73 結婚式に向けたウエディングドレスつくりと貴族の嫉妬(ゴロヨ副団長補佐視点)
ナサニエルが婚約して、いよいよ結婚式に向けてのカウントダウンが始まった。俺はグラフトン侯爵家に公休日になると必ず行くようになった。それはセシルさんと、デリア様のウエディングベールをつくるためだ。
男のくせにと言われそうだが、俺はレース編みが得意だ。母親の趣味を見てなんとなく覚えたもので、手先が器用なこともあってかなりの腕前だった。それをグラフトン侯爵家で話したら、セシルさんに「一緒に作りましょう」と言われたのが始まりだった。
グラフトン侯爵家に到着すると、俺は使用人用玄関から入って、そのまま裁縫室に直行する。そこにはセシルさんやキャサリンさんの他に仕立て職人やお針子などもいて、デリア様が着るためのウェディングドレスや披露宴用のドレスが縫われていた。
グラフトン侯爵家側からは「正面玄関から入りなさい」と何度も言われた。だが、ナサニエルと一緒の時でなければ到底俺のような元漁師には敷居が高すぎるんだ。
「あら、いらっしゃい。どうぞ、私の横に座って編んでくださいな。今日は天気が良くて気持ち良いですわね?」
セシルさんに、にっこりと笑いかけられキュンと胸が締め付けられた。元漁師と元伯爵令嬢なんて釣り合うわけないのにな。でも、心の中で思うだけなら自由だ。
俺は細かいビーズと絹糸を手に取り、セシルさんの隣で慎重にベールを編み始めた。デリア様の結婚式のためのベールだ。彼女はグラフトン侯爵家の令嬢で、このベールは彼女の地位と美しさを象徴するものだから、完璧でなければならない。
「セシルさん、このパターンで大丈夫ですか?」俺は細かいレースの模様を指さしながら尋ねた。セシルさんは丁寧にそれを確認し、「はい、それで正しいわ。この次にはクリスタルのビーズを付けましょう」と言った。彼女の手先は驚くほど器用で、ビーズ一つ一つを繊細に編み込んでいく。
ちなみに、セシル様をセシルさんと呼ぶようになったのは最近だった。セシル様のほうから「今は平民なので『様』はいりません」と言われた。そんなわけで、俺は彼女をセシルさんと呼んでいる。
俺たちは言葉少なに作業を進めた。ベールには純白の絹が使われていて、それに細かいビーズや宝石がちりばめられる。デリア様がこれを身につけたら、まるで天使のように輝くだろう。
時折、セシルさんが俺の手元を見て「そこはもう少し緩めに」とか「こちらのビーズを使いましょう」とアドバイスをくれた。彼女の知識と経験には頭が下がる。俺も最大限の集中をして、このベールを完成させるために全力を尽くした。
そのベールはウェディングドレスに合わせて床に広がり、長いトレーンのように後ろにひきずるデザインの、エレガントでドラマチックな印象を与えるものだった。だから、そう簡単にはつくることはできない。時間をかけて少しづつ丁寧に編んでいく必要があった。
漁師だった俺がまさかグラフトン侯爵家で、ひとり娘のデリア様のための大事な結婚式に使うベールを編むなんてほんとに不思議だ。それに、セシルさんと目が合っただけで、天にも昇る気持ちになる。今のこの状況は、俺にとっては幸せそのものだった。
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「ゴロヨ小隊長には私の補佐になってもらいたい。これからもよろしくお願いします」
「嘘だろう? 俺なんかが副団長補佐なんてなれるわけがないよ。だって、俺はナサニエルと違って平民だぞ」
俺ら第9小隊員はナサニエルの直属の部下になれただけで満足だった。みんな、本当にナサニエルが大好きだし、これほど信頼できる仲間はいないからな。だが、俺はナサニエルの無謀さに呆れた。
