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一目惚れの理由

「ユヅル……?」


僕が何も言わずにいたから余計心配になっちゃったみたいだ。

ああ、もう本当に嬉しすぎておかしくなっちゃいそうだ。


「エヴァンさん、同じです……」


「えっ?」


「僕も、エヴァンさんがいないと生きていけないので……同じですね」


「――っ!!」


エヴァンさんは僕をしっかりと抱きしめてくれて、


「ああ、私たちは同じだ」


と嬉しそうに何度も言っていた。



「ロレーヌをこんなに変えるなんて、弓弦くんは本当にすごいな」


「えっ?」


綾城さんの言葉に僕が驚くと、エヴァンさんは


「ああ、声だけですでに心を掴まれてたんだ。誰にも関心を持たなかった私を変えるくらいユヅルにはお手のものだよ。しかもそれが計算じゃなく、本心で言ってくれているのだからな。本当にユヅルは私の唯一無二の存在だよ。アヤシロ、君にも私の気持ちがわかるだろう? 君にとってのそれが隣の彼なんだろうからな」


と満面の笑みで綾城さんを見た。


「ははっ。さすが、ロレーヌだな。ああ、俺にとっては佳都との出会いがまさしくそうだった。俺を根本から変えてくれたんだよ」


「彼を必死で落とそうとしているのは知っていたが、元々はどういう繋がりで出会ったんだ?」


「ほら、佳都。聞かれてるぞ、俺たちの馴れ初めを」


綾城さんがそう促すと、佳都さんは少し照れながら話してくれた。


「僕が直己さんの妹と友達で、最初はその子に頼まれて直己さんの家で料理とか掃除とかのバイトをすることになったんですけど、実はその前から直己さんは僕のことを知ってて、一目惚れしてくれていたみたいで……って、そうでしたよね、直己さん」


「ああ、どうやって佳都を落とそうか必死だったよ。絶対に自分のものにしようって決めてたからな」


綾城さんがそういうと、佳都さんは嬉しそうに笑っていた。


「それで、アヤシロが一目惚れしたきっかけは何だったんだ? 何を見て一目惚れしたんだ?」


「そういえば、それは聞いたことなかった……。七海ちゃん、ああ、直己さんの妹ですけど、彼女と一緒にいるところを見て一目惚れしたとしか聞いてなかったよね、直己さん?」


「ああ、そうだな。あの時の佳都が可愛すぎて、俺の胸だけに留めておいたんだが、まあいい。付き合いたてのカップルの参考になるように、俺が恋に落ちた話をしようか」


綾城さんは嬉しそうに話を始めた。



「ある会社に打ち合わせに出かけた時、たまたま大学の前を車で通ってちょうど正門から出てきた七海を見かけたんだ。その時、一緒にいたのが佳都だった。バイトに向かおうとしていたのか、七海と別れて急いで行こうとしていたとき、通りすがった、お母さんと一緒に歩いていた三歳くらいの女の子に『わぁー、綺麗なお兄さん! 王子さまみたいだぁ〜!』って声かけられて、普通なら知らない子に声かけられたらちょっと戸惑うものだろう? しかも、急ぎながら出てきて時間を気にしている様子だったのに、佳都はその子に声かけられてちゃんとその子の目線にしゃがんで笑顔を見せながら話をしていてね、その姿に一瞬で恋に落ちたんだ」


「えっ……あれ、見られてたんですか? 恥ずかしいっ」


「恥ずかしがることないだろう? 本当に王子さまみたいでかっこよかったぞ」


照れながらも嬉しそうな佳都さんを抱き寄せている綾城さんもすごく嬉しそうだ。

きっとその時のことを思い出しているんだろう。


「佳都さん、すっごく優しいんですね」


「いや、そんなことないよ。きっと弓弦くんだって、同じような対応したはずだし。ねぇ、ロレーヌさん」


「ああ。そうだな。ユヅルは優しいからな。だが、アヤシロ。気をつけたほうがいいぞ。君が恋に落ちたように、その子にとってもケイトくんは初恋の相手になったかもしれないぞ」


