表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/75

幸せになれる贈り物

「シュウゴ、素晴らしい贈り物だね! 僕もニコラの演奏を聴くことができて嬉しいよ。しかも、ユヅルのママも一緒だなんて! ユヅルっ、ユヅルのママも素晴らしい演奏家だったんだね!」


ミシェルさんとセルジュさんが興奮した様子で近づいてきた。


そういえば、ミシェルさんがこの家に来た時にはお父さんはもう亡くなってたって言ってたもんね。

ロレーヌ家のことだから他にも映像はあるんだろうけど、母さんと一緒に演奏しているのが残っているのはきっとこれだけ。それを秀吾さんのお母さんが持っていてくれたなんて……なんていう偶然……いや、運命なんだろう……。


「シュウゴの贈り物のおかげで、ほら、見てごらん。ジュールが涙を流して喜んでいるよ」


パピーに視線を向けるとスクリーンに目を向けたまま、ハンカチで涙を拭っている様子が見える。


すると、秀吾さんは急いでパピーの元に駆けて行って何やら話をし始めた。

少し遠くにいるから何を話しているかまでは聞き取れないけれど、パピーは本当に嬉しそうで僕もまた涙が滲んできた。


「ユヅル」


「あ、ありがとう。エヴァンさん」


出されたハンカチで涙を拭いながら、


「パピーがすごく嬉しそうで……」


というと、僕を優しく抱きしめてくれた。


「ああ、そうだな。ここにいる者の中でニコラとアマネが過ごした日々を一番長く知っているのはジュールだけだからな。その時の二人の思い出が甦ったのだろう。本当にシュウゴは素晴らしい贈り物をしてくれた」


「みんなが幸せになれる贈り物って、素敵ですね」


「ああ、そうだな。贈り物というのは値段が高ければいいというものではない。相手のことを思い浮かべて、相手が喜ぶ姿を想像する。そこからもう贈り物が始まってるんだ。きっと、ユヅルからの贈り物もみんな喜んでくれると思うぞ。ユヅルが一生懸命みんなのために選んでいたからな」


「――っ、エヴァンさん……はい、そうですね! 僕、みんなにプレゼントを渡してきます!!」


「ああ、行っておいで」


エヴァンさんは、僕がみんなへのプレゼントを渡すのに躊躇していたことを気づいていたんだ。


やっぱりエヴァンさんにはなんの隠し事もできないな。それくらい僕のことを見てくれているというだけで、心の中がすごく暖かくなって嬉しくなる。


「みんな、今度は僕からのプレゼントを渡すよ!」


僕が声を上げると、みんなが集まってくれる。


「わぁー! 楽しみ!」


「これは理央くんと空良くん。色違いでお揃いにしたんだ」


「空良くんとお揃い? 嬉しいっ!!」


「僕も嬉しいっ!」


理央くんと空良くんは向かい合わせになって、ゆっくり包装紙を開けていく。気に入ってくれるかな。


「これは佳都さん、こっちは秀吾さんの」


「ありがとう! なんだろう、なんかドキドキする」


やっぱり嬉しそうに包装紙を開けてくれるのを見るのって、こっちまで嬉しくなるなぁ。


「ミシェルさんのはこれだよ」


「あっ、これ。セルジュがいつもプレゼントしてくれるお店のだ!」


「そうなんです! 僕もこの馬車のマークがミシェルさんのだ! って思ってそこで選んじゃいました。持ってなかったらいいんですけど……」


「うわー、なんだろう。楽しみだな」


きっとミシェルさんは持ってないはずって、エヴァンさんが言ってくれたから大丈夫だとは思うけど、でもやっぱりドキドキしちゃうな。


「あと、これはリュカの。あの、僕が一番お世話になってるのがリュカで……リュカのおかげでパピーとも少しずつ話せるようになったし……本当にリュカがいてくれてよかった。いつもありがとう」


「ユヅルさま……」


「『さま』は無しでって言ったよ。僕たち、お友達だよね?」


「ユヅル……ええ、そうですね。私にとって大切な友人です」


「リュカ……好きっ!」


「ええ、私も、好きですよ」


ギュッと抱きしめられた感覚がエヴァンさんのものとは全然違っていたけれど、でも、すごく安心したのはいつも見守られているような感じがしたからかな。


「わっ!!」


そんなことを思っていると、突然リュカから離されて温かいものに抱きしめられた。そのしっくりくる感覚にそれがすぐにエヴァンさんだと気づいた。


「え、エヴァンさん……びっくりした……どうしたんですか?」


「リュカに愛を囁いていただろう? しかも私の目の前で抱き合うなどもってのほかだな」


「えっ、愛を囁くって……いつものお礼を伝えただけで……」


「でも、好きと言っていただろう?」


あ、それは確かに言ってたけど……でもその好きはエヴァンさんに向ける好きとは全然違うんだけど……。


「あの、違いますよ。その好きは、好きじゃなくて……えっと……」


なんだか訳がわからなくなってきた。でもとにかく言いたいことは一つだけ。


「好きなものはいっぱいあっても、僕がこの世で大好きなのはエヴァンさんだけですから!」


大声で叫ぶと、大広間中がしんと静まり返った。一気に顔が赤くなる僕とは対照的にエヴァンさんは嬉しそうに僕にキスをした。


「ユヅルの言葉、嬉しいよ」


「エヴァンさん……」


「だが、他の者へのハグは禁止だからな」


エヴァンさんの独占欲。少しびっくりすることもあるけれど、それでも嬉しいと思ってしまう。こんなにも大人なエヴァンさんが、僕の行動だけで焦ったり不安そうになったりするのがたまらなく嬉しいんだ。ああ、僕は本当に幸せだ。


「ユヅル、大胆な愛の告白だったね」


ミシェルさんがセルジュさんと共に笑顔で近づいてきた。


「やっ、もう恥ずかしいですっ」


「ごめん、ごめん」


「なんだ、お前たちわざわざ揶揄いにきたのか?」


「いえ、違いますよ。ユヅルさまからミシェルへの贈り物ですが……」


あれ……気に入ってもらえなかったのかな?

