは濃いブルー。佳都さんはクリーム色かな。
「みんな、色違いでお揃いの手袋なんだね! 可愛いっ!」
「えっと、あの……」
僕たちの反応を見てもなぜか、不安そうな理央くんを不思議に思っていると、
「理央くん! これ、手編みでしょ?」
と秀吾さんが声をかけた。
「えっ? 手編み?」
「うそっ、手編み?」
これが手編み? ものすごく綺麗なんだけど……。
「あの、実は……そうなんです。プレゼント、凌也さんに付き合ってもらって買いに行ったんですけど……いっぱいありすぎて選べなくて……どうしていいか、わからなくなってたら……っ」
理央くんは隣にいる観月さんを見上げた。観月さんは理央くんに優しく微笑み頭を優しく撫でてから、視線を僕たちに向けた。
「理央は最初から選べないかもしれないって言ってたんだ。でも物を見たら何か考えつくかもしれないと思ってね。でも理央にはそれが難しかったみたいで、無理して選ばなくていいよって私が言ったんだ。それで、どんなものを贈りたいかって話をしているうちに、理央が何が得意かって話になったんだ。そうしたら、編み物が得意だと教えてくれてね、小さくなったセーターやマフラーを捨てるのが勿体無くて解いて綺麗に洗ってから、また編んで違うものに作り替えてたんだそうだよ。だから、一緒に毛糸を選びに行って、理央が色を選んだんだ」
「みんなからのプレゼント見てたら手作りがなんだか申し訳ない気がして……っ」
理央くんがどんどん俯いていく。こんな素敵なプレゼントをくれたのに!
「理央くん! 僕、すごく気に入ったよ!! びっくりするくらい綺麗な色で僕、早くこれつけて外に行きたくなっちゃった」
「弓弦、くん……」
「僕もだよ! これが手編みだなんて信じられないくらい!! 理央くんってすっごく器用なんだね!! 柔らかくてすごくあったかい!!」
空良くんは両手に理央くんの手袋をつけて、嬉しそうにほっぺたに当ててる。
「リオ! こんな繊細なものを作れる人がいるなんて!! 驚きですよ! それにこれ、私の好きな色なんですよ!! 世界にひとつの私の手袋!! もう宝物です!!」
「うん、僕もこの色好き!!本当に上手でびっくりしちゃったよ! 日本人って手先が器用だっていうけど、リオはすごいね!!」
リュカもミシェルさんもすごく興奮してる。僕だって信じられないよ、手袋って手作りできるんだ……。この指のところとかどうやって作るんだろう……不思議。
「理央くん、本当に素敵なプレゼントだよ!! 心配することなんて全然ないのに!!」
「みんな……っ、ありが、とう……」
理央くんはみんなの反応が相当嬉しかったのか、涙を流して喜んでいた。
でも、本当……こんなにいっぱい手作りするの大変だったろうな。あったかくてふわふわでこんな素敵な手袋見たことない!! 僕もエヴァンさんに世界にひとつだけの手袋、作ってプレゼントしたいけど……難しそうだな……。
「最後は僕のプレゼントだよ!」
佳都さんが嬉しそうな声を上げた。
クリスマスパーティーでプレゼント交換会をしようって提案してくれたのが佳都さんだったから、佳都さんからのプレゼントが実は楽しみだったんだ。
一体どんなものなんだろう……。なんかすごくワクワクする。
「あっ、直己さん! 僕からのプレゼントは僕たちだけでみたいから、しばらくみんなであっちに行っててください」
「わかった。ロレーヌ、観月たちもあっちでワインでも飲んで待っていよう」
綾城さんの声かけにエヴァンさんたちはおとなしく移動した。
佳都さんはエヴァンさんたちは離れた場所に座って、ワインを楽しみ始めたのを確認して、僕たち一人ひとりにプレゼントを渡し始めた。
「これ、弓弦くん。こっちは理央くん、そして空良くん……」
佳都さんが次々に手渡していくその箱はどれも同じ大きさで同じもの。
これもきっとお揃いなのかな。なんか楽しくなってくる。
「じゃあ、みんな開けてみて」
佳都さんの声にみんなで最後のプレゼントを噛み締めるようにゆっくりと開けていく。
可愛い箱を開けてみると
「わっ! 何、これっ! すっごく綺麗っ!!」
中にはものすごく繊細で綺麗な布が入っていた。いや、本当は布ではないけどもう本当に布と言っていいくらいの柔らかくて薄い綺麗な布。
そっと持ち上げてみると、どうやら洋服っぽい。これはいつ、どんな時に着るんだろう?
