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あなたを解放してあげるね  作者: 青空一夏


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続編その2 デリアおめでたで過保護すぎるナサニエル、赤ちゃんとのご対面

 私が妊娠したことを告げてから、ナサニエル様は古代魔法書を前にも増して読みあさり、たくさんの魔法の技術を短期間で習得した。


「私たちの子供になにがあるかわからないし、なによりデリアを守りたいからね」


「ナサニエル様。私だって火魔法を使えますし、ナサニエル様ほどではないにしても魔力量も多いです。グリオもいるし、なんの心配もありませんわ」


「だが、グリオは空から魔獣を監視しているときや、私と一緒に魔王騎士団館に行くときなどは、デリアの側にいられないだろう? そんなとき、もし危険が迫ったら・・・・・・とても耐えられない・・・・・・」


 途端に悲しそうに顔を歪めるものだから、私はナサニエル様の頭を撫でた。


「ナサニエル様。大丈夫ですわよ。ほら、私はこの通り元気ですし、まだお腹は少しも膨らんでおりません」


「・・・・・・危険というのは、敵となる人物ばかりではなく天候とか気温の変化とか、そんなものも心配なんだ。屋敷にいるときは、快適な温度調整ができるよう魔道具(冷暖房装置)があるが、問題は外だな。デリアの外出時に快適に過ごせるアイテムを開発するよ。待っていて」


「え? はい。でも、外出は大抵馬車ですし、大丈夫ですわ」


「いや、庭園を散歩するだけでも心配だよ。午後の強すぎる日差しとか、急に肌寒く感じる夕方などに、屋敷の庭園を散歩するのは危ない。古代魔法に温度調節魔法と防水・防熱の結界があるので、それで便利な物を作ってあげよう」


 それから三日ほど経って、ナサニエル様が淡いピンクの傘をプレゼントしてくれたわ。この傘の生地は私の周囲の空気の温度を感知して、自動的に最適な温度に調整する。寒い日は温かい空気を、暑い日は涼しい空気を放ち、常に快適な体感温度を保てるのですって。


 温度調節魔法を大規模に使用すると、その地域の気候が極端に不安定になることがある。突然の暴風雨や干ばつが発生し、人々の生活に深刻な影響を及ぼすことも考えられるから、コンパクトな傘にしてみたということだった。


「古代の氷の精霊と太陽の精霊から得られるエッセンスを生地に織り込んだから、温度調節機能はばっちりだ。水滴や熱をはじく魔法の結界も施したから、雨や強い日差しからデリアを守るよ。外出時は絶対にこれをさしてね。庭園の散歩をするだけでも使ってほしい」


 とんでもなくすごい機能がついていると思う。ナサニエル様の過保護ぶりが凄い! でも、それだけ大事にされている証拠なので、お父様もお母様もにこにこしていた。



 ナサニエル様が魔法騎士団館にグリオの背に乗って出勤してから、私はグラフトン侯爵邸の庭園を散歩した。もちろん、手にはナサニエル様からいただいた傘を持っていたわ。庭園の花々は彩りを放ち、蝶々が花から花へと舞い、小鳥たちのさえずりも聞こえた。私はこの静かな庭園の美しさを、セシルやキャサリンを伴い満喫していたのよ。


 ところが突然、穏やかだった風が強まり始め、私の傘が揺れ動き出した。驚いて傘の柄をしっかりと握りしめると、風はさらに強くなり、私を庭園の端へと押しやっていった。そのまま風は私を庭園の外へ、そして未知の場所へと導くかのように、私を高くさらに高く上げていった。両手でしっかりと傘を握りしめていると、ナサニエル様に守られているように感じて、少しも怖くはなかった。だから、風に乗って上空に浮かんでも、未知の冒険にわくわくしていたわ。


