56 罠にはめても心は手に入らない(エレナ視点)
ブレイン小隊長と別れてメイド部屋に戻ると、すぐに扉を叩く音がした。
「ナサニエルと同じ小隊員のペーンだ。話がしたいんだが、ここを開けてくれないか?」
「え? どういったご用件でしょうか?」
「うーん。ずばり言っちゃえば、ブレイン小隊長との会話を立ち聞きしてたのさ。そんな計画に乗ったらだめだ。絶対に君は幸せになれない」
扉の隙間からペーン様を見れば、茶色の髪と瞳の優しげな顔がにっこり笑った。扉を開けて中にいれると、彼は早速話を始めた。
「君はナサニエルが好きなんだよな? その気持ちはすごくわかるよ。俺らもナサニエルが大好きだからね。でも、本当に好きなら相手の幸せを考えろよ。ナサニエルが媚薬のせいで君とあやまちを犯して、デリア嬢と別れることになったら、ナサニエルが悲しむのはわかるだろう? 好きな人を君は不幸にしたいのか?」
「・・・・・・そんなつもりはないです。ただ、私はナサニエル様に振り向いて欲しいだけです。私を好きになってほしいだけなのよ」
「だったら、なおさらこんなことはやめるんだ。媚薬を使って誘惑してきた女性を、ナサニエルが好きになるはずがないだろう? 自分を罠にはめた女性を愛する男なんていないさ。よく考えろよ。ナサニエルから世界一嫌われる女性になりたいのかい?」
私は冷静になって、自分の身に置き換えてみた。とても大好きな男性と両思いで幸せの絶頂なのに、媚薬のせいで大好きな男性に振られてしまう想像よ。罠にはめた人を私は一生許さないわ。想像しただけで悲しいし、そんなことをした人間を愛せるわけがない。
「私は最低な女性になるところでした。自分がナサニエル様の立場だったら、きっと一生私を許さないわ。気づかせていただいて、ありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして。ちゃんと話せば理解できる良い子じゃないか。ナサニエルは売約済みだけど、騎士団にはまだ恋人がいない奴も多いから、あとで教えてあげよう。真面目でちゃんと君のことを愛してくれる男が見つかるといいな」
爽やかな笑顔で慰めてくれた。ペーン様はイアゴ様とゴロヨ小隊長に合流して作戦をたてるって言ってた。ブレイン小隊長が最も苦手な女性に一生隔離してもらうのもいいな、なんて呟きながら私の部屋を後にした。
「ペーン様には恋人がいるのですか?」
去り際に私が質問すると明るい声で答えてくれた。
「いないよ」
私はその言葉に少しだけ嬉しくなった。




