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メッセージカード

「うふふーっ。りおくん、ちゅーしないと!」


突然空良くんの可愛らしい声で、ちゅーしないと! なんて呼びかけられて、一気に理央くんの顔が赤く染まっていく。


「えっ? 空良くん、今なんて?」


僕は驚いて空良くんに尋ねると、空良くんもまた真っ赤な顔で楽しそうに続ける。


「だってりおくん、いま、うれしいでしょー? うれしいときはちゅーするんだよね? だって、ここふらんすだもん。うふふーっ」


あっ、空良くん。


――嬉しいときは愛しい恋人や伴侶とキスをする。これがフランス式なんだ。君たちも嬉しいときは人目を気にしないでキスしたりハグしたりしてくれて構わないよ。


ってエヴァンさんが言ってたこと、言ってるんだ!


「ちゅーだよ、ちゅー!」


楽しそうに囃し立てる空良くんにさっと悠木さんが駆け寄って抱きかかえたと思ったら、空良くんの顔を見てハッとした。


「空良! もしかして、お前酔ってるな? 静かだったからてっきり食べてないのかと思ったが……悪い。観月、空良もそれ食べて少し酔ってるみたいだ」


「ああ、そうか。そういうことか……」


どうやら、空良くんもベラベッカで酔ってしまっていたらしい。ミシェルさんが食べすぎちゃいけないとは言っていたけどふんわりとブランデーの香りはしてすごく美味しかったけどな。


「ユヅル、お前は大丈夫か? ユヅルも食べたのだろう?」


「はい。でも、大丈夫です」


「そうか。まぁニコラがアルコールには強かったからな、菓子くらいなら酔わないだろう」


「そうなんですか? お父さん、強かったんですね」


「ああ。我がロレーヌ家の男は皆そうだ。私もセルジュもどれだけ飲んでも酔いはしないな」


「すごいっ!! でも、僕もそうかもしれないんですよね? ああ、二十歳になるのが楽しみだな」


そんな話をしながら、ふと理央くんに目をやると


「わっ!!」


理央くんが観月さんにキスしてる!


観月さんは何が起こったのかと茫然としているみたい。


「――っ、理央。無理しなくて良かったんだぞ」


「むり、じゃないです。だって、うれしいから……」


「くっ――! ああ、もう理央は本当に可愛すぎるな」


観月さんは理央くんを抱きかかえたまま、スッと立ち上がり部屋の奥にあるソファーに腰を下ろし、顔を近づけて何やら話をしている、ように見える。


「エヴァンさん、理央くんたち何してるんだろう?」


「まぁ、いいじゃないか。あっちは少し二人にさせてやろう。それよりもプレゼントを見てみるか?」


「わぁー! プレゼント、どれがそうですか?」


「どれって……あのツリーの下にあるのものは全部そうだ」


「えっ? 全部?」


「ああ。全部だ。何かおかしかったか?」


「えっ、だって……あんなにたくさん……てっきり半分は飾りなのかと……」


「ははっ。クリスマスプレゼントはいい子であればあるほどたくさんもらえるんだ。こんなにいい子が揃ってるんだから、これでも少ない方だぞ。もっと多くてもいいくらいだ」


そうなんだ……。これが普通なんだ……。知らなかったな。


『わかりやすいように、ユヅルさまのプレゼントは犬、ケイトさまはウサギ、リオさまはヒツジ、ソラさまは黒猫、シュウゴさまはコアラ、ミシェルさまは白猫、そしてリュカさまはリスのシールを貼っております』