(俺を副団長補佐にするなんてありえないぞ。ナサニエルは元貴族だったし、今は侯爵の地位に就いたのですんなり貴族出身の幹部たちとうまくやれるだろうに、俺なんかを補佐にしたら反発されるぞ)
俺はその点を指摘したが、「ゴロヨ小隊長を補佐にする」と言って譲らなかった。副団長補佐なんて貴族しかつけない地位のはずなのに、ナサニエルはこれを『新しい風』だと言った。
「これからは家柄とか地位よりも実力を重んじて、平民からでもどんどん幹部になれるようにしたほうが良いのですよ」
俺はナサニエルを支えると決めたから、その補佐を引き受けた。エリーゼ副団長はナサニエルが副団長になったことで訓練指導官になった。
「私は新人騎士や若い団員の育成に向いている。ナサニエルが副団長になってくれたほうがありがたい。休みも増えるしな。ブレインも領地でおとなしく待っているゆえ、たまには帰ってやらねばならぬ」
「夫婦仲が睦まじくてなによりですね。子供の予定はあるんですか」
「ばっ、ばか。そんなことを女の私に聞くな! ナサニエルが副団長になってくれたから、これから私も余裕ができる。まぁ、ぼちぼち、そのぉ、子作りに励むかと、ブレインと相談しておる」
「で、ブレインさんはなんと言っているのですか?」
「もちろん、あいつに意見などない。私の意見があいつの意見だ。夫婦は一心同体だろうが。はっはっはっは」
(うはぁーー。怖っ。それって相談じゃないぜ。まぁ、これだけ見事にブレインを尻に敷いてくれたら、俺たちとしては安心だけど・・・・・・)
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エリーゼ訓練指導官のように、平民の俺とでも気さくに話してくれる貴族もいれば、そうでない者も当然いた。いや、むしろ友好的でない貴族のほうが多い。
貴族出身の騎士たちの間では、ナサニエル魔法騎士副団長の補佐に任命された俺に対する不満が、日に日に増していた。彼らの多くは俺の出世を見下し、高貴な騎士団の幹部の地位にふさわしくないと感じていた。俺がかつて漁師であったという事実は、彼らにとってさらに受け入れがたいものだったらしい。俺の粗野な手つきや海風にさらされた肌は、高貴な血筋からはかけ離れた存在であることを物語っていたからだ。
(これは俺の人生の勲章みたいなもんだ。少しも恥じていないが、貴族の連中はやっかいだな。漁師はそんなに卑しい仕事なのかよ?)
特に、アルドリック・デュモン子爵が、俺の昇進に強い敵意を抱いていた。アルドリックは自身が次期幹部に選ばれることを深く望んでおり、野心的な彼にとって俺の昇進は許しがたい侮辱のようだった。アルドリックは、自らの洗練された魔法技術と貴族としての教育を誇りに思っており、俺のような平民が自分の地位を脅かすとは考えてもみなかったのだ。
アルドリックの挑発は、魔法騎士団の集会や訓練中に特に顕著だった。彼は俺の技術や判断を公然と疑い、平民出身を理由に侮辱することで、俺の名誉を傷つけようとした。アルドリックはしばしば、俺の過去の職業をからかう。
「ナサニエル副団長の補佐に選ばれるとは、ゴロヨ、お前も上手くやったな。平民出身がこれほどの地位につくなんて、騎士団も落ちぶれたものだ。貴族の中にもっとふさわしい者がいるというのに、この選択には納得いかんよ。漁師から騎士へと跳ね上がったとはいえ、海の匂いは消えないようだね、ゴロヨはやはり魚市場がお似合いだよ」
一回ぐらいなら我慢できる。二回、三回までならまだいい。だが、アルドリックは会う度にバカにしてくるのだ。
「お前、グラフトン侯爵家にレース編みに行っていると聞いたが本当か? 男がレース編み? しかも、デリア嬢のウエディングベールを編んでいるそうだな? ナサニエル魔法騎士副団長に取り入ったから、補佐になれたんだろ? 腰巾着が!」
これにはさすがの俺も・・・・・・