 ぷかりぷかりと空に浮いた私を、セシルとキャサリンは驚いた顔で見上げていたわ。

「大丈夫よ。この傘はナサニエル様が作ってくださったのよ。だから、私を絶対に守ってくれるわ」

 そう言いながらしっかりと傘を握った私は、空の旅を楽しむことにしたのよ。


 すると、目の前に現れたのは信じられない光景だった。空中に浮かぶ巨大な建物が現れたのよ。それはまるで古い城のように見え、周囲は薄い雲に覆われていた。風は私を建物の入口まで優しく降ろし、傘は私を守るかのように静かに閉じた。


 足を踏み入れると、目の前に広がるのは無数の書棚とそれに囲まれた古い木の読書台だった。ここには、世界中から集められた珍しい本が収められているようだった。私は書棚を一つ一つ巡り、古代の魔法書や失われた文明に関する書物を発見した。難解な文字で書かれており、私には到底わからない。私はナサニエルと共有するため、いくつかの書物を手に取り、誰もいない空間に向けて声をかけた。


「これらの本をお借りしてよろしいかしら? もちろん、あとでお返ししますわ。ナサニエル様にお見せしたいのです」


 彼もきっとこの発見に興奮するはずよ。風が私をこの浮遊する図書館へと導いてくれたこと、そして古代の魔法書に記された知識を通じて、私たちの世界観がどれほど広がるかを思うと、心が躍った。誰もなにも言わなかったけれど、ポワンと小さなあめ玉が現れ私の手の上に落ちてきた。


「ありがとう。読み終わったら返しに来るわね。きっと、またここに来られるわよね?」


 私はそう言いながらその建物から出て行く。傘を再び開き、グラフトン侯爵家の庭園へと戻るために不思議な図書館を後にした。


「ナサニエル様の作ってくださった傘さん。私を元の場所に戻してちょうだい。グラフトン侯爵家の庭園よ」


 帰りの風は穏やかで私を安全に屋敷へと運んでくれた。私が傘を持ったまま空に浮かび上がった様子を見ていたセシルたちは、青ざめながら庭園に立ち空を見上げていた。セシルたちの横にはお父様もお母様もいて、みんな心配そうに私を見上げていたわ。ちょうど、グリオに乗って帰宅するナサニエル様と大空で出くわす。あたりは夕方になっていたのね。あの建物にいた時は、それほど長い時間に感じられなかったのに。


「デ、デリア? なぜ、空に浮かんでいるんだい? こちらにおいで。さぁ、グリオの背に乗って。いったい、なにが起こったんだ?」


 私が冒険の話をすると、ナサニエル様はびっくりしていた。


「浮遊する図書館なんて聞いたこともないよ。浮遊する市場なら、昔の文献で見たこともあるかもしれないが」


「浮遊する図書館も浮遊する市場も空に浮かんでいるよ。我はよく浮遊する市場で果物をもらったりする。その本は返す必要がない。あの図書館も市場も自分で意志を持っていて、招きたい者だけを招くのさ。デリアは気に入られたんだよ。そのあめ玉は言語習得の効果がある。飴を舐めた者は、瞬時にどんな言語でも読めるようになるのさ。これによって、あの図書館にある本が全て読めるようになるって仕組みだ」

 さすがに神獣のグリオは、空に浮かぶ不思議な話をいっぱい知っているみたい。


 もらったあめ玉はちょうど二粒。ナサニエル様と私で一粒ずつ舐めたわ。とても美味しかったし、グリオの言うように、持ち帰った本もすらすらと読めるようになっていた。


 借りて来た古代の魔法書は、ナサニエル様がマスターしきれていない形態変化魔法について詳しく書かれていた。ナサニエル様がドラゴンの姿になって空を舞う日も近いと思う。


 ☆彡 ★彡


 ナサニエル様の過保護はまだまだ続いて、食事についてもとても研究してくれた。私が十分な栄養を摂取できるように魔法のポーションを研究したり、なにげなく食べている食材でもより良いバランスを考えてくれた。さらに、理論だけではなく、時間があるときにはコックに任せずに、私のために自ら料理までしたわ。