パピーがそういうと、綾城さんや悠木さん、そしてソファーに座っている観月さんがそのことを教えてあげていた。


「ユヅル、行っておいで」


「わぁー! ありがとう!! 空良くんも行こう!!」


「うん!」


「空良はまだ酔いが醒めてないだろう? 危ないから一緒に行こう」


さっと抱き上げてツリーに行こうとする悠木さんを見て、


「私も一緒に行こう」


とエヴァンさんも僕を抱き上げてくれた。


一人で行かそうとしてくれたのはエヴァンさんの優しさ。

そして、一瞬空良くんをいいなと思ってしまった僕の気持ちをすぐわかってくれたのもエヴァンさんの優しさ。

そのどっちの気持ちも嬉しくて、僕はエヴァンさんの首に手を回してほっぺたにキスをした。


「エヴァンさん、ありがとう。大好き」


『Moi au(私も)ssi,je m’aim(愛してるよ)e ]』


エヴァンさんの優しい唇の感触が僕のほっぺたに優しく触れた。


抱きかかえられたまま空良くんと一緒に大きなツリーの下に向かう。


近くに来ると余計大きさが目立つ。これが本物の木だなんて信じられないくらい。


ツリーの下の床に重ねられた箱は大きいものもあれば、小さなものもある。それに一体何が入っているんだろうとワクワクしてしまう。


「ユヅル、どれから開ける?」


「じゃあ、僕……これにします!」


僕の一番近くにあった、僕でも抱えられそうなくらいの箱を取り、犬のシールが貼られているのを確認する。


「弓弦くん、それにするの? 同じ包装紙の箱があるから、僕もそれにする!」


「じゃあ僕も!」


僕がとった箱と同じものを手にしてくれた佳都さんと空良くんと一緒に包装紙を外していく。


「ユヅル、いやに綺麗に外していくんだな。破いてしまっていいんだぞ」


「だって……こんなに綺麗な包装紙破いたら勿体無いですよ」


「そ、そういうものか?」


雪の結晶のような絵が描かれた綺麗な包装紙。きっとこれを見るたびにこの日のことを思い出す。だから破いちゃうなんて勿体無い。


見ると、佳都さんも空良くんも破かないように綺麗に外している。やっぱりそうだよね。


外した包装紙を綺麗に折りたたんで、箱を開けると出てきたのは


「わぁっ! かっこいいっ!!」


ベージュ色で足首まですっぽりと覆われたスニーカー。


「ほら、見て! エヴァンさん!」


「ほお、これはなかなかかっこいいな。ハイカットはユヅルによく似合うと思うぞ」


そうか、これハイカットスニーカーって言うんだ。本当にかっこいい!


「ねぇ、弓弦くん見て! 僕もスニーカーだったよ」


空良くんが見せてくれたのを見ると、同じ色だけど形の違うスニーカー。


「わっ! 空良くんのもかっこいいっ!!」


「僕、こういうの履いてみたかったんだ!」


「弓弦くん、空良くんみて! 僕もお揃いだよ!」


その声に二人で佳都さんの方に視線を向けると、佳都さんの手にも同じ色でデザイン違いのスニーカーがあった。


「そうか、色を揃いにしてくれたのだな」


エヴァンさんの声にそうかと納得する。


「理央くんもプレゼント開けよう!!」


ソファーにまだ座ったままの理央くんに声をかけると嬉しそうな理央くんを抱きかかえて観月さんがツリーの下にやってきた。


「僕も同じの開ける!」


理央くんは嬉しそうに、たくさんのプレゼントの中から綺麗な雪の結晶の包装紙を探し、自分のヒツジシールを確認して手に取ると、


「これ、僕のプレゼントだ!!」


と胸に抱きしめて大喜びしていた。


うん、わかるよその気持ち。プレゼントって本当に胸があったかくなるもんね。


僕たちよりもさらに慎重に包装紙を外した理央くんは箱を開けた瞬間、目を輝かせた。


「すごいっ! かっこいいっ!!」


やっぱり同じ色だけど、デザイン違いのスニーカー。でもどれも僕たちにすごく合っているのを選んでくれたのがわかる。


「あっ、みて! 靴の中にメッセージカードが入ってる」


スニーカーの中に小さなメッセージカードが入っているのに気づいた僕は大声を上げると、みんな


「本当だ! 僕も入ってた!」

「僕も!」


と声が聞こえる。


一体何が書かれているんだろうと思って、ドキドキしながら読んでみると


<弓弦くんへ 理央のお母さんです。理央とお友達になってくれてありがとう。遠く離れていてもこの靴を見ていつでも理央のことを思い出してね。楽しいクリスマスを!>


と優しいメッセージが書かれていた。


「エヴァンさん、これ、見て!」


「ああ、ユヅル……よかったな」


「うん、僕すごく嬉しい!」


嬉しくて理央くんにお礼を言おうと理央くんに目を向けると、理央くんはメッセージカードを手に持ったまま、ポロポロと涙を流していて観月さんが優しく抱きしめながら涙を拭ってあげているのが見える。


「理央くん……相当嬉しかったんだろうな」


お母さんからの贈り物だもんね。


そっとしておこうと思った僕はミシェルさんに声をかけてみた。


「ミシェルさん! プレゼント見てみた?」


「ああ、ユヅルーっ! もうかっこよくてびっくりしちゃったよ。見て、この靴!」


やっぱり同じ色。これもきっと理央くんのお母さんからの贈り物なんだろう。


「ミシェルさんにすっごく似合ってる!!」


「ねぇ、見て! メッセージカードまで入ってたんだよ。しかも、ほら。フランス語だよ!」


見せてもらったカードはびっくりするほど綺麗なフランス語で書かれていた。

まだ読むのは苦手な僕に


<ミシェルさん、以前イギリスで演奏会に行ったことがあります。天使のようなミシェルさんが奏でる力強さとそれでいて柔らかく甘やかな音に感動しました。これからの素敵な音楽でみんなを癒してください>


と聞かせてくれた。


「わぁ、素敵な手紙」


「うん、僕……本当に嬉しいよ」


メッセージカードを胸に抱きしめるミシェルさんの姿が、本当に天使に見えた。

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