77 グラフトン侯爵家には愛がいっぱい(ナサニエル視点)
アルドリック中隊長との決闘でゴロヨ補佐が勝利したことにより、私が私情で補佐を任命したと噂する声はすっかりなくなった。貴族騎士たちからもゴロヨ補佐に対する賞賛や尊敬が集まるなか、さらにアルドリック中隊長が潔く負けを認めゴロヨ補佐と和解したことは、騎士団員たちの意識を変えた。
魔法騎士団館のなかは、平民寮と貴族寮の明確な線引きをなくし、騎士団の中での出世も均等の機会を与える方向に改善された。私の理想とする改革が次々となされていったのだった。
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公休日の前日にはグラフトン侯爵家に泊まる私は、デリア嬢に朝の挨拶をする。
「デリア嬢、今日もとても綺麗ですね。おはようございます」
「おはよう、ナサニエル様。もう、そろそろ私に敬語を使うのは、やめてもらえません? デリア嬢はデリアでいいですし、もっと、平民の恋人同士や夫婦のように気さくにお話したいです。だって、ナサニエル様は誰よりも平民思いの貴族ですからね。私たちも堅苦しい言葉使いはなくしていいと思います」
「わかりました。・・・・・・じゃなくて・・・・・・わかったよ。これでいいのかい?」
「そうそう、その調子ですわ。私はナー君と呼びますから、ナー君は私をデリアと呼ぶこと!」
「う、うん。わかりました。じゃなくて、わかったよ。デリア」
言葉の矯正をされたのだが、これがなかなか難しかった。普段、なにげなく呼んでいる言葉はすっかり身に付いてしまって、いきなり呼び捨てにすることは難儀だった。しかし、『デリア嬢』と呼びかけるとそっぽを向くから、『デリア』と呼ぶようにした。
『デリア』と呼ぶと顔をぱっと輝かせてにっこり微笑むので、私はそのまぶしさに目を細めた。このような可愛い女性がもうすぐ妻になるなんて夢みたいだ。
やがて、グラフトン侯爵家には続々と人が訪れる。キャサリンがデザインを考えたウェディングドレスや披露宴のドレスを、裁縫室に仕立て職人やお針子が来て縫っていた。宝石デザイナーのヴァーノンはキャサリンに会いに、グラフトン侯爵家に姿を見せ、気の利いたお菓子やアクセサリーを侍女たちに配っていた。
ウェディングベールのほうは、ゴロヨ補佐がセシルと一緒に編んでいる。ニコニコしながら、二人で並んでレース編みをする姿は微笑ましい。
エレナ王女と婚約が決まりそうなペーンは、グラフトン侯爵家の鮨職人源さんに鮨の握り方を教えてもらっていた。今はガーネット王国に一時帰国しているエレナ王女に、自分が握った鮨を食べさせたいらしい。
みんながそれぞれの幸せを見つけ、新たな人生をスタートさせる予感がしたし、ここはいつだって人がたくさん集う屋敷だ。
「こんなに幸せでいいのかな? 今までの自分が嘘みたいだ。遠い昔、両親の愛が欲しくて涙を流したこともあった。でも、今はそんな両親の顔も思い出せないよ。親と言えばグラフトン侯爵夫妻を思うし、大事な人といえばデリアを思い浮かべる。信頼できる仲間もいて、偉大なグリオンドールは力強い私の守護神だよ。でも・・・・・・今は私たちに似た息子になっているね」
大空からの魔獣監視を終えて帰ってきたグリオは、ポワンと幼児の姿になりグラフトン侯爵夫妻に甘えていた。お菓子をたくさんねだる時は、あの姿が有効だと学んだらしい。あの感じだと推定5歳か6歳ぐらいの男の子だ。グラフトン侯爵夫妻は、赤い髪に青い瞳の幼児をまるで孫のようにかわいがっている。
「グリオは賢いな。なにに変身すれば誰に可愛がられるか、完璧に使いこなしているよ」
「そうね。でも、私はグリオがどんな姿でも可愛いし、いつも大事にするわ。だって、彼はナー君を助けてくれたし、国を救ってくれた偉大な神獣だもの」
そう言いながら私の胸にもたれかかった。グラフトン侯爵家は今日も平和で愛と笑いに溢れている。
「ナー君、愛しているわ。私のために生まれてきてくれてありがとう」
(その通りさ。私はデリアのために生まれてきて、これからもデリアを幸せにするために生きていく)
「デリアも、生まれてきてくれてありがとう。君という名の星が、私の暗い夜空を照らしてくれた。この広い世界で、デリアと出会えたことが私の最大の幸せだよ。君が私のそばにいることで、人生が輝いて見えるんだ。一生、君を大切にし、君の笑顔を守ることを誓うよ」
この愛は永遠だ!