そう不思議に思ってしまうほど、柔らかくて薄くて軽い。
僕がそれをそっと身体に当ててみると、エヴァンさんたちがいる方向から騒めきを感じた。
「んっ?」
不思議に思って、振り返ったけれど、特にこっちをみている様子はない。なんだ、勘違いだったのかな?
「あの、佳都さん、これ……どういうものなんですか?」
僕が不思議に思ったのと同じように理央くんも感じたんだろう。不思議そうにそれを眺めながら、佳都さんに尋ねると、佳都さんは嬉しそうに笑って教えてくれた。
「これはね、ベビードールっていうんだって」
「ベビー、ドール?」
「そう。理央くんと弓弦くんと空良くんは明日結婚式でしょ? そのままその日はホテルにお泊まりなんだよね?」
「はい。そうです」
僕と理央くんと空良くんは並んで、佳都さんの話の続きを待っていた。
「結婚式を迎えた夜は初夜って言って、大事な夜なんだって。だから、その日はこれだけ着てベッドに入るんだよ」
「初夜……」
「大事な夜……」
「これだけ、着て……」
なるほど! そんな風習があるんだ!! さすが、結婚式の先輩だな!
「そう! 僕も七海ちゃん……あっ、直己さんの妹だけど、その子から結婚式の前に教えてもらって、ベビードールをプレゼントされたんだ。それで、直己さんがすっごく盛り上がってくれたからクリスマスプレゼントはこれしかないってすぐに決まったんだよ!」
得意げな様子で話を聞かせてくれる佳都さんがなんだか可愛い。それにしても綾城さんが盛り上がるってどういうことだろう? 可愛くて気に入ったってことかな?
「あの、佳都くん……僕たちも?」
なんだか少し赤い顔で僕たちの近くにやってきた秀吾さんは同じように綺麗な布を持っているけど、綺麗な水色だ。
「もちろん! 秀吾さんたちも一緒に結婚式に参加するから、色違いにしたんだ! 花嫁さんたちはもちろん白! 秀吾さんは水色で、ミシェルさんは赤、リュカさんは黒で、僕はピンク! どう? 可愛いでしょう?」
「ケイトっ! すっごく可愛いよ!! さすが日本人は選ぶものが違うよね!! これ、セルジュがすごく好きそうだよ!!」
「わぁー、よかった。ミシェルさんが気に入ってくれて! リュカさんの黒も似合うと思うんだよね! どうですか?」
そう話をふると、リュカは秀吾さん以上に赤い顔で
「びっくりしましたけど、すごく素敵です!」
と返していた。
「きっとジョルジュさんも喜びますよ」
佳都さんの言葉にリュカはさらに顔を赤らめていた。こんなリュカを見るのは初めてだな。
「僕、これエヴァンさんに見せてきますね!」
「あっ、待って! 弓弦くん、これは明日まで秘密。結婚式が終わって、ホテルの部屋に入ってから着替えて見せるんだよ」
「秘密、ですか……?」
「そう! それが初夜の醍醐味なんだって! 直己さんもすっごく喜んでたからきっとエヴァンさんも喜んでくれるよ」
「そうなんですね! わかりました!」
僕がそういうと、理央くんと空良くんも同じように頷いて、嬉しそうにベビードールを抱きしめていた。
結婚式で僕たちを喜ばせてくれるんだから、結婚式の後は喜ばせてあげたいもんね。
これを着ただけで喜んでくれるなんて不思議な感じだけど、綾城さんが喜んでくれたなら間違いなさそうだし。楽しみになってきた。