「ナサニエル様がご自身で厨房に立たれる姿は、まさに崇高なる愛の行為でございます」


「ナサニエル様の手から生み出される料理には、夫婦愛の真髄が込められております」


「料理を通じて、ナサニエル様はデリア様への絶え間ない愛を表現されています。その姿勢は我々すべてにとって見習うべきものでございます」


 使用人たちのナサニエル様を褒め称える声が凄いけれど、ナサニエル様は愛する妻のために料理をするのは、当然だと言い切った。それからは貴族でも好きな異性のために料理をすることが流行ったし、男性が料理をすることが最高にセクシーだという評価が社交界でも定着したわ。



 ナサニエル様は私が庭園の散歩で転ぶことがないように段差をなくしたり、階段を登らなくてもいいように、魔法の階段(エスカレーター)を発明した。

 また、お腹が徐々に膨らんでくる私が着やすいようなドレスをキャサリンにデザインさせたり、臨月になると魔法騎士団館には出勤せずに、屋敷に書類を持ち込み仕事をするようになった。


「過保護すぎるのですわ。妊娠は病気ではないのですよ」「病気ではないが、女性の出産は命がけだ。とても目を離してはいられない。とにかく、側にいるよ。なにより大事で優先するべきなのはデリアだからね」


「・・・・・・ナサニエル様、好き!」


 すっかり大きくなったお腹をさすりながら、ナサニエル様の膝に乗った瞬間に、信じられないほどの激痛が走った。これが陣痛ってことかしら? 


(私、絶対に負けない! 元気な赤ちゃんを産んでみせるわ)



 出産の瞬間は、私にとって人生で最も強烈な体験の一つだった。痛みは想像を絶するもので、波のようにやって来ては引いていく。それはただ単に身体的な苦痛ではなく、精神的な試練でもあった。けれど、その全てを乗り越える力をくれたのは、隣で手を握ってくれるナサニエル様の存在だった。


「大丈夫だよ、デリア。君ならできる」


 ナサニエル様の声は、痛みの嵐の中で私に勇気を与え、安心感をもたらしてくれた。彼の手の温もりが私の心を落ち着かせ、苦しみを乗り越える力をくれた。その眼差しには愛と尊敬、そして未来への希望が満ち溢れていたのよ。


 陣痛が一段と強まるたびに、ナサニエル様は私の手をより強く握りしめてくれた。彼は一瞬たりとも私のそばを離れようとせず、その献身的な姿が私の心を強く支えてくれた。痛みが頂点に達したとき、彼の深みのある魅力的な声が私に「もう少しで会えるよ」と囁いてくれる。その言葉が、私に最後の力を与えてくれた。

 そして、ついに新しい命の泣き声が部屋に響き渡ったとき、ナサニエル様の目には涙が溢れ、彼が私たちの子を初めて抱きしめた瞬間、私はこれまでに感じたことのない愛おしさと幸福感に包まれた。


「凜々しいお顔立ちの男の子でございます。金髪に青い瞳ですね。ナサニエル様によく似ておられます」


 グラフトン侯爵家お抱えの医者が私たちにそう告げた。ナサニエル様は溢れる涙をぬぐいながら、何度も私にお礼を言ったわ。


「私たちの子供を生んでくれてありがとう。デリア、私は世界一幸せな男だよ」

 私はナサニエル様の頬を撫で、頭もそっと撫でる。


「泣かないで。幸せはまだ始まったばかりですわ。これから私は娘も生むし、ナサニエル様をもっともっと幸せにしてあげますからね」


 出産の苦しみは計り知れないものだったけれど、ナサニエル様がそばにいてくれたおかげで、私はそれを乗り越えることができた。彼の愛と支えがあったからこそ、私はこの世界で最も美しい奇跡を経験することができたのよ。そして今、私たちの愛の結晶であるこの小さな命を見つめながら、心からの感謝でいっぱいなのだった。




 ୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧


 ※次回は、本当の子供とグリオが変身している子供で、一緒にキャッキャっと遊んでいるところ。子供たちとふれあうデリアとナサニエルの日常を描きます。

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