58 腹心の友になれそうなデリア様(エレナ視点)
「こっ、これは・・・・・・その、えぇっと、ガーネット王国で作られているものでして、この国では手に入らないと思います」
「ガーネット王国ね? イシャーウッド王国の南側に位置する国だったと思うのだけれど、小さい国ながら素敵なところですよね。美しい海岸線や清澄な海の風景が楽しめたわよね。青い海と山々の絶景がガーネット王国を特徴づけているから、高級なリゾート地にして、高級ホテルやカジノ、ショッピングエリアを作ったら栄えるでしょうね」
「え? ガーネット王国は資源も乏しくて、外交的な影響力もないし、なにより国自体が狭いんですよ」
「狭いのは知っているわ。でも、他のことで頑張れるじゃないの? 例えば国が狭いぶん、治安を良くできるし犯罪率も抑えられるでしょう? ということは観光客は安心してそこに行けるということになるわ。そして景色の素晴らしさと、常に温暖な気候。これは、とても強みになることよ」
「つっ・・・・・・デリア様は素晴らしいです! 私、とても嬉しいです。ありがとう、ありがとうございます!」
「え? そんなに泣くほど感動しなくても。きっと、祖国を褒められて嬉しいのね? あなたのお名前は?」
「エレナです。エレナ・エリザベス・ガーネットですわ」
(いっけない。ミドルネームまで言っちゃった)
「エレナ・エリザベス・ガーネットね。エレナ様。ペーン様と一緒にディナーに招待しますわ。ふふっ。きっと、私たち良いお友達になれる気がしませんか? マナーは問題ないはずですわね?」
デリア様は私の名前を復唱して、ほんの少しだけ考えてからそうおっしゃった。
「・・・・・・はい。よろしくお願いします。私、ペーン様とさきほど友人になったばかりですが、お休みにはカフェに行くって約束しました。だから、この国にはまだいたいです」
(多分、デリア様には私の身分がバレている。エレナはたくさんいる。エレナ・ガーネットもまぁまぁいるかもしれない。でも、ミドルネームにエリザベスがはいるのは王女の私しかいない。だって、エリザベスはお母様の名前で現女王の名前だから)
「ペーン様。エレナ様を大切に守ってさしあげてくださいな。今この瞬間から、この方は私の大事な友人になりました。さぁ、エレナ様。屋台は初めての経験でしょう? 実はね、私もそうなのです。こうして平民の方と並んで、同じ空間で立ち食いするってわくわくするわ」
「立ち食い・・・・・・えぇ、わくわくしますわ。実は、私も初めてです」
隣にいるペーン様は首を傾げていたし、ゴロヨ小隊長もイアゴ様も不思議そうだった。ペーン様と完璧な恋人になれたら、私の本当の身分を話そうと思う。ちなみに、ナサニエル様はデリア様と同じで、私のフルネームにピンときたようだった。
私、お婿さん候補を見つけた同じタイミングで、素敵なお友達を見つけたわ。だってね、デリア様が私に言ってくれたもの。『今この瞬間からこの方は私の大事な友人になりました』って。こんなにストレートに好意を示してくれて、私の国を素晴らしい国と褒めてくれた。
いっぺんでデリア様のファンになったわ! 早速、今夜はお母様にお手紙を書こうと思う。そして、ガーネット王国の刺繍が施されたドレス生地を送ってもらおう。グラフトン侯爵家に招かれたのだもの。手ぶらでは行けないわ!