もしかしてやっぱりもう持ってたり?

少し不安になってしまう。


そんな僕とは対照的にエヴァンさんは何故か嬉しそうに笑っていた。


「ああ、やっぱり気づいたか?」


「んっ? エヴァンさん、気づいたってどういうこと?」


僕がミシェルさんへの贈り物に選んだ物はスカーフ。栗色の髪をした天使がヴィオリンを弾いている可愛い柄が入っていた。あの天使がとっても可愛くて、ミシェルさんにはこれがピッタリだって思ったんだ。


「あのスカーフをユヅルが見つけた時、どうもあの柄が気になってスカーフの柄を手がけたデザイナーに直接連絡をとったんだ。そうしたら、あのスカーフのうち、一枚だけ天使の顔をミシェルをイメージして描いたと教えてくれたんだ」


「えっ……!」


「ほんのいたずら心だったようで、しかもそっくりに描いたわけではなく雰囲気を似せて描いただけだから誰にも気づかれなかったと話していたが、まさかそのスカーフがロレーヌ家にあるなんてと本人も驚いていたよ」


「それって、僕がプレゼントしたものだけ、あの天使がミシェルさんだったってことですか?」


「ああ、そうだ。だから、ユヅルがあれを選んだことを、純粋にすごいと思ったよ」


あのヴァイオリンを弾いている天使がミシェルさんに似ているなとは思っていたけれど、まさか本当にミシェルさんをイメージしてたものだったなんて……。すごい! こんな偶然あるんだな……。


「ねぇ、セルジュ。ということは、このスカーフの天使は僕ってこと?」


手に持っていたスカーフを広げながらセルジュさんに尋ねるミシェルさん。

うん、やっぱりこの天使……ミシェルさんに似ていて癒されるな。


「ああ、そういうことだ。よかった……」


「よかった?」


「ああ、だって、スカーフの柄とはいえ、ミシェルが誰かの手元にいるなんて嫌に決まっているだろう?」


「セルジュ……」


「ユヅルさまが見つけてくださったおかげで、私たちの元に天使のミシェルがやってきてくれたんです。本当に素敵な贈り物をありがとうございます」


「そんなに喜んでもらえてとっても嬉しいです」


あの時、偶然見かけたお店だけど、ミシェルさんだけでなくセルジュさんまで喜んでくれる贈り物ができてよかったな。


「弓弦くん! このブックカバー、とっても綺麗!!」


「こんな綺麗な色初めて見た!! 本当にありがとう!」


理央くんと空良くんがほっぺたを真っ赤にして駆けてきてくれる。


「よかったー! 気に入ってもらえるか心配してたんだ!」


「気にいるよ! これに本を入れたらどんな本でも自分だけの本だって気がして特別なものに思えそう!」


自分だけの……特別……。ああ、そうかも。そう思えるのって素敵だな。


「弓弦くん、このバッグすごく使いやすそうだよ!」


「本当、これすっごく重宝しそう!」


「わぁ! よかったです」


「僕、本当にこういうバッグを探していたから、希望通りのバッグが出てきて……弓弦くんが魔法使いかもって思っちゃったよ」


「うん、うん。わかる!」


魔法使いって……秀吾さん、意外と可愛いこと言うんだな。

秀吾さんも、佳都さんもそんなに喜んでくれると一生懸命選んだ甲斐があったなって思える。

プレゼントって相手のことを考えながら買う時も楽しかったけど、やっぱり嬉しそうな顔を見るのが一番楽しい。


「ユヅル……これ……」


「あっ、リュカ。どう? 使えそう?」


リュカのはクリスマスマーケットで偶然見つけた可愛いコーヒーカップ。

エヴァンさんが2つで1つの絵になるカップだって教えてくれて、ジョルジュさんとお揃いで選んだんだ。


「……」


「リュカ? どうかした?」


ずっとカップを見たまま、動かなくなったリュカが気になって声をかけるとジョルジュさんがさっと横から現れて教えてくれた。


「このカップ、リュカを育ててくれていたおばあさんが大切に使っていたカップと同じものなんだ」


「えっ……」


「リュカがユヅルくんくらいの年におばあさんに贈ったものでね、それはそれは大切にしてくれたらしい。それと同じものを久しぶりに見て嬉しかったみたいだよ。しかも、私とお揃いなんてな。本当にいい贈り物だよ、ありがとう」


ジョルジュさんが嬉しそうに笑ってくれる。リュカも少し涙を潤ませながら笑ってくれる。

そんな二人を見て僕も自然と笑顔になってくる。


贈り物って本当……人を幸せにしてくれるんだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