サンタさんに会いたい!
「このお屋敷のどこからサンタさんが入ってくるのかなって、話し合ってたんだ」
「えっ? サンタさんが?」
「そう! 凌也さんが教えてくれたんだ。フランスでは十八歳でもサンタさんがクリスマスプレゼントを持ってきてくれるんだって。だから、ここにも来てくれるはずだって。弓弦くんは知らなかったの?」
「知らなかった……サンタさんが、本当に?」
「凌也さんは嘘ついたりしないよ」
そう自信満々に言い切る理央くんを見ていると、そうなんだと思ってしまう。でも、本当にサンタさんがきてくれるのかな……。なんだかドキドキしてきちゃった。
「本当なんだから! ねぇ、凌也さぁーん!」
理央くんが観月さんに呼びかけると、三人揃ってこっちに来てくれた。
「理央、どうした?」
「ここにサンタさん、来てくれるんですよね?」
「えっ……」
「ソリに乗ってプレゼント持ってきてくれるんですよね?」
理央くんが少し心配そうに尋ねると、
「ああ、そうだ。ちゃんと持ってきてくれるから心配しないでいいよ。リオだけでなく、ソラにもユヅルにも……みんなに持ってきてくれるから安心しなさい」
とエヴァンさんが笑顔でそう返してくれた。
その瞬間、理央くんは花が綻んだように満面の笑みを浮かべて僕たちを見た。
「よかったね、みんなサンタさんに会えるよ!!」
「うん、すっごく楽しみになってきた!!」
「ああ、サンタさん……早く来ないかな」
エヴァンさんは絶対に嘘はつかない。それがわかっているから、僕はサンタさんに会えるのが楽しみでたまらなくなっていた。
リュカとジョルジュさん。
秀吾さんと周防さん。
ミシェルさんとセルジュさん。
次々にコンサバトリーに集まってきたけれど、佳都さんと綾城さんだけがなかなか下りてこない。
「あいつら、疲れすぎて寝ているんじゃないか?」
「ああ、確かにそうかもしれないな」
「俺じゃなくて、あいつのほうが鬼畜だってこと、わかったろ?」
「いや、それはそうとは……」
「凌也さん、キチク、ってなんですか?」
「えっ? 理央は知らなくていいんだよ。おいっ、悠木。余計なこと言うな!」
悠木さんと観月さん、理央くんがそんな話をしているのを遠目で聞きながら、僕もキチクってどういう意味だろうと考えていたけれど、結局よくわからなかった。
後でエヴァンさんに聞いてみようかな。もしかしたら英語とか、フランス語とかだったりするのかもしれないし。
「ユヅル、ぼーっとしてどうしたんだ? 疲れたか?」
「ううん。なんでもないです。大丈夫」
「そうか? アヤシロたちが揃ったらクリスマスパーティーを始めるからな。大広間の方に移動するぞ」
「わぁ! あの準備してた部屋にやっと入れるんですね。楽しみ!」
もう一ヶ月以上前から、お屋敷の奥にある広い大広間にクリスマスパーティーの準備が始められていて、僕は当日まで立ち入り禁止になっていたんだ。パピーたちが白い布で隠したものを次々と部屋に運び入れていて、毎日ワクワクしていた。あの部屋の中がどんなふうになっているのか、全く想像もつかないけれど楽しみなんだ。
それからしばらくして、佳都さんと綾城さんがコンサバトリーにやってきた。
「悪い、待たせたか?」
「いや、大丈夫だ。ここでのんびりしてたから」
エヴァンさんがそういうと、綾城さんはほっとしたように笑っていた。
「佳都さん、これからクリスマスパーティーの会場に案内しますよ!」
「わぁ! 楽しみ!」
「空良くんたちも行こう!」
「わぁーいっ!」
「僕、ずっと楽しみにしてたんだ!!」
空良くんも理央くんも嬉しそう。特に理央くんはクリスマス自体も知らないんだっけ。
初めてのクリスマスパーティー、楽しんでもらえるといいな。
『旦那さま。fête d e Noël の準備が整いました』
『そうか、ありがとう。じゃあ、みんなを大広間に案内してくれ』
『承知しました』
「みな、さま。おおひろま、に、ごあん、あい、します」
『わぁ! パピー、すごいっ!!』
今回のために日本語を覚えてくれたパピー。それに僕がフランス語で返す逆転現象に思わず笑ってしまう。
辿々しい日本語だけど、すっごく嬉しく感じるから、僕がここにきた時一生懸命話してたフランス語も、きっとそう言うふうに思ってくれてたんだろうな。本当に嬉しい。
『喜んでいただけて嬉しいです』
『Merci,papy』
僕がパピーと笑い合っていると、
『めるしぃ、ぱぴぃ』
と可愛らしい声が聞こえた。理央くんと空良くんがパピーにお礼を言ってくれたんだ。
『おおっ、なんて可愛らしい。angeのようですね』
「あんじゅ?」
「理央、天使のことだよ。二人が天使みたいに可愛いって言ってるんだ」
知らなかったけど、観月さんもフランス語わかるんだ。すごいなぁ。
「じゃあ、大広間に行こうか」
エヴァンさんの声で、みんなで大広間に移動する。その間も僕は浮かれっぱなしだ。
一体どんなふうになってるんだろう。
大きな扉の前でドキドキしていると、パピーとジョルジュさんが扉を開けてくれた。
「わぁーーーーっ!!!!!! すごいっ、すごいっ!!!!!!」
目の前に広がるとんでもない光景になかなか一歩が踏み出せない。
「姫たちが中に入れないようだから、エスコートして入ろうか」
エヴァンさんがそう提案し、僕にさっと手を差し出した。これ、本で読んだことある。
左手を置くんだっけ。ドキドキしながら、エヴァンさんの右手にそっと左手を乗せると、エヴァンさんは嬉しそうに笑って中へ進んだ。後ろから理央くんたちもエスコートされながら次々に進んでくる。こういうの楽しいな。
大広間の奥にある大きな大きなクリスマスツリーの下にはとんでもない量の箱が重ねられている。それもすごく気になるけれど、でそれよりも僕は、煌びやかに飾られたこの大きなツリーに釘付けだ。
「エヴァンさん、このおっきなツリー……本物の木?」
「ああ、もちろんそうだよ。本物でないクリスマスツリーなんてありえないだろう? 全部本物だよ」
あっ、そうなんだ。知らなかった。そうか……商店街とかに置いてあった、あのツリーも実は本物だったんだな。
「後でもうひとつツリーが出てくるからな」
エヴァンさんに耳元でそう囁かれて驚いてしまう。
「えっ? まだあるの?」
「ああ。だけど、みんなには秘密だ。驚かせてやろう」
「わっ、楽しみ!」
僕は大きな大きなツリーを見上げながら、これから始まるクリスマスパーティーに興奮が止まらなかった。