「な――っ! そ、んなこと……いや、あるかもしれない……」


今まで嬉しそうに話していた綾城さんが一気に不安げな顔になる。


「そんなことないですって。大体、あの子はもう僕のことなんて忘れてますよ」


「そんなことあるわけない。ああ、もう佳都を外に出したくなくなってきたな……ずっと俺だけのものにして閉じ込めておきたいくらいだ」


「えっ? それは……あの、大丈夫ですよ。僕はもう直己さんのれっきとしたパートナーですよ。どこにも行きませんから。ねっ」


佳都さんが左手の薬指に輝く指輪を、綾城さんの左手の薬指に煌めく指輪にカチッと重ねて見せると綾城さんはほっとしたように笑った。


「ああ、そうだな。佳都は俺だけの佳都だな」


「はい。直己さんも僕だけの直己さんですよ」


二人が幸せそうに見つめ合うのを見ながら、僕はエヴァンさんと顔を見合わせて笑った。



「今日は楽しかったよ。フランスに帰る前に良い話が聞けてよかった。フランスに来る日が決まったら連絡してくれ。すぐにホテルの部屋を押さえるよ」


「ああ、ありがとう。友人に話をしたらすぐに連絡するから。きっと忙しいだろうから、電話じゃなくてメールにしとくからな」


「それはありがたいな。フランスに帰ったら、やるべきことが山積みだからな」


「ロレーヌ、彼と幸せに。弓弦くんも新しい生活は大変だろうが、どんなに些細なことでもロレーヌに相談するように。決して一人で悩んだりしたらダメだぞ」


綾城さんはエヴァンさんと話をした後、僕にも優しい言葉をかけてくれた。


「直己さん、大丈夫ですよ。弓弦くん、ロレーヌさんのことものすごく信頼してますから、なんでも話し合ういいカップルですよ。ねっ、弓弦くん」


「はい。綾城さんも佳都さんも今日は本当にありがとうございました。僕、お二人とお話ができて本当に楽しかったです。エヴァンさんと幸せに暮らしている僕に会いにフランスに来てくださるのを楽しみにしていますね」


「フランスで会うの楽しみにしているね」


「じゃあ、ユヅル。そろそろ帰ろうか」


僕たちが立ちあがろうとしたその時、佳都さんに


「ねぇ、弓弦くん。ちょっと……」


と声をかけられた。


「メッセージアプリのID交換しようよ。電話よりやり取りしやすいし」


「わぁ、嬉しいです」


こうやってID聞かれるのが初めてで僕は嬉しくなってしまった。


久々にメッセージアプリを起動させると、一番上に


<Happy Birthday! 弓弦。

弓弦がいつも幸せでいられるようにお母さん頑張るね。生まれてきてくれてありがとう。お母さんより>


と母さんからのバースデーメッセージが目に入った。


そうだ。

母さんは僕が携帯を持つようになってから、誕生日当日の0時にメッセージを送ってくれていたんだ。

もらってメッセージを読んだ時は、今のこの未来は全く想像してなかったな。

母さんからの最後のメッセージ。


母さんはいなくなっちゃったけど……大丈夫。僕は幸せだよ。


「弓弦くん、大丈夫?」


佳都さんの心配そうな声が聞こえる。

ああ、僕は母さんのメッセージを見て涙が出ちゃったみたいだ。

そりゃあ心配するよね、急に泣いたりしたら……。


「あの、だい――」

「ユヅル、無理しないでいい。私がついているし、彼らは友達だ。無理して笑顔を見せなくていいんだ」


僕を後ろから抱きしめてそう言ってくれた。


「エヴァンさん……僕、母さんからのメッセージが見えて……それで、」


「ああ、そうか。わかった。ユヅル、気にしないでいい」


そう言いながら、体勢を入れ替え僕を胸の中に閉じ込めてくれた。


「あの、ごめんなさい……ぼく、何か……」


「いや、ケイトくん。気にしないでくれ。ユヅルは母親からきたメッセージを見て少し思い出すことがあったようだ」


「ああ……お母さんのお話。あの……僕も聞いています。突然だったから、余計ですよね。よくわかります。僕も両親を亡くしているので……」


「えっ? 佳都さんも?」


僕が驚いて顔を上げると、佳都さんは涙を潤ませながら頷いていた。


「母さんは結構前に病気で亡くなって……父も少し前に。だから、一人になって寂しい気持ちはよくわかるよ。でもね、今は直己さんに出会えて、いっぱい友達ができて毎日が楽しいんだ。もちろん両親のことを忘れない日はないけど、二人がいてくれたおかげで僕が今、楽しく過ごせてるんだって思えるようになったから……。弓弦くんも毎日が楽しい日を過ごせるように前を向いていこうね。きっとご両親もその方が喜ぶはずだよ」


「佳都さん……はい。ありがとうございます。僕……本当に佳都さんとお話できてよかったです」


「ふふっ。僕もだよ」


僕に笑顔が戻ったところで、仕切り直してID交換しようと誘われ、僕は佳都さんのIDを手に入れることができた。


「このIDさっき見せた僕の友達にも教えていいかな? あの子たちは信用できる子達だから……」


「はい。いいですよ。楽しみにしています」


僕はメッセージアプリのトーク履歴の先頭に佳都さんのアイコンがあるのを何度も見て嬉しくなりながら、ポンとスタンプを送った。


可愛いうさぎとくまが手を握っているスタンプはまるで佳都さんと僕みたい。


佳都さんにそう言ったら、


「ふふっ。弓弦くんはクマっていうより、可愛いワンちゃんって感じだけどね」


と笑っていた。



それから数日後、フランスの僕の元に佳都さんから可愛い犬の白い着ぐるみパジャマが贈られてきて、驚く僕の横でエヴァンさんが目を輝かせてとんでもないことになっちゃうことを、その時の僕はまだ知らない。

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